観察?
「怪力なの・・か?」
いつもの癖で顎に指先を添えて首を傾げているとドアが開いた。
「なんだ、レグナ。ソルタント君を手伝ってくれたのか」
「え?」
「彼女は物を集めるのが上手でね。いつもどうやって運んでくれるんだろうとは思っていたが、手伝ってくれる男子生徒がいたのか」
「・・・」
「助かった。また彼女が困っていたら手伝ってやってくれ」
□ □
それとなくあの地味なソルタント嬢を観察しようと思っていたのに、あまりにも特徴が少なくて、本当にあのときの女子生徒かどうか自信が持てない。
たぶんあの子だよな?
ひとつだけ言えるのは、今まで僕の側に寄ってきたことがない子だということだ。
全く見覚えがない。また何か荷物を軽々と運んでいたら確信が持てるのに。
□ □
「おかしい」
時々、イアサント様に見られている気がする。
柱のかげからそっと横顔を盗み見たり、窓辺から頭頂部や後ろ姿を見つめたり、相手に気づかれるような観察の仕方をしていないはずなのに。
まさか私を見つめたりはしないだろうと、自分の後ろを何度も振り返って確認するけれど、何もない・・。
こんなことで「やだ、私のことが気になるのね」なんて思えるほど能天気な性格ではない。
彼は私など見ていないだろう。だけどもし、彼が私を見ているのだとしたら・・魔法が使えるところを見られた可能性がある。
イアサント様に疑似恋愛する楽しさよりも、魔法が使えることを隠すことのほうが何十倍も重要だ。
「気をつけないと」
まず、何か頼まれたときはフィンに手伝いをお願いすることにした。
「フィン!申し訳ないんだけど、石を集めるのを手伝ってもらえないかな?」
「いいよ」
フィンは本当に親切だ。昼休みに一緒に小石を集め、二つの袋に分けて持ち運べば魔法を使わなくても余裕だった。
「ありがとう。助かった」
「いつもこんなことやってるのか」
「うん。でも評価をプラスしてくれるらしいから。あ、フィンに手伝ってもらったこともちゃんと報告しておく」
「その必要はない」
「・・・さては、最高評価でこれ以上上げようがない?」
「ああ」
「さすが!」
「勉強ぐらいしか取り柄がないしな」
「だから言ってるじゃない、中身が最高だって!」
「そんなことを言うのは君ぐらいだよ」
「あ、私のことはアリーチェって呼んで」
「アリーチェ」
「うん!いい感じ。大事な読書の時間を奪ったお詫びに、はい」
「これはなんだ?」
「昨日、お母さんとお菓子作ったの。嫌いだったら捨てるか誰かにあげてね」
「甘いものは好きだ」
「いつも頭使ってるからだね。助かった、ありがとう」
準備室の前でフィンを見送った後、部屋に入る。しばらくしてからそうっとドアを開けてさりげなく右側を探る。
いた。
イアサントだ。
女子に囲まれているけれど、別にそこで立ち止まる必要はない。
やはりしばらく気をつけないと。
□ □
「いったいどういうこと?」
最近よくあの地味な女子とフィンが一緒にいる気がする。
今日もベンチで読書しているフィンに平然と話しかけてどこかへ一緒に行ってしまった。
「わたくしなんて鳥のフン待ちなのに!」
フィンの近くでひたすら鳥のフンが落ちてくるのを待つ日々。
さすがに気がついているわ。なんて不毛なのかって・・。
思えばあの日は奇跡だったのだ。あんなところで鳥のフンが落ちてきて、それをフィンが拭いてくれるなんて。
偶然をただ待っていてはダメなんじゃないかしら・・・
この私が歩み寄るなんて・・っていうプライドって恐ろしく邪魔なんじゃないかしら・・
あの地味な女子のおかげで最近は自分のプライドをどうすれば捨てられるのか考えてしまう。
「まずは自分からフィンに話しかける勇気よね」
心で呟いて木の陰から立ちあがった。何かに隠れていないと1人になれないのも困る。フィンの隣のベンチに座れば、すぐに誰かがやってきて話しかけてくる。
「フィンと話してれば誰も近寄らないわよね?」
そうは思っても、本に集中しているのを邪魔したくないと思ってしまう。
「・・・そうよ!」
いいことを思いついた。
□ □
「おかしい・・」
最近、私を観察する目が増えた気がする。