第四話「水瀬さんのために」
「水瀬さんを知っている人達の情報だとこの辺り、だよな」
俺はあれから、水瀬さんが晴らしたい想いをどうにかしたいと行動していた。
彼女の母親である水瀬静依さんは、アパートを引っ越してからは友人の自宅にお世話になっていたそうだ。
しかし、それは十年も前の話。
今では、再婚して夫や子供と一緒に一軒家に住んでいるそうだ。
なので、俺はその一軒家へ向かっている最中。
「あ、先輩」
「夜子ちゃんじゃないか。どこかへおでかけ?」
「はい。母に頼まれて、近くのスーパーへ」
その途中で、俺は母の知り合いの娘である夜子ちゃんと遭遇する。
白いワンピースに身を包んでおり、肩にショルダーバッグをかけていた。
「あ、そうだ。ちょっといいかな? 聞きたいんだけど」
実は、教えてもらった家は古河なのだ。
「もしかして、夜子ちゃんの母親の名前って静依さんだったりしないかな?」
「……そうですけど」
どうやら合っていたようだ。
ということは、夜子ちゃんは。
「実は、俺。古河家を探してて。静依さん……今家に居る?」
「はい。いますよ。たぶんこの時間帯なら家の中を掃除しているかと。母になにか御用ですか?」
「あ、いやちょっとね」
さすがに、娘さんが会いたがっているから、なんて言っても今は信じてもらえないだろう。
それに、夜子ちゃんが静依さんの娘だったなら……。
「以前、母が住んでいたアパートの一室に住んでいるから気になって調べている、というところですか?」
「そんなところかな」
「……そうですか」
なにか言いたげだったが、夜子ちゃんはそのまま立ち去っていく。
しかし、すぐに立ち止まりこう告げた。
「母と会って話すなら、気を付けてください。まだ母は……姉のことを気にしているようですから」
……わかってる。
だけど、今日は接触しない。ただ確認をするだけだから。
夜子ちゃんと別れた俺は、真っすぐ古河家へと向かった。
「あそこか」
古河家の近くには公園があり、俺はそこのベンチに座りながら様子を伺う。
庭がある立派な一軒家だ。
そこで、丁度よく一人の女性が洗濯物を干している。
……やっぱり親子だな。凄く似ている。
将来は、あんな風に美人になるだろう。周囲は、そう思っていたようだ。
(後は、水瀬さんとの話し合い、だな)
今の自宅と母親の状態を知った俺は、そのまま帰る。
・・・・
「それで話って言うのは?」
帰宅してすぐ、俺は水瀬さんに話があると持ち掛けたようとしたのだが、まさかの始まり。
「え?」
「清太郎が、私のために何かをしようとしているってことはわかってたんだから」
「よ、よくわかりましたね」
そう言うと水瀬さんはふふん! と胸を張る。
「なんだか私、妙に感がよくなったというか。あ、こんなこと考えてそうって電波的なものを受信しちゃうんだよなー」
「幽霊になって進化した?」
「それだぁ!!」
そんなやり取りをしつつ、俺は水瀬さんに母親のことを話した。
今は、再婚して夫や娘と一緒に一軒家で暮らしているということを。
「ほー、お母さんは幸せに暮らしているんだね」
「はい。ちなみに、その娘さんですが。俺が通っている学校の中等部に通っています」
「おー、名前はなんていうの? 見た目は? ね! ね!!」
お、おぉ……ものすごい勢いで迫ってくる。
俺は、その勢いに圧されながらも夜子ちゃんのことを教える。
「夜子ちゃんっていうのかー。黒髪ツインテールかー。写真! 写真はないのかー!」
「あ、ありません」
「なんで!? ツーショット写真ぐらいあるでしょ!!」
なぜそう思ったのか。
ツーショット写真を撮るほど仲良しじゃないし。
「と、ともかく! ……水瀬さん。あなたの気持ちを聞かせください」
「気持ち?」
俺はぐいっと近づいてくる彼女を離し、真剣な表情で問いかける。
「母親に……会って、話したいですか?」
「え? ど、どういうこと? その言い方だと、お母さんと私、話せるみたいに聞こえるけど。お母さん、幽霊見える人なの!?」
「……いや、見えないと思います。昔から幽霊達と関わってきたからわかるんです。彼女には霊感はありません」
「じゃあ、どうやって」
水瀬さんの疑問に、俺は答えるため立ち上がり、手を差し出す。
「今から、外に出てみませんか?」
「外って、私地縛霊なんだけど」
「いいですから、ほら」
「う、うん」
不思議そうにしている水瀬さんを連れて、俺は玄関へと向かう。
先に外に出ると、水瀬さんも続いて出ようとする。
だが。
「あうっ」
見えない壁のようなものに阻まれ、出ることができなかった。
「水瀬さん。手を握ってください」
「……うん」
額を摩りながら、俺の手をぎゅっと握る。
……よし。
「せーの!」
「わわ!?」
ぐいっと腕を引っ張ると、見えない壁を通り抜け水瀬さんが部屋から出てきた。
勢いをつけすぎたため、水瀬さんは俺の胸に飛び込んでくる。
「え? あ、え?」
「ふう、成功っと」
久しぶりにやるから成功するかどうか心配だったけど、うまくいったみたいだ。
「……」
「どうですか? 十五年ぶりに外へ出た感想は」
俺に身を任せたまま水瀬さんは、外を眺める。
しばらくの沈黙が続き……ぱあっと表情が明るくなる。
「凄い! 凄いよ!! 清太郎!! お前ー!! なんでもできるんだなー!! このー!!」
本当に嬉しかったのだろう。
満面な笑顔で、ぎゅっと俺に抱き着いてきた。