第7/幻覚の舞台
何もない舞台の上、少年がいる。
「君は何?」
少年はデルタの匂いをかぐ。
「……何とは?」
「木でも草でも花でもない」少年は首をかしげた。「石でも、霧でも……人形でも?」
そう少年はまるで初めて、それを見たかのよう。
「一緒に、行こうか?」
デルタは少年に手を差し出す。
「外? 外の世界……ふしぎだから、ついていく。見つけたから、ついていく」
少年はその手をそっと、つかむと優しく微笑んだ。
そして、彼らは祭りの中へと消えた。
暗い月の下で、ガンマは人を探してる。
「あらあら、はぐれてしまったわ」
暗闇のせいで、ガンマはデルタとはぐれてしまった。ガンマは、人ごみの中、同じくらいの子を見つけ、話しかける。
「ちょいとそこの人?人を探しているんだけれど、目がうにょーで、腕がふりょーで、こんな人見かけませんでしたか?」
意味不明なジェスチャーをしているが、かろうじて男の子だと言うことは分かった。
ベータは、首を振る。
「君も祭りに行くのかい?」
「ええ、かくれんぼは、もういいの。だって、せっかくの祭りなのに、こんな暗い処で、じっと隠れていなくちゃならないのは、おかしいわ。外は、こんなにも楽しそうな音がするのよ。あなたも、こんな暗いだけの世界にいないで、外に出たらどうよ」
「そうだね」
「私は、もう行くね」
ガンマは軽い足取りで、人ごみの中に去っていく。ベータは、そんな後ろ姿を見送る。
「みんな、もう手遅れだ……」
鬼がいる。
鬼が来る。
どこかに、どこかから。
「ドラキュラは朝日を浴びると灰になる。人魚姫は恋が実らないと泡になる。僕らは鬼に見つかれば……」
ベータは、ひとり暗闇を歩いている。一人、呪文のように、言葉を発している。