第一話「幽霊少女との日常」
「うまうまっ」
「少し焦げてますけど」
「いいのいいの。清太郎って、あんまり料理できない感じだけど。一人暮らしをするって決めてから練習した感じ?」
「まあ、そんな感じです。故郷に居た頃は、時々簡単なものを作る程度でしたからね」
俺が住んでいる部屋に縛られている幽霊少女―――水瀬響華さんと同居することになってからは、毎朝一緒に朝食を食べている。
響華さんはまったく料理ができないらしく、試しに卵を割らせてみたのだが……見事なまでに粉砕。
ボウルに殻ごとどぼん。
それからは俺が作るようになった。とはいえ、俺もそこまで料理がうまいわけじゃない。
卵焼きを作ったのだが、ひっくり返すのに手間取って少し焦げてしまった。
まあそれでも水瀬さんは美味い美味いと食べてくれているが。
……本当によく食べる。一人暮らしって考えていたから、あんまり食材がない。米は故郷から大量に送られてきているので、まあ大丈夫だと思うが。
「それじゃあ、俺学校に行きますから」
「はーい」
朝食を食べ、学校に行く時間までのんびりとする。
俺が居る時は、自分の手で漫画やライトノベルを読んでいる水瀬さんだが、俺が居ない時はポルターガイスト的なあれで、触れることなくページを捲っている。
彼女と出会った一週間になるが、出会った当時と比べて大分存在感が強くなった。
力の使い方も楽しくて色々試している。細かいボタンも触れることなく押せるようにと練習中だ。
アパートを出て五分ぐらい歩くと、駅に辿り着く。
が、俺は利用しない。
そのまま素通りして、また五分歩くとコンビニなどの店が並び街道へ出る。そこへ出ると、俺と同じように登校している学生達や、出勤している社会人達などが溢れている。
俺は、その中に一般人A的な存在として紛れ込み、更に十五分ほど移動をし……目的地である学校へ辿り着く。
俺が通うのは、中高一貫校。
つまり中学校と高校が一緒になっているところだ。俺は、その高校に受験し合格した。
私立雄央高等学校。
特に、これがやりたいからと思って選んだわけではない。どうやら中等部に母さんの知り合いの娘さんが今年から通うらしく、そこから俺が県外の学校を受験するという話と繋がった。
「おはようございます。先輩」
「おはよう、夜子ちゃん」
「……」
学校に辿り着くと合流する少女の名は、古河夜子ちゃん。どこか不思議な雰囲気のある子で、黒髪のツインテールがよく似合う小柄な少女だ。
いつまも挨拶とかはしてくれるのだが、それ以外の会話はなし。
俺も、母親の知り合いの娘、という認識で、会ったのは今年が最初だ。いつも可愛い見た目をした幽霊の髪留めをしているので、もしかしたらホラー系が好きな子なのかもしれない。
だったら、俺が霊能力者で幽霊と同居していると言ったら……いや、水瀬さんのためにも迂闊に話さないでおこう。
「なあ、昨日アニメ観たか?」
「ああ、観た観た。マジ攻めてたよな!」
「見てこのキーホルダー。可愛くない?」
「えー? そう?」
俺が勉学に励む教室に辿り着くと、すぐに自分の席へ着く。
今のところ友達は一人もおらず、寂しい学生生活を送っている。別に俺は、友達なんて居なくても平気だし、とかそういうことは思っていない。
けど、なんていうのかな。
故郷でも、人間より幽霊と一緒に居た時間が多かったからなのか。積極的に人間に話しかけようと言う意思が薄れているというか。
会話はもちろんできる普通に。
話しかけられればちゃんと返事をする。
ただ今のところ学校は、勉学をするところ、という感じで過ごしている。
(そういえば、水瀬さん。シュークリームを食べたいって言ってたな。……帰りに買うか)
自分の席に座っていると次第に担任がやってくる。
そこからホームルームが始まり、いつものように俺達は様々な勉学に励む。
「昼だ―!」
「飯めしー」
昼休みになると、生徒達は一斉に教室から出て行く者達や教室に残って弁当を広げる者達で二分する。
俺は、後者だ。
頑張って作った弁当を広げ、早々と平らげる。
余った時間で持ってきたライトノベルを読み進める。
その後、残りの授業を終え、部活に入っていない俺は早々と学校から出て行く。
「あ、夜子ちゃんも今帰り?」
「はい。それでは失礼します」
「あ、うん。また明日」
帰りは、俺と同じく部活に入っていない夜子ちゃんと遭遇し、短い会話をする。
学校を後にした俺は、真っすぐ帰ることもあったり、今日のようにどこかへ寄り道をすることもある。
今日は、水瀬さんが食べたがっていたシュークリームを二人分と、その他の食材をスーパーで買い、アパートへ。
「ただいまぁ」
「あ、おかえりー。ねえ、聞いて聞いて! さっきネットで知ったんだけど! あれ? なにか買ってきたの?」
帰ると決まって水瀬さんがふわふわと宙に浮きながら近づいて出迎えてくれる。
「食べたいって言ってましたよね。シュークリーム」
「え? 買ってきてくれたの!? わー! ありがとう!!」
シュークリームが入った袋を受け取り早々と奥へと行く。
俺は台所で作り置きしていた麦茶とコップ二つを持っていく。
「あっ」
「うまうまっ!」
時間にして一分も経っていないのに、すでに一個を平らげ、二個目を食べていた。口元にクリームをつけながら。
「あっ、ごめん。もしかしてこれ清太郎の分だった?」
半分食べたところハッと我に返る水瀬さん。
が、俺は首を横に振りながら麦茶をコップに注ぐ。
「良いんですよ。それは水瀬さんのために買ってきたものなんですから」
「で、でも」
「大丈夫ですってば。はい、これ麦茶です」
「……むう」
え? なんで不機嫌そうに頬を膨らませて。
「そうやって甘やかすと歯止めがきかなくなるぞーおらー」
そして、言葉遣いが変に。
「あはは。昔から幽霊達とこうやって接してきたから、つい」
「まあ、食べて良いなら食べますよー」
そう言ってそっぽを向いて食べるの再開する。
その横顔は、とても嬉しそうなものだった。