第二話「幽霊少女の日常」
「いってらっしゃーい」
私の名前は、水瀬響華。
地縛霊です。
未練があってこの世に残っているけど、離れられない。離れられないから、未練を晴らすこともできない。
ずっと……ずっと後悔していた。寂しかった。
初めてできた彼氏と喧嘩することもあったけど、それでも仲が良かった親友から……一気に裏切られた。
その悲しみと絶望感に堪えられず、私を一人で育ててくれた母親を残して、命を絶った。
そして、気が付けば地縛霊となって一人部屋の中に居た。
その時にはもうお母さんは引っ越していて、しばらく独りぼっち。
何度か入れ替わるように入居者が訪れたけど、皆出て行ってしまう。まあ、私のせいなんだろうけど。寂しさのあまり何度も何度も話しかけたりして。
けど、それは不気味な声にしか聞こえなかった。ついには除霊をしようとしてきたり、改装をしたり。色々あって十五年。
ついに、私は寂しさから解放された。
不思議な少年だった。
なんだか昔から幽霊と過ごしていたらしく、随分と慣れた感じで。
「さーて、昨日の続きー」
彼のおかげで、私は幽霊でありながらごはんを食べれたり、物に触れられたりできた。
まあ彼が近くにいないとだめなんだけど。
それでも、今までの寂しい十五年間と違い楽しい。
それは私の体にも影響を及ぼしているようで、触れていなくても物を動かせるようになった。
俗にいうポルターガイストだ。
彼が居る時は、普通に手で捲っている本だけど、今は触れることができないので、その力で捲っている。空中にふよふよと浮きながら一枚一枚。
「―――あっ、もうお昼かー」
生前は貧乏だったから、漫画やゲームなどの娯楽を買う余裕がなかった。お母さんは買ってもいいと言ってくれていたんだけど、ただでさえ無理をしているんだから大丈夫だと私は我慢していた。
でも、やっぱり同い年の子達が、あの漫画面白かった。あのアニメすごかったと話しているのを見ると……羨ましいなぁって思ってしまう。
だからなのかな。
今は、その積りに積もったものが爆発して、一日中楽しんでいる。彼が自宅から持ってきた長編漫画は一冊一冊が分厚く集中して読むと結構時間がかかる。
他にもライトノベルがあるから、まだまだ楽しめそうだ。
「ぬぬ……やっぱまだ難しいなぁ」
一度読むのを止め、今度はゲームをする。
彼が居る時は、普通に手でぽちぽちとできるんだけど、今は違う。物を動かす力をうまくコントロールして、ゲーム機のボタンを押す。
これが彼が居ない場合のプレイスタイル。
少し慣れたけど、やっぱり激しい操作をするアクション系とかはまだ無理。アドベンチャー、シミュレーションなど気楽にできるものならなんとか。
こうして私は毎日のようにこれまでできなかったことをやっている。
本当は外に出れたら、一番良いんだけど……。
「ほうほう。来週には、新作のデザートがこんなに……」
色々とやっているうちに時間は刻々と過ぎていく。
そろそろ彼が帰ってくる頃かな?
「ただいまぁ」
ネットサーフィンをしていると、彼の声が聞こえる。私は、パソコンをそのままにしふわふわと飛んで玄関へと向かった。
先ほど調べていたスイーツのことを話そうとしたけど、彼が持っている袋に目が行く。
なんと、私がそれとなく呟いたシュークリームを買ってきてくれた。それも二つ。私は、報告することを忘れ袋ごと持っていき、さっそく食べる。
さくさくの生地の中に、ふんわりとした甘いクリームが入っている。
生前は、時々しか食べられなかった。
お小遣いを貰っていたけど、ほとんど貯金していたからなぁ……。
そんな昔のことを思いだしながら一気にひとつ目を平らげ、二つ目へと齧り付く。彼は、気を利かせて麦茶を持ってきてくれた。
「あっ」
すると、彼は私を見るなり声を上げる。
そこで、気が付く。
二つ……そ、そっか。普通に考えればそうだよね。でも、すでに半分も食べてしまっている。私が申し訳なさそうに、食べかけのシュークリームを渡そうとすると、彼は全部食べて良いと言ってきた。
正直、彼が優し過ぎて得も言われぬ感情が込み上げてきて不機嫌になってしまった。
私はこのままだとどんどんダメに、そして我がままになっていきそうだ。
でも……嬉しい。
生前も、貧乏だったけど、お母さんと一緒だったから楽しかった。けど、死んでからはずっと……ずっと寂しくて、つらくて。
毎日のように膝を抱えては泣いていた。
「あ、あれ? なんかしょっぱいな……あれ?」
「ど、どうしたんですか? 水瀬さん!? な、泣くほど美味しいんですか? それ」
……そうだ。涙ってしょっぱかったんだよね。
そうだった。
私は、涙をぐいっと拭い一気にシュークリームを平らげ、彼が―――清太郎が淹れてくれた麦茶をぐいっと一気に飲み干す。
「うん! すっごく!! 美味しかった!!」
「そ、それはよかった。……じゃあ、また買ってますね」
「その時は、一緒に食べようね! 清太郎!!」
「はい。もちろん」
本当に、清太郎がここに越してきて……よかった。