浮気男なんて捨ててやる
通りの向こうに愛する人が見えた。
「ユリウス待って!」
私が声を掛ける前に、あの人に声を掛ける女性がいた。
白金の髪が綺麗な巷で有名な花屋の看板娘。
「ほら、マフラーを忘れて行ったわよ」
そう言って私の愛する人の首にマフラーを掛ける。
とても親しげな二人に私は薄々勘づいていたことが真実であることを確信する。
最近の彼は私が話しかけても上の空。
前までは出かける時にどこに行くかどこに出かけたか私に伝えてくるのが当たり前だった。
そんなに全部言わなくても良いのにと思っていたけれど、伝えてくれなくなるとこんなにも不安になるものなのか。
それを気付けたことが彼と付き合った収穫かな。
あんなにも素敵な女性と仲睦まじいのだから、私とはもう終わりなんだろうか。
私の何が悪かったんだろ、ただの浮気なら許してあげるべき?ユーリは私と別れたいのかな?ユーリから別れ話をされるまで待とうか、いや私から離れてあげようか、いやいやなんで私が悩まなくちゃいけないの?
まだ恋人がいる状態で次の相手を見つけるなんてありえなくない?
決めた!こんな不誠実な男私から振ってやる。
ちょうど明日は週末で会う約束をしているし、アイツと別れてスッキリして週明けを迎えよう。
別れ話当日、今日は仕事帰りにレストランで食事をするいつものデートコース。
いつ言おうかな。
「ユーリ、今日はレストラン予約してるの?」
「え?あっ、あぁ、今日はコースで予約してるよ」
予約してるなら帰り際に話した方がいいな。
「え?コース?いつもは着いてから頼むのに?」
「たまには頼んでみたくてさ」
珍しいな。別れる前の晩餐的なこと?
いつものお店に入る。
「いらっしゃい、ユーリ、ミアちゃん!」
「こんばんは!」
ユーリに教えてもらったお店は居心地が良くて、店長さんとも仲良くなれたのに。
ユーリと別れたらここも行きづらくなるな。
お酒を頼んで、二人で乾杯する。
他愛もない会話をしながらも別れ話をする緊張で言葉が上滑りをする。
「ユーリ今日の仕事はどうだった?」
「いつも通りだよ。ミアさっきも同じ質問しなかった?ミアは昨日重要な仕事があるって言ってたけど上手くいった?」
「うん、それさっき話したよ?」
付き合い始めの時位にギクシャクした会話が続く。
「お待たせ!今日のメインのフォアグラと鴨肉のローストです」
「えっ凄い!美味しそう!」
この店には毎週のように通っているけど、かなりお高くて初デートの時位しか食べたことがない料理だった。
「何食べても美味しいけど、この料理は最高だね!ね、ユーリ」
「あ、あぁ、喜んでもらえて良かったよ」
今日のユーリもやっぱり上の空で、なんだか緊張している。
そろそろ別れ話なのかな?
メインを食べ終わって、最後のデザートを待つ間、言葉に迷って沈黙が続く。
ユーリが意を決して、言葉を発した。
「ミア、もしかしたら気付いているかもしれないけど、俺と」
「別れよう」「結婚してほしい」
「え?」「え?」
二人とも何を言われたか分からずに硬直する。
先に戻ったのはユーリが先だった。
「いやだ、別れたくない!」
ユーリがミアに縋り付く。
やっとミアもプロポーズされたことを理解する。
「ユーリは別れたかったんじゃなかったの?」
「なんでそう思うんだ!」
「だって最近は話しかけても生返事だったし、何か言いたげな顔してるし、どこに行くか行ってくれないし、花屋のリンちゃんと仲良くしてたし」
「プロポーズの計画をしてただけだよ!どこに行くか言ったら計画がバレるし、花屋の娘とも相談していただけだ!」
別れる心の準備はしてたけど、プロポーズされる心の準備はしてなかったから、どうして良いかわからない。
「勘違いさせてごめん。こんな俺は嫌か?それでも俺はミアが好きなんだ、愛してる。どうか結婚してほしい」
真っ直ぐに私を見つめるユーリに、付き合った日のことを思い出した。
あの日のユーリもどこかソワソワしていたっけ。
デートの帰り道で私を真っ直ぐ見つめて告白してくれた。その誠実な眼差しに私は恋をした。
長く付き合ってそれは愛に昇華されたけど、この誠実さを私は好きなんだ。
喉がひきつれて涙が出てきた。
「疑ってごめんなさい、ぐすっ、私のことを好きじゃないあなたとはもう一緒にいれないと思ったの、ひっく、でも好き、私もあなたと結婚したい」
か細い声で答える。そんな私をユーリが抱き寄せた。
そして、何故か持ち上げられた。
「やったぞ!」
パンパーンッ!
クラッカーが鳴らされて、店長がデザートと花束をを持ってきた。
その時にようやく周りが私達を見ていることに気付いた。
「もう!どうなることかと思ったわよ!」
「ユーリが紛らわしいのよ、ぐすっ」
泣きながら答える。
ユーリが私を下ろして跪いた。
「ミア改めて、俺と結婚して欲しい」
箱を開けて指輪を私に差し出す。
「はい、結婚してください」
左手の薬指に指輪が通る。
周りからの拍手に赤面しながらも、嬉しくて泣いてしまう。
別れるつもりでいた自分が馬鹿みたいだ。
「愛してるよミア」
急に小説を書いてみたくなったのですが、自分の才能のなさを痛感しました。