壊すのは現状
私の救世主が現れた。
「エレノア様!ここです」
大きな声で答えると、光を浴びてさらに美しく見えるエレノア様。
「こんな奥にいたら見つけられないわ」
文句を言っている口調なのに、顔はにっこり笑っていて器用だ。
「す、すみません」
「あら」
「やあ」
「どうしてレグナさまとアリーチェが一緒にいるの?」
「あ、偶然です!エレノア様、始めましょう?」
「え、ええ」
「僕も手伝うよ」
「え」
「人数多いほうがいいんじゃないか?」
「まあ・・はい」
「では、赤い葉とカメレオンの花と・・黄色い葉を」
「赤い葉はこの種類でいいのか?」さっき風で集めた葉を拾って渡される。
「はい、それで。カメレオンはこの花です。黄色い葉は数枚でいいので私が探します」
「ほう?」眉を上げて問いかけるように見られたので目を逸らす。
「フィンはまだなの?」
「フィンには用事があればそちらを優先してほしいと伝えてあるので・・」
「遅くなった」フィンが合流する。
「今日は随分人数が多いんだな」
「アリーチェに頼まれましたの」頬を染めてフィンを見つめるエレノアに「もしや?」と淡く思った。
「僕はたまたま居合わせたんでね」
もう一度集めるものを説明してそれぞれ散らばり、先程風で集めた葉はイアサントが拾ってくれている。思ってた以上に疑われていたのか・・こんなところに隠れているほどに。
今のところなんの証拠もないし、証明することもできないだろうからそこまで心配していないけれど、この先の学園生活の不便さが増す気がする。
あれこれ考えつつカメレオンの花を探して歩いているとエレノア様を見つけた。
「見つかりますか?」声をかける。
「いくつか見つけたけれど、これで合ってるわよね?」
差し出されたのはハンカチに包まれた白い花で、確かにカメレオンの花だったので
「合ってます」と答えると
「良かった!」と眩しい笑顔。
「あの・・」
「なあに?」
「もしかして・・エレノア様はフィンのことが」
「どっ」
「ど?」
「どどどうして」
「わかりやすすぎます」
「・・・そん・・なに?」
しっかりはっきり頷いて肯定しておく。
「バレたついでに親友のアリーチェに尋ねるわよ」
「いつの間に親友・・」
「あら、親友じゃなくて?」
「親友です」逆らうと怖い気がする。
「そう、親友のあなたに訊くわ!フィンとどういう関係?」
「どうもなにも・・友達で同級生です」
「それだけ?」
「まあ・・学園で1番中身が素敵な男性だと思っていますが」
「なっ!」
「エレノア様もそう思うでしょう?」
「・・ええ、思います」
「フィーーン!」大きな声でフィンを呼ぶ。
「なんで?!」
「なんだ?」
「呼んだほうが早いと思って」
少し離れたところにいたフィンがやってくる。
「材料集まった?」
「このぐらいだな」
見せてもらうと、エレノア様と同じぐらいの花を集めていた。
「あと10個ぐらいあればたぶん先生も満足すると思う」
「そうか」
「あ、エレノア様もフィンが1番素敵だって!」
「ふぇ」エレノア様から踏み潰されたような音がした。
「やっぱり分かる人にはわかるのよ」
「・・・」
「あ、エレノア様ごめんなさい」
エレノア様が真っ赤になって顔を隠してしまった。
「私が残りを探してくるから、フィンはエレノア様をお願いね」
そういって二人を残して移動する。
エレノア様は色々とプライドが邪魔しているようなので、これぐらいパパっと自分の気持ちを暴露されるぐらいのほうがいいのでは?なんて思った。
これで上手くいかないなら、そのときは私もチャンスがあるかもだし。そのチャンスが欲しいのかどうかはわからないけど。
□ □
ふむ。真っ赤になっている女性の対処法はなんだろう。
顔を伏せて下を向くから赤みが引かないのだ。
「あの」
「なんでしょうか」
くぐもった声の返事が聞こえる。
「赤みは上を向いて血の気を下げ、皮膚の温度は新鮮な空気にあてると良いと思う」
これが完璧な対処法だろう。
「え」
「僕は後ろを向いているから、その間に実行してみてくれ」
くるりと後ろを向いて目視で花を探す。
「カメレオンの花には肌荒れ防止の効果があるが、君は肌荒れしているわけではないだろう?」
「え、ええ」
「集めている赤い葉に何か効果があるという記憶はないから、何か違う用途で使うのかもしれないな」
「あ、あの・・」
「なんだろう」
「いつもアリーチェのお手伝いを?」
「いつもではないが、最近よく手伝っている」
「わたくしも手伝いたいですわ!」
「それは僕に言われても。アリーチェに言えば喜ぶんじゃないか?」
「いえ・・あの・・」
「もう振り返っても大丈夫か?」
「ええ」
「ああ、赤みは引いている。僕のことを褒めてくれてありがとう」
「本当のことですから。前も助けて頂いて、嬉しかったんですのよ」
「当たり前のことをしたまでだ」
「あの・・・その・・」
「ん?」
「私もあなたと友達になりたい」
「僕で良ければ。じゃあ今日からよろしく」
「へ」
「ん?」
友達になりたいと言われたからよろしくと答えたが、何かおかしなことを言っただろうか。
「いえ、よろしくお願いします」
□ □
や・・・
やりましたわ!!
プライドの芯をポキンと折って、友達になりたいと伝えられましたの!
友達ってまず何をするのかしら。まあその辺はアリーチェに尋ねましょう。
さっきアリーチェにバラされたときには「許せない!」なんて思ったけれど、アリーチェったら私の背中を押してくれたのね。
やだ、アリーチェ・・好き。
□ □
少し先にイアサントがいたので声をかける。
「かなり集めることができたので、もう充分です」
「この風で集まった分の赤い葉だけで足りたのか」
「ここに来るまでにも集めたので」
「ほう?君が来た時に葉を持っていたようには見えなかったが」
「・・・死角だったんじゃないですか」
この人はどれだけ私を観察してたのだろうか。目を合わせるとこれ以上嘘が出てこなくなりそうで、こんな近くで綺麗な顔を拝めるチャンスを泣く泣く捨てた。
「面白い」
「・・・」
「僕は君に夢中だ」
「ははは」