第5/蓄光の蛍
ここもまた、暗闇に包まれている。
「蓄光テープの光が、眩しいなぁ……」
デルタは、所々に張ってある、黄緑色の光を見ている。無論、まぶしいと言うほど、光は放っていない。これは、暗い所でじっとしているのは嫌だ……と言う感情によって導き出される、皮肉である。
「蛍の光みたいで綺麗じゃない。私、好きよ」
ガンマは、デルタに寄り添う。
「夏の三角形も、ずいぶん、西のほうに傾いたね」
月の光はなく、停電中の今、星空が良く見える。
「皆は、まだかくれんぼしているのかしら?外では、せっかく祭りをやっているのに、あんな暗いところで、やってられないよね」
ガンマの言うことも、もっともである。
「でも、祭りに行っちゃいけない理由、あるんじゃないかなぁ?」
理由は分からなくとも、いけないといわれていることは、いけないと思うデルタ。
「ただのいじわるだよ。子ども扱いしてさ、私たちに、祭りに行かせない為にあんな怖い話を言っているだけだよ」
「でも、昔、本当に祭りに行って戻ってこなかった子が……」
「そんなの、怖がらせるための嘘よ。噂よ」
「そうだと良いんだけど」
「そうだよ。気にすることないって。行こうよ」
デルタの手を引く、ガンマ。
「うん……人がいっぱいいれば、隠れるのに丁度良いしね」
デルタは、自分の納得する言い訳を、考えた。
「……それにしても、もう、ずいぶん秋になったねぇ」
夜の虫の声は、もうすっかり秋の音だ。
「そうだね。あ、流れ星」
ガンマはそらを指す。
「え、どこ?ああ、願い事、願い事……ええと、なまむぎ、なまごめ、なまたまご……」
デルタは、早口言葉を、3回言った。
「今、誰かがこの世界から、消えたのね……」
ガンマは、ささと歩き出してしまう。
「あ、待ってよ。置いていかないで……」