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見えなかった角度

「本当に僕だとバレないと思う?」

「ええ。絶対に」




「だったら1度だけ無茶をしてみることにする」


「当日は全力でメイクしてもらうから!ちゃんと美容師さんも10人手配済みなの。性別を超えるメイクは私の幼なじみがやるから守秘義務も完璧なのよ」


「そうか」


「問題は眼鏡よね。今、私の顔見えてる?」


「ぼんやりと。歩くのはさほど問題ないけど段差にはつまづくかもな」


「歩けるならなんとかなるかな・・それ以外のこともいつでもなんでもサポートするから言ってね」


「ありがとう。自分を変えるにはこれぐらいぶっ飛んだほうが・・」


「うん!」


まさかフィンがこの提案にのってくれるとは思わなかったけど、見た目にあまりに無頓着な人とは違って、自分を変えたいけど変わり方がわからないという印象を感じていたので、了承してくれて嬉しかった。



□  □


「エレノア!」


「あら、こんにちはイニャツィオ」


「名前で呼んでくれた」


「ええ」


「参ったな。すごく嬉しいよ」


「こんなことでそんなに喜んでくれて嬉しいわ」


「何か手伝えることあるか?」


「今のところ・・思い当たらないけれど、もし手が必要なら頼んでもいいのかしら?」


「ああ、もちろん」


「じゃあ、みんなに何かあるか尋ねてくる」


「一緒に行くよ」


二人で歩いても以前のような嫌な気持ちはない。街で出会い、ゆっくり話して以降は自分の気持だけをぶつけてくるような関わり方をしてこなくなった。


「すごいこと考えたんだな、今年の学園祭」


「すごいわよね、ほんと。手伝っていてもとても楽しいのよ」


「すごくワクワクしてるんだ」


「そうなの?」


「君がどんな姿をしていても、見つける自信があるからね」


「・・え?」


「だてに何年も追い回してないさ」


「何年も追い回されたのに、あなたのことを何も見ていなかったのかも」


「逃げてばっかりだったもんな」


「それはあなたが悪いのよ?」


「大丈夫、ちゃんと自覚したから」


「・・ごめんなさい、悪いなんて言って」


「いや、本当のことだ」


そんな風に話していたら、実行委員の部屋に着いた。


「ちょっと待っててね」



□  □


「イニャツィオ様が力を貸してくださるの!?」


キアーラが興奮してはしゃぐ。


「ええ、本人がそう言ってるわ」


「あの方とてもおしゃれでしょう。是非男性の衣装を着る女生徒のアドバイスを頂きたいわ!」


「お、おしゃれ・・」


「何を今更戸惑っているのよ、エレノア。イニャツィオ様は値段に囚われず色んなものを使いこなす上級者よ」


「知らなかった・・」


「追いかけ回されて避けていたものね」


「最近、避けてはいないのよ」


「あの方があんなにもあなたに夢中じゃなければ、イアサント様の次に人気だと思うわ」


「・・・知らなかった」


「ふふ。知らないことばかりじゃない。とにかく!試着室に入れるわけにはいかないけれど、今ひとつ着こなせていない人達への的確なアドバイスが男性視点からほしかったのよ」


「では試着室隣の部屋にスタンバイして見ていただきましょうか」


「そうね。悪いけどエレノアも同席してもらえる?」


「そうね、女生徒と二人きりというわけにはいかないものね」


「私もときどき代わるから」


「わかったわ」


□  □


「男性の衣装を着たがる女生徒は何人いるんだ?」


「ざっと20名ほど」


「結構いるんだな」


「ええ。私も着てみたいと思っているの」


「エレノアが!?」


「ええ。ふふ」


「今、僕にそれを言っていいのか?」


「大丈夫。まだ何も決めていないから。当日のお楽しみ」


「じゃあエレノアにアドバイスはできないんだな」


「それはイニャツィオ先生のアドバイスを間近で聞いて活かすことにするわ」


「君なら完璧な男装だろう」


「だといいけど」


□  □


「見ちゃいましたね」

「見てしまったわ」


「あの子のいない時間を狙って、様子を伺いながら机に届けて、休み時間にわざわざ教室の前を通ってチェックしてらっしゃるのを」


「ここはわたくしたちが手助けするべきかしら?」


「私達が自分で自分のチャンスを手放すようなものではなくて?」


「だけど・・あの楽しそうに笑うイアサント様が見たいわ・・」


「そもそも、私達って有象無象の扱いのような気が」


「やめて、それはさすがに寂しすぎるわ」


「ほら、イアサント様を諦める事になったとしても、今度の学園祭には恋のチャンスが転がりまくってる気がいたしません?」


「確かに」


「この中の誰かがイアサント様に選ばれたとしたら、私達が険悪になるのも寂しいです」


「そうね・・でもイアサント様に選ばれた方を時間がかかっても祝福したいと思いますわよ?号泣するとは思うけれど」


「あわよくば、このまま私達のアイドルでいていただいて、たまに笑顔を見せてもらい、たまにあの子にヤキモチを焼くヒリヒリ感を楽しみたいのだけど」


「やだ、それを言っちゃダメよ。リアルすぎて夢が見られなくなる」

  


□  □


「イアサント」


「なんだろう」


「アリーチェからの伝言だ。『実行委員の仕事が忙しい今、材料集めの手伝いは本当に助かったけど、先生の評価をもらうためにもこれ以上の手助けは不要です』だってさ」


「手助けもさせてもらえないのか・・」


「あんな頑ななアリーチェを見るのは初めてだったな」


「・・」


「言いたくないなら構わない」


「よくわかっていないというのが現状かな。彼女を理解できていなかったのが原因だというのはわかるんだが、それ以上よくわからないんだ」


「そうか。彼女は他人を理解してくれるのにな」


「ただ流されるままに何も考えず、人の気持ちなんて慮ってこなかった結果だ」


「それがわかってるならきっと大丈夫さ」


「だといいが」



□  □


「イア」

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