言い合いは合う?
「僕は君に夢中だ」
「ははは」
こんなにも甘さのない告白があるだろうか。迷惑極まりない。
「アリーチェ!そろそろ戻らないと時間がないぞ」
「いつもありがとう、フィン」
葉を入れた袋と、白い花の袋をそれぞれフィンとイアサントが持ってくれたけれど、校舎が近くなるとイアサントを探す女子の訝しげな視線とエレノアを熱い目で見つめる視線が突き刺さってきたので、二人にお礼を言って先に教室へ行ってもらった。フィンと準備室に寄る。
「ところで、なんか困ってる?」
「ええ」
「僕に何かできることあるか?」
「ううん、今のところ何も無い」
「そうか」
「フィン」
「なんだ」
「来世で結婚して」
「なんで来世なんだ?」珍しく柔らかい笑顔になる。
「今世は諦めた」
「なんだそれ」
二人で笑いながら歩いて私の気持ちも回復した。
□ □
「夢中って夢の中って書くんですよね」
「それがどうした?」
「たぶん今、私は悪夢の中にいますね・・これ」
「おかしいな。大抵の女の子は僕とご飯を食べることを喜んでくれるのに」
「あは。全然嬉しくないです」
「くくっ」
「今、笑うところでしたか?」
「本当に嬉しくなさそうだなと思ったら楽しくなった」
「うふ。イアサント様の楽しみが迷惑極まりないですね」
「喜んでもらえるまで毎日ランチを一緒にとろう」
「暗殺されるかも」
「大丈夫だよ。僕が守るし。なんなら君も自分のことを守れるよね?」
「・・・」
しつこい。こんな人だったのか。顔だけで補えなくなってきた。
「私の精神的苦痛を想像してみてください」
「うん?」
「見てあの地味な女!なんであんなのがイアサント様と一緒にいるわけ?あんなのといて楽しいはずがないわ、ちょっと階段から突き落としてしまえばとりあえず消えるんじゃない?」
「・・・」
「という気持ちをふんだんに込めた視線が突き刺さって来ています。階段を颯爽と駆け下りることが不可能になりました」
「大げさだな」
「覚えておいてくださいね」
「何を」
「こんど何かイアサント様が私のように辛い目にあったとき、おなじように『大げさだな』って半笑いで言って差し上げます」
「悪かった」
「悪かったと思うなら、もうランチをご一緒したくありません」
「明日もよろしく」
「耳ってご存知ですか?」
「うん?」
「人の言葉をしっかり受け取る器官です。文字で書いて理解を推し進めましょうか?」
「明日も一緒にランチしよう♡って誓約書を書こう」
「ぐぬぬ」
「あはは」
□ □
「なんなのあれ?」
「イアサント様があんな風に笑うの初めて見たわ」
「なんであんな子がイアサント様を笑わせられるわけ?」
「しかも見て、腹立たしいことにあの子は嫌がってるのにイアサント様はものすごく楽しそう」
□ □
「ごきげんよう、ソルタントさん」
「・・ごきげんよう」
「突然話しかけてごめんなさい」
「いえ」
「ねえ!どうやってイアサント様と仲良くなったの?!」
「わ、わからないです」
「そんなはずないわ!お願い、独り占めしないで教えて」
「私もわかるなら是非教えたいです!それでもう関わりたくないです」
「やはり嫌がってるのね」
「嫌だと言っても聞く耳をお持ちじゃないので」
「では是非、私達と一緒になにか作戦を考えましょう!」
「た、助けてもらえるのですか!?」
「もちろんよ」
にっこり笑ったチャーミングな子はキアーラという名前だと教えてもらい、キアーラの友達と一緒に4人でこそこそと廊下の隅っこで作戦を考えた。
「とりあえず、明日は私達も一緒にランチしてみましょう?」
「お願いします!」
□ □
「みんなで食べるととても楽しいですね」
イアサントと二人きりじゃないというだけでも嬉しいのに、キアーラ様がとても気さくで楽しい。
そういえば、いつもイアサントの周りにいたかも。こっそり鑑賞するときには、イアサントの顔に集中しているため、どんな子がいるのか良く見ていなかった。
ただ・・
キアーラがイアサントに話しかけて、イアサントが私に話しかけて、私がキアーラに話しかけるという三角形で進行中だ。
「アリーチェの誕生日はいつかな?」
「秋です。キアーラ様の誕生日はいつですか?」
「私は8月30日よ。イアサント様は12月13日ですよね!」
「そうだよ。アリーチェ、季節じゃなくて日付で答えよう」
「日付ですね・・・キアーラ様は夏に生まれただけに夏はお好きですか?」
「ええ、好きよ。イアサント様は冬が好きですか?」
「あんまり。日付で答えたくないなら、星座なんてどうだ?」
「色んな星座がありますが気にしたことなくて。キアーラ様は星座とか気にしますか?」
「イアサント様とわたしの星座の相性を調べたことがあるわ。イアサント様が星座に興味があるなんて初耳です」
「それほどでも。魔女座ってあるのかな」
「ぶっ!!」
「あらやだ、アリーチェ大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。制服を汚してしまったのでこれで失礼します!」
「汚れ落とすの手伝おうか?」
「いえ、はずかしいので遠慮します。では失礼」
「アリーチェ、またね」
ひらひらと手を振り、イアサントの注意を引いているキアーラを見て、なんて頼りになる人なんだと感心する。
早く紅茶の水分をシャツから抜かないとシミになってしまう。慌てて化粧室に駆け込んで指を鳴らす。
すっと紅茶のシミが繊維から抜けて乾く。
「よし!」
□ □
「短い時間で随分綺麗に乾くんだね」
「ひっ」
「どんな魔法みたいな技を使ったのかな?」
「しょっ・・庶民には色んな秘技がありますの、ほほほ」
「それを是非教えて欲しいんだが」
「キアーラ様たちとの食事・・いえ、それよりも女性用の化粧室の前で待ち伏せは今後やめてください」
「それは・・確かにそうだな。わかった」
「っ・・素直」
「君も素直になれよ」
「素直が急にわからなくなりました」
「嘘をつかないってことだよ」
「・・・違う気がします」
「僕に嘘をつかなくて大丈夫ってこと」
「ごめんなさい、イアサント様のことをそこまで信頼できる根拠が見当たりません」
「ふうむ・・ということは、僕を信用できるようになれば秘密を打ち明けてくれるということかな」
「素直とは何かという話に戻しましょう」
「だから僕に秘密を打ち明けることが素直ということだ」
「絶対違いますよね、それ」
教室に戻るまでずっとこんなやり取りで、席に着くとぐったり倒れ込んだ。