本当に伝えたいこと
「そう?じゃあ話を通してもらえる?」
「了解です」
□ □
「ねえ、家どこ?」
「さあ。魔女ですし空の上なんじゃないですか?」
「真面目に教えてよ」
「真面目に嫌ですね」
「もうすぐ夏休みだね」
「そうですね」
「会えないと寂しいなあ」
「会えないと嬉しいなあ」
「どうして君の返事はネガティブなんだろう?」
「どうしてイアの質問はネガティブになるようなことばかりなのでしょう?」
「・・・」
「あ、落ち込んだ?」
「じゃあ、僕のうちに遊びにおいで」
「落ち込んでなかった」
「ね、そうしよう」
「わかりました。うちに招待します」
「ほんとうに!?」
「庶民の家をしっかり見てください」
もうヤケクソだ。貴族の家に招待されても困るから、うちに来てもらうだけ。いつ来るのかとビクビク過ごすのも嫌だ。だったら日を決めてしまえばいい。
□ □
学園祭の趣旨を知ったエレノアが大はしゃぎだ。
「こんなの前代未聞ね!」
「そうなんです。ドレスを準備する期間も考えたらかなりのスピードが必要で」
「ではわたくしの御用達の店にも頼んでみるわ」
「あと、お知り合いの方々にスポンサーになってもらえないか尋ねてみて欲しいんです」
「わかった」
「夏休み明けに内容を発表するわ」
キアーラ様がニコニコと言う。
「学園祭は二学期の終わりだから、そのぐらいなら間に合うわよね」
□ □
「イア、昼休みに素材集めを手伝ってくれる?」
「もちろん!」
「今日は少しだけ山に近づいて虫を集めなきゃならないんたけど」
「あー!ごめん。用事があったの思い出した」
「そうなのね?・・できるだけ足がいっぱい生えてる毒虫を集めなきゃならないんだけど」
「そ、それは興味深いな・・残念だ」
耐えきれずに背中を向けて笑いをこらえる。
そうか、イアは虫が嫌いなのか。油断したら笑いが止まらなくなりそうだったので、必死に頬をつねった。
「アリー?」
「ん"ん」
「アリー?」
「けっほ」
「アリー?」
「・・・」
「笑ってるだろう」
もうダメだ。
できるだけ早足で逃げる。自分の顔がどんどんにやけてくるのが分かる。
角を曲がって適当な教室に入り、お腹を抱えて笑う。あの完璧なイアサントが虫を嫌いだなんて!
私だって毒虫は触りたくないけれど、それ以外は普通に触れる。
まあ、貴族さまだものね。本当は毒虫じゃなくて、蝶や蜻蛉を捕まえてきてと頼まれてるのだけど、イアの様子につい嘘を言ってしまった。
でもまあこれで今日、イアはついてこないだろうから魔法で簡単に集められる。
イアが面白いし、ついてこないしで思いがけないラッキーで上機嫌のまま裏庭を出て、少しだけ山に近づいて森を進む。
途中、念のため後ろを何度か振り返ったけど、誰もいなかった。
今日集めた虫は授業が終わり次第放すと言われているけれど、できるだけ負担をかけずに捕まえたい。
アリは瓶にお砂糖を入れてきたからすぐに捕まえられるだろう。
蝶は羽があるからできるだけそれを傷つけない柔らかい素材の網の虫かごに休める花を土ごと入れてきた。
あとはバッタかなあ。
バッタは見つけるのと捕まえるのに時間がかかりそう。
風で集められそうにないし、少し土を揺すってみようかな。
再度周りを確認してから、木のかげに身を隠す。
そっと手のひらで地面に触れて、反対の手で指を鳴らす。
パチン
草と土の表面が揺れて、ピョンとバッタが飛び上がる。
結構いるのね。
飛び上がったあたりを網ですくうと、五匹ほど捕まえることができた。
パキッ
背後で聞こえた枝を踏む音。
振り返るのが嫌だ。
「毒虫は捕まえないのか?」
「イアが捕まえて。本当は虫が平気なの?」
「いや、虫は本当に苦手だ」
この人はどこからどこまで見ていたのだろう
「この虫が多い場所までひっそりついてきたことを褒めるべき?」
「今のところ何も手伝っていないのだから、ホメてもらうところはないな」
□ □
諦めたようにためいきをつくアリーを見て、追求するのをやめることにした。
本当は土に触れて周りの草が揺れるところを見ていた。
彼女が魔法を使えることはもう確信している。
「知ってどうするの?」
そう訊かれたときに、彼女の不安が見えた気がした。
「僕だけが知っていたい」
そう言えば良かった。
あのとき素直に答えたつもりだが、最良の答えはこれだった気がする。
女性が望む上辺だけの言葉を適当に並べてきたせいか、本当に伝えたいことはすぐに思い浮かばなくなっているのかもしれない。
□ □
「今日の荷物は重くないから持たなくても大丈夫だろう」
「ぷ」
「我慢しろよ」
「うっ・・く・・」
「・・持ってやるよ」
「はい」
「そんなすぐに渡さなくても」
「イアサント様は虫なんて怖くないですよね」
「敬語はやめてくれ」
「イアは、虫、が」
「最後まで言えずにコロコロと笑うんじゃない」
「うー・・」
「そんなにおかしいか」
「ひ・・」
「そろそろ校舎につくぞ」
「虫かごかして。あとは私がやります」
「そんな追い払わなくても」
「もう笑い疲れてお腹が痛いの・・お願いだから先に戻って」
「しょうがない奴だな」
□ □
「見た?」
「見ました」
「イアサント様がものすごく幸せそうに見えた・・」
「あの地味な子、あんな感じだったかしら?」
「私、なぜかあの子とイアサント様の楽しそうな様子を見て、幸せな気分になってしまったわ」
「わかります。わたくしも」
「イアサント様と親しくなりたい私達としては、あの子を問い詰めたりいじめたりするのが普通ではなくて?」
「あんなに楽しそうなイアサント様を見るのが初めてだし、あの子といるとあんなふうに笑うイアサント様を見られるのであれば・・邪魔したくないです。悔しいのに」
「わたくしも」
「私も」
「不思議ね。悔しいのに幸せな気分だなんて」
「そうですね」