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バレない魔法

「おかしい・・」

最近、私を観察する目が増えた気がする。




まさかのエレノア様。


あの何もかも恵まれた美しい人がなぜ私を見ているのだろう。


イアサント様に観察されていない貴重な時間で、イアサント様を観察する私を観察するエレノア様。


なにこれ。


まさかエレノア様も私が魔法を使うか監視してる?


「あ、いたいた。すまないが今日も頼めるか?」


「・・今日は何を集めるのでしょうか?」


「今日はできるだけ綺麗な赤い葉を100枚、カメレオンの花を30個頼む」


「ちょっと多すぎます!赤い葉は裏庭の植物だと少ないし、カメレオンなんて咲き始めたばかりじゃないですか」


「そこをなんとか!君の探す能力の高さを見込んで。その代わり、もし今度の試験で赤点だったとしても合格にしてやるから」


「赤点なんて取ったことありませんし、成績も良い方です!」


「じゃあ・・研究所に推薦書いてやる」


「・・・本当ですか?」


「実は君の働きぶりを研究所の所長に話したら、研究所に欲しいと言われててね。それだけでも研究所に入れるが、君が入りたい部署に推薦してやれる」


「・・・わかりました」


「その代わり、君が卒業するまで材料集めをよろしく頼む」


「ぐぬぬ」


「頼りにしてるぞ!」


そう爽やかに笑って立ち去るニコラ先生は、優しくて誠実で実は大好きな先生だ。かなり大雑把なので、私がどうやって集めているのか追求されたことがない。


「今日のは魔法使わないときついかしら・・」


でも、監視の目があるからできるだけ使いたくない。荷物は軽そうだけどフィンにお願いしてみよう。この時間ならフィンは教室かな。フィンのクラスへと歩いていると、前方からフィンが歩いてきた。


「フィン!」偶然が嬉しくて足取りが弾んでしまう。


「どうした?」


「あのね、また手伝ってもらえる?」


「ああ、いいよ」


「ありがとう!もし用事が他にできたらそっち優先してね。お昼休みに裏庭で集めるから」


「わかった」


簡潔な言葉で会話が弾むことはあまりないけれど、全てが誠実だと伝わってくるから余計な言葉なんて必要ない。弾んだ足取りで自分の教室へ向かっていると、後ろから急に引っ張られて調理室へと引き込まれた。


「ええっ?」


目の前にエレノア様がいる。


「ねえ、あなたのお名前教えて」


「あ、えっと・・アリーチェ、アリーチェ・ソルタントと申します」


「私はエレノア・フィオレ」


「存じてます」


「そう。なら話が早いわ。あなたのことをアリーチェと呼んでもよろしくて?」


「は、はい!もちろんです」


「私のとこはエレノアと呼んで」


「滅相もない!エレノア様と」


「・・まあいいわ」


「はい・・」


「というわけで、わたくしたちは今日からお友達よね?」


「へ?」


「なんて間の抜けた顔をするのよ」


「あ、すみません」


「友達になりましょう?」


「は、はい」


「何か困ってることがあるでしょう?」


「いえ?」


「あ・る・わ・よ・ね」


にっこり笑いつつ奥歯は噛み締めたまま言われるとすごい迫力で、嫌な汗が出てきた。


「あー・・あるような?」


「そうよね!それ、手伝ってあげますわ。フィンと一緒に」


「ああ!材料集めですね。はい・・それは助かります」


「で?」


「・・で?とは」


「いつどこに行けばいいのかしら?」


「あ、はい!えーっと・・お昼休みに裏庭です。私は先に行って探し始めてると思うので、昼食が終わり次第合流してください」


「わかったわ。ではお昼休みに」


そう言って優雅に音も立てずに調理室から出ていった。


「・・どういうこと?」


思わず疑問が口から出たけれど、自分の中からは答えが出てこない。


□  □


お昼は裏庭でサンドイッチを食べればいいかと思い、授業が終わると同時に裏庭の1番奥へと向かう。


道すがらカメレオンの花や赤い葉を探してみたけれど、群生しているところは見つからず、ポツポツと生えている。


正直、魔法を使用できれば一瞬で集められるのに今はそれができない。


サンドイッチを食べながら、効率的に探す方法を考える。

ちょっと風を起こすぐらいならバレないわよね・・


今なら誰もいない。今日は風がない日だけど・・・ほんの少し吹かせて葉を集めてもいいかしら・・

イアサント様も昼食を摂るだろうから今は来ないだろう。


木陰で軽くパチンと指を鳴らす。


別に指を鳴らさなくても発動できるのだけど、癖になってしまっていて、このほうがはやい。


ブワッと風が吹いて、カサカサと葉が揺れる音がする。


季節的にあまり落ち葉はない。赤い葉はしっかり木にくっついているので、木に当たるときに風に回転を加えた。道沿いの木には当てず、奥の木の後ろ側だけにしておく。


サンドイッチを食べ終えて立ち上がる。


つい魔法を使っちゃったけど、この使い方でバレることはないはずだ。念のためすぐに葉を拾いには行かない。


カメレオンの白い花を探しながら歩く。

花を5個ほど採集した後、風を吹かせた辺りに回る。


「ひっ!」


大きな木の裏に、イアサント様がいた。


□  □


「こんにちは」


面白がっているかのような目元に、少しだけ上がった片方の口角。


か、かっこいい・・・


思わず見惚れそうになって、慌てて頭を振る。


「こんにちは!すみません、いらっしゃるとはおもわなくて」


「構わない。隠れていたんだから」


「そ、そうですか。では」

お辞儀をして立ち去ろうとした。


「ねえ、君は魔法が使えるの?」


「っ!」


ギクリと立ち止まってしまう。


「ここで休んでいたら、いたずらな風が赤い葉だけを摘んでいったんだ」


「それは・・いたずらな風ですね、本当に」


「そんなことあると思う?」


「さあ?」


「誰かが赤い葉を集めているかのようだった」


「あらまあ」


「ところで君は、何を集めているのかな?」


「うぐ」


「当ててみせようか」


「カメレオンの花を探してるんです!」


「それだけ?」


「ついでに赤い葉もあると助かるなあ・・なんて」


「当たったね」


にっこり笑うイアサント様の歯が見えた。


「あ、歯」


「え?」


「いえ」


イアサント様の歯を初めて見たような気がして思わず口に出してしまっていた。


「葉は黄色いものも探してます」とっさに嘘をつく。


「なるほど?」


「・・・」いたたまれず固まってしまう。


「アリーチェ!どこにいるの?」


私の救世主が現れた。

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