みんな魅力的
「絶対違いますよね、それ」
教室に戻るまでずっとこんなやり取りで、席に着くとぐったり倒れ込んだ。
□ □
「なんでそんなに疲れているんだ?」
「ちょっと普段使わない範囲の気力を使い果たしたの」
「午後持つか?」
「が、頑張る。フィンの優しさが染みるぅ」
「午後持つか?って尋ねただけだぞ」
「うん。でも染みたんだよね」
「変わったやつだな」
「だてにフィンの中身を勝手に観察してきてないから」
「いつから観察してたんだ?」
「えーっと・・入学してすぐの頃だと思う。いつも誰も気が付かないようなところに気がついて優しさが溢れてこぼれてたよ」
「そんなことしてたか?」
「エレノア様を助けてたのもそうだし、みんなが歩くところに枝とか石とか落ちてたらどけてるのも見てたし、むしろみんななんで気がついてないのかな?って思ってたよ」
「小さいことだな」
「フィンのこと、エレノア様もちゃんと気がついてるよ。分かる人にはちゃんと分かるんだと思う」
「なんか・・照れるな」
「フィンが照れた!!」
「からかうな」
「ごめん」
□ □
ぐぬぬぬ
フィンのクラスの前を通るときにチラッと見たら、アリーチェとフィンが仲良さそうに話してた。
なぜあんなに自然に仲良くできるのかしら?あの二人。
つい最近アリーチェのことを大好きだと思ったのに、嫉妬で少し悲しくなる。
わたくしも・・フィンと仲良く話したい。アリーチェのことも嫉妬したりせずに仲良くなりたい。
□ □
「結局、あなたへの興味を私に移すことはできなかったわ」
「・・そ、そうですか」
「それでね!少し悔しいし、さみしいし嫌なんだけど・・」
「はい?」
「イアサント様を好きでいることを卒業することにしたの!」
「はいぃ?!」
「あなたのおかげで、イアサント様とかなり近くでお話できたし、最大限の魅力を振りまいたつもり」
「キアーラ様のコミュニケーション能力の高さと可愛らしさを私も堪能させてもらいました!」
「でしょう?頑張ったもの。でも、イアサント様には何も響かなかったの。もうそれは認めるしか無い」
「あの人がおかしいんですよ、絶対」
「まあ、あんな素敵な方をそんな言い方をしてはダメよ」
「ううっ・・・キアーラ様が尊い」
「ちょっと!泣くこと無いじゃない」
「だって本当に素敵です」
「でしょう!わたくし、自分の顔も嫌いじゃないけれど、性格はもっと好きなのよ」
「素晴らしいです!」
「そんな私の魅力を感じてくれない殿方にいつまでも想いを寄せているのって、無駄なのよ」
「はい!わかります」
「あなたがあの機会をくれなかったら、卒業まで希望を捨てきれずにいつまでもイアサント様を慕う女生徒の1部として終わるところだったわ」
「なんという思い切りの良さ」
「でしょう!私は私のことを本当に好きになってくれて、大切にしてくれる人と結婚したいの。学園生活でそんな人と出会うために、今イアサント様をお慕いすることをやめられて良かったわ」
「!!」言葉も出せずに大きく頷く。
「あなたを助けることには繋がらなくて申し訳ないのだけれど」
「あの日だけでも助かりましたし、キアーラ様に謝っていただくようなことは何もありません!」
「そーお?」
「はい!」
「それじゃあ過去は気にせず、仲良くなりましょう?」
「是非!」
「私ね、冬の学園祭りの実行委員を任されてるのよ」
「はい?」
「私の出会いのためにも、今までになかったような催しを考えたいの」
「はあ・・」
「ねえ!是非あなたの知性を貸して」
「はあ?」
「イアサント様が興味を持つぐらいだもの、あなたのその地味な外見からは想像つかないぐらいきっと個性的な輝きを持っていると睨んでいるわ」
「持ってないです!」
「いいえ。あなたとイアサント様とのやりとりを見ていて確信したの。一緒に考えましょう!」
「・・一緒に考えるぐらいなら。お世話になったことですし協力します」
「やったわ!前代未聞の学園祭にしましょうね」
「ぜ、前代未聞って」
「楽しみになってきた」
嬉しそうに笑って、ふわふわと上下に揺れて立ち去るキアーラの後ろ姿を見ながら、あの人は歩き方まで魅力的なのかと感心する。
□ □
「ちょっと話があるの。付き合って」
そういって手をしっかり掴まれて連れてこられたのはまた調理室。
「お好きですね、調理室」
「たまたまよ。ねえ、あなたソーレ嬢とも仲良くなったの?」
「ソーレ嬢?・・・キアーラ様のことですか?」
「ええ。もう名前で呼び合うほどなのね」
「仲良くなりました!」
「フィンとも仲が良いし、一体どうしたらそんなにすぐに打ち解けられるの?」
「性格じゃないですか?」
「身も蓋もない返事ね」
「うーん・・・思ったこと・・良いと思うことに限り口に出すようにしてるんですよね。・・イアサント様の場合だけはそれが難しいことになってるんですけど」
「そうよ!あなたいつの間にイアサント様とも仲良くなったの?」
「決して仲良くは・・・」
「そう?まああなたはあまり楽しそうには見えないけれど」
「とにかく!素敵だと思ったらそのまま伝えるようにしますし、自分の基準で良くないと判断しても積極的に口に出すことはありません」
「それが人と仲良くなる秘訣だと?」
「そうですね・・正確に言うと、嫌だなと思う人があまりいないというか、逆に特に誰かと友達になりたいとも思ってないというか・・」
「無欲だと?」
「そうかもしれません。あ、でもフィンのことは人間として尊敬してますし大好きなので仲良くなりたいと思いました」
「あなた・・フィンのこと好きなの?」