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プロローグ

「幽霊、か」


 俺の名前は、峰野みねや清太郎しんたろう

 田んぼに囲まれた自然豊かな故郷から離れ、一人暮らしをすることにした。そこで、安く高校からも近いアパートを探していたところ、辿り着いたのが……いわくつきのとあるアパート。


 俺が住むことになった部屋は、どうやら十五年前ほどに少女が死んでしまったようなのだ。

 その原因は……彼氏と親友から同時に裏切られたことによるものとか。

 仲が良かった親友に彼氏を寝取られてしまった。

 喧嘩をすることもあったけど、それでも仲が良かった。けど、それは男が絡んだことにより崩壊。


 先に付き合うことになったのは死んだ少女だが、それを親友が寝取った。

 しかも、彼氏の方は少女と付き合いながらも親友とも付き合っていたらしく、偶然にもそれを知った少女は……。


 少女には、父親がおらず、母親が一人で育てていた。

 母親は、未婚で父親にあたる男は、子を身籠ったことにより母親を捨てたんだそうだ。

 ……ドラマや漫画だけにしてほしいものだ。そういうのは。


「……」


 ため息を漏らしながら、部屋に入るとどんよりとした空気を感じ取る。

 部屋自体は、改装されて結構真新しいものだが……、


「居た」


 奥にある部屋に入ると、隅っこに体育座りをしているセーラー服を着た少女が居た。

 真っ白な長い髪の毛で、表情は見えない。

 俺は、届いたダンボールから物を取り出す。実家から持ってきたものは、それほど多くなく。一番必要なノートパソコンと俺が愛読している漫画やライトノベル。


「よし。後は、ネットに繋いで」


 漫画やライトノベルを本棚に並べ終えた俺は、ネットを繋ぐためにパソコンを起動する。

 

「……ねえ」

「……」


 そんな中、声をかけられる。ずっと体育座りをしていた幽霊少女だ。

 ゆらりと俺の背後に立っている。

 だが、俺は気づいていないふりを続けた。


「結構古いアパートなのにネットに繋げられるなんて凄いな。まあ、だから選んだんだけど」


 あくまで独り言を呟いているていで貫く。


「さっき見てたよね? ねえ、見てたよね?」


 しかし、少女は諦めず今度は耳元に近づきぼそぼそと呟く。

 あ、冷たい息が。

 やばい。くすぐったい……だめだ、反応してしまう。


「ねってば―――え?」

「……やっぱり、こうなっちゃうか」


 一向に反応しない俺に対して、少女は触れようとする。

 普通なら、体がすり抜けるところなんだろうが……しっかり触っている。これには、少女も驚きを隠せないでいた。

 俺は、観念して振り向く。


「えっと、あなたは水瀬みなせ響華きょうかさんですよね?」

「そ、そうだけど。やっぱり見えてたんだ。というかなんで触れられるの!?」

「ほれふぁでふね」


 驚き、不思議そうに両手で俺の顔に触れてくる水瀬さんに、どうして触れられるのかを説明した。


「―――つ、つまりあなたは霊能力者で。自分でもよくわからない力で、私のような幽霊はこうして触れられるようになっている、てことなんだ……」

「ほうれふ」

 

 俺は昔から、常人には見えない存在。

 つまり幽霊が見えていた。

 それだけでも凄いことだが、どういうわけか。俺は幽霊達になにかしらの影響を与える不思議な力を持っていたようで。

 

 俺を中心とした範囲十メートル以内に居ると、人や物に触れられるだけでなく、なんと食事もできてしまう。

 幽霊達は、水瀬さんのように驚きつつも歓喜していた。

 なにせ、もう食事という行為ができないと思っていたからだ。その後も、俺のよくわからない力は成長していき、幽霊に影響を及ぼすような力がどんどん増えていった。


 これにより、俺は人間の友達より幽霊の友達の方が多くなり、故郷を離れる時も皆は涙を流して見送ってくれた。

 中には、ついて来ようとしていた幽霊達も居たけど……。


「食事ができる……」

「試してみます?」


 と言って、俺はここへ来る前にコンビニで買ったツナマヨおにぎりを差し出す。


「……はむ!」


 結構な大口で、一気に半分以上も食べてしまった。

 

「んー!!」


 感動。歓喜。

 もはや入って来た時に見たどよどよとした雰囲気は吹き飛び、一気におにぎりを平らげる。


「お茶です」

「んぐ! んぐ!! ぷはー!! 凄い! 凄いよ君!!」


 あ、飲みかけだった……まあいいか。

 

「あはは、それはどうも」

「でも、どうしてこんな凄い力を持っているんだろうね」

「さあ?」


 それは、俺にも全然わからない。けど、別に体に変な悪影響はないので、俺はそのまま毎日を過ごしている。


「……ずっと」


 急にシリアスモードになるので、俺も気を張る。


「ずっと、誰かと話したかったんだよね。幽霊になってから、君以外にも何人か住んでいたんだけど、全員引っ越しちゃってさ」


 確か、視線を常に感じるとか。笑い声が聞こえるとか。

 所謂怪奇現象のようなものがあって、住居者は引っ越していったんだそうだ。最初は、幽霊? ははは居るわけないじゃん! とか言っていた者も結局引っ越していった。

 

「だから、どうせ次来る人もそうなんだと思って。諦めていたんだよね」

「だから隅っこで体育座りを」

「成仏しようにも成仏できなくてさ。除霊をしようと一度、霊能力者を名乗る男の人が来たから期待していた時もあったんだけどね」

「まったく意味がなかったと」

「うん。まったく的外れなところを見たりしてさ」


 そういう詐欺師も居るからな。


「だから! 君みたいな本物が来て、すっごく!! テンション上がってるんだよね!!」

「ちょ、浮いてます。物が浮いてますって」

「おー、これがポルターガイストってやつだね!!」


 本当にテンションが上がっているらしく、彼女の霊力が爆発。

 周囲にある物が浮いてしまっている。もちろん俺も。


「これは、楽しくなりそう!」


 生前も明るい子ではあったようだけど……引きずってはいないんだろうか。

 彼氏と親友から裏切られたことを。

 本当に楽しそうに笑う彼女を見て、俺は同時にそのことを心配するのだった。

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