第3/まぁだだよ
「もぅ、いいかい」
鬼は言う。
「まぁ〜だだよ」
子供たちの声が、きこえる。
かくれんぼが始まった。
「1、2、3、4、5……」
鬼は、再び数を数え始めた。
暗闇の中、数人の子供たちが、走る気配がする。
そして、そのうち、しずかになった。
ひそひそ声が聞こえる。
「ここなら、見つからないかな」
アルファは言う。
「たぶん」
ベータは、「しぃっ」と口の前に人差し指をそえる。
「本当にここに隠れて良かったのかなぁ。大人に見つかったら……」
「大丈夫、大人は、皆、外の祭りに夢中だから、ここには来ない」
外は祭り。にぎやかな音、騒がしい声が今もここまで聞こえている。
「それにしてもここは暗いね」
ここは誰も知らない秘密基地。しかし、大人に見つかると、怒られる場所。鬼にも、大人にも、見つかってはいけないスリル。
アルファ懐中電灯を点ける。あごの下から顔を照らす。
「うらのめしや!」
……沈黙に支配された。
「やると思った」
「……鬼、来ないね」
「ああ」
「外、祭りだね。様子見てこようかなぁ」
アルファは、祭りの心躍る音、響く音楽に誘惑を感じていた。
「やめとけ」
「どうして? 行っちゃ駄目って、言われているから? そんなのおかしいよ。外の祭りは楽しそうだよ。こんな暗い処で、じっとしているのは飽きたよ」
「どうなっても知らないぞ」
アルファは、ベータを置いて外に出た。橙色の灯りが、世界を染めている。
再び暗闇に包まれる秘密基地。
「戻ってこられなくなったら、どうするんだ?」
ベータは誰に言うでもなく、ひとりつぶやいた。