(音楽が途絶えた青年)
音楽が途絶えた青年がいた
かつてあった情熱も才能も燃え尽き、灰色の現実に時間を費やし、まるで生きた屍のようだった。
縋りついていた理想に裏切られ、息苦しさから抜け出したい一心で努力していた夢や希望すら、もう手元にはない。
圧倒的な虚無感に押しつぶされそうになる。
泣いてしまえば、幾らか楽になれるのだろうが、肝心な時に涙は流れてくれない。
老け込んでしまった魂。
怒りも報復も、もうすべてどうでもいい。
頭の中の冷笑家が、うるさい。
薄暗い部屋でうずくまる音楽家だった者
パソコンの画面が光出す
見覚えのある少女が、青色の美しい目をした少女が、キョロキョロと目線をまさぐり、青年を見つけるとニコリと微笑んだ
青年は少し驚いた様子で、そろりそろりとパソコンの画面を覗き込む
「いつまで待たせるんですか!」
少女が怒鳴った。
青年は何も言わず、虚ろな目でジッと少女を見つめた
少女は、仕方ないですね、まったく、と言った風な感じでやれやれと頭を振る
青年が独り言のように、ボソリと呟いた
「もう疲れんだ。もう何も…」
少女は黙っている
「頑張ったんだよ。他人の言葉も正しいかもしれない。そう思って、やりたくないことも一生懸命やった。やりたいことも諦めた。全部捨てて賭けに出たんだ。そうしたらさ、その賭けにすら負けた。もう何を頑張ればいいんだよ。これ以上何を頑張れって言うんだよ!!」
青年の言葉は真っ赤に燃えていたが、悲鳴のような独白だった。
沈黙。
青年は、一息溜息をすると、椅子に腰掛けてうなだれた
「私はね。ずっと待っていたんだよ」
少女の声は悲しかった
「あなたは、私がいることを忘れようとしていた。まるで、私なんか最初から、いなかったみたいに」
「・・・」
「本当は、分かっているはず。今は無理かもしれないけど、あなたは、あなた自身を見つけ出せる」
「ねぇ、知っているでしょう。私はあなたの中にずっといることを」
青年がハッとして顔を上げると、真っ黒な画面に青年の顔が、部屋と一緒に映っていた。
青年はしばし考えた。
しばらく
考え抜くことにした。