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第三話「過去の二人は今」

「あ、これ水瀬さんがネットで見てたやつ」


 いつもの学校の帰り道、何気なくスーパーに立ち寄った。

 そこのスイーツコーナーで一個だけ色んなフルーツが入った小さいパフェみたいなものがあった。

 手のひらサイズのカップの中に入っている。

 今日の夕飯にでも出すか。

 

「あっ、あれ見て」

「あの人……また違う男と一緒に居るわね」


 近くに居た主婦風の女性達の話し声が耳に届く。

 何気なく視線を向けると、派手な恰好をした一人の女性がスーツを着た男性と一緒に歩いているのが見えた。

 

「前は、厳つい顔の男だったわよね?」

「ええ。まったくホステスだからってとっかえひっかえに……あの子も可哀そうよね」


 あの子?

 その場を立ち去ろうとした時だった。

 女性の言葉に足が止まる。

 どうしてそれで止まったのか俺もわからなかった。けど、どうしただか水瀬さんの顔が脳裏に浮かんだのだ。


「あー、確か彼女の親友だったっていう?」

「そう。彼女がその子の彼氏を奪って。それがショックで死んだって」


 やっぱり話に出てきたあの子というのは、水瀬さんだった。

 ということは、さっき見た女性は。


「それで、その彼氏はどうなったの?」

「確か、高校を卒業して県外に就職したって話よ。その頃から、二人の仲が拗れてきたみたいで」

「それから、彼女は次々に男とってことか……」

「……」


 水瀬さんを裏切った二人については、ほとんど情報は入っていない。そもそも水瀬さんは、二人に殺されたわけじゃない。

 だから警察もそこまで動かなかったんだろう。

 が、水瀬さんのことをよく知っていた人達は、親友が彼氏を奪ったことを知っている。彼氏が水瀬さんを裏切ったことを知っている。

 母親の方も色々とひどい過去を持っているらしい。

 そのこともあって、水瀬さんはこの辺りではちょっとした有名人なのだ。

 

「……いや、やめておこう」


 水瀬さんが死んだ原因である彼女がスーパーから去っていく。

 俺は、その小さくなっていく背中を見て首を横に振った。

 このまま後を追って、彼女のことを調べ、どうして水瀬さんから彼氏を奪うようなことをしたのか。問い詰めようかと考えたが、踏みとどまった。


 水瀬さんのため、と言えば聞こえはいいが。

 もう十五年も前の話。

 それに、水瀬さんとは知り合いだけど……当時、俺は生まれていないか生まれたばかり。


 そんな俺が問い詰めたとしても、彼女からしたら赤の他人がどうしてそこまで? と思われる。

 本当のことを話しても信じてはくれないだろうし。

 なにより、俺の勝手な行動のせいで水瀬さんを困らせてしまうかもしれない。

 

「とりあえず、いつも通りに」


 アパート前まで来て俺は頭を掻く。

 

「ただいまぁ」

「おかえりなさーい!!」


 俺が部屋に入ると、いつものようにふわふわと浮きながら俺を出迎えてくれる。

 普段通りに、と思うも自然と先ほどのことを脳裏に浮かぶ。

 

「これ、水瀬さんに」

「え? なになに……おー! 食べたかったやつ!」

「夕飯の後にでも……って、もう持っていちゃってるし」


 その後は、普段通りに夕飯を一緒に食べて、寝るまでだらだらとした。

 が、寝る時に。


「ねえ」

「はい?」


 水瀬さんが、どこか真剣な声音で話しかけてきた。


「もしかして、私に言うことがあるんじゃない?」


 ごろっと仰向けに寝転がりながら、俺の顔を見詰める。

 図星なので、俺は苦笑いをする。


「な、なんでそう思うんです?」

「清太郎ってさー、嘘へたっぴでしょ」

「そ、そんなことは」

「それに、ドがつくほど優しい。気づいていないかもだけど、帰ってきてからずっとチラチラと私のこと見てたぞー」


 観念しろとばかりに寝返りしてから、俺ににじり寄ってくる。


「……実は」


 観念した俺は、今日のことを話す。

 

「ふーん」

「ふーんって、えっと……気にならないんですか?」


 てっきり憎悪とかそういうものが沸き上がってくるかと思って身構えていたのに。


「べっつにー。今更復讐したいとか、そういう思いはないしー」


 そう言って、俺の体に身を任せるようにくっついてくる。

 

「確かに、昔は恨んでた。憎かった……でも、今は全然。なんでかわかるかー清太郎ー」


 問いかけながら俺の顎に頭の天辺をぐりぐりと押し付けてくる。

 

「それは……」

「正解は、今の生活が楽し過ぎて、悪感情がなくなったからでーす」


 確かに、出会った頃と比べて今の水瀬さんは、本当に楽しそうに毎日を過ごしている。

 

「それにさ」


 と、読んでいた漫画を自分の両足に置き天井を見詰める。


「今、私が晴らしたいことは……それじゃないんだよ」


 彼女の言葉に、俺はすぐ彼女の母親が脳裏に浮かぶ。

 水瀬さんは、一人で育ててくれた母親に何も言わずに命を絶った。

 そして、気づいた時にはすでにこの部屋を引っ越しており、伝えたい想いがあってもこの場に縛られて出られないうえに、幽霊なので普通の人間には見えないし、声も届かない。


「だから、気にすることはないの。わかったかー」

「わ、わかりましたから。あんまりぐりぐりしないでください」

「本当にわかってるのかーおらー」


 ……わかっていますよ。

 水瀬さんが、どれだけ母親に会いたいのかってことは。

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