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三毛猫の従者ジゼル  作者: 三毛猫
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この世界がお嬢様を悪役令嬢にしようとしても私にとってはお嬢様は絶対的ヒロインキャラです

ローズ・エリア伯爵令嬢:ジゼルのご主人様。前世の記憶がある。夢を見たいのに現実主義。8歳→13歳


ジゼル・クライナ:ローズの侍女。没落した元子爵令嬢。現実主義のつもりで夢見がち。10歳→15歳


師匠:ローズの飼い猫でローズとジゼルの魔法の師匠。


カリーナ・コーエン公爵令嬢:ローズが前世で読んだ乙女小説のヒロイン。


ジーク・クライナ:ジゼルの兄。思い込みが激しい天才。


フィリップ王子:世継ぎの王子。冷静で慎重派。20歳。正妃の子。

ガスター王子:辛口な16歳。正妃の子。

リアーナ王女:男勝りな戦士。

オーエン王子:ローズと同じ13歳。面白いことが好き。

アウローラ妃:王の側室でローズの伯母。

イーゴリア・クリスタル王:クリスタル国の王。


リズ・エリア伯爵夫人:ローズの母。

ラース・エリア伯爵:ローズの父。

質問:とても可憐なご主人様が自分を悪役だと言い張ったら信じますか?


答え:信じません


お嬢様は不思議な方である。どうしても、自分を悪人だと言い張るが、行動はどう見ても善人である。例えば、私が毎朝お嬢様と朝の修行をした後に二度寝してお嬢様の昼の準備に間に合わなくても怒ったことがない。例えば、お嬢様のドレスの着せ方がわからなくて、後ろ前に着せてしまって使用人たちからくすくす笑われることになったときも、それが自分の好みなのだといってかばってくれた。例えば、師匠のことを悪まだなんだと言いながら、私は三毛猫の世話係として雇っているのだからと言って、師匠の世話を優先してやらせてくれる。例えば、お嬢様と性格があわない侍女がお嬢様のことを愚痴っていたときにその侍女を私が燃やそうとしたら、お嬢様は全力で止めて、私が彼女らを消し去る前に他に仕える屋敷を紹介して辞めさせてしまう。


お嬢様は善人だ、私よりもずっと。


「ねえ、どうしてフィリップ王子だったの?私はエリア伯爵家を継がなければならないし、第2王子のガスターや従兄弟のオーエンの方がうちに婿入りしてもらうなら都合がよいじゃない。お父様?それともその悪魔の差し金?」


『失礼しちゃうわ。お嬢様の夢をかなえて差し上げたいっていう健気な侍女の好意をよくそんなに悪意を持って見られるわね?』


師匠は腕の中で澄ましてそんな風に言ったが、実際言葉とは裏腹に社交界デビューを愉しみにしていたローズお嬢様に何か素敵な思い出を残す方法をないかと相談したのは事実だった。王子様と二人きりで少しでもお話できたら素敵じゃないと師匠に言われた時、私もそれは名案だと思ったのだ。


「悪魔ってその猫?ずいぶん可愛らしい悪魔だな」


横やりを入れて私の膝から師匠を取り上げたのは、オーエン王子だ。これほど間近で見たのは初めてだが、日の光に輝く金髪と青い瞳が華やかである。王子は、魔法使いと親交があるらしく人語を話す猫を見ても驚かなかったばかりか、僕も魔法が使えたらなあとうらやましがっている。昨夜は、お嬢様が夜会で疲れたと父親である伯爵にお願いして、王宮に泊まった。そして、作戦会議とかで午前中からオーエン王子の部屋に押しかけて昨夜の話の続きを聞かされているというわけである。侍女である私が、お二人のそばにそれほど近づくことはできないと立っていようとしたが、長くなるからと無理やりお嬢様の隣に座らされてしまった。


「お嬢様、そもそもどうしてフィリップ王子と少しお話しただけで、王子と婚約なんて飛躍した話になるんですか?今だってオーエン王子とこうして親しくお話されているじゃないですか」


「これだってアリバイ作りよ。伯母様なしにオーエンとこうして二人で会うなんてしたことがないわ。飛ぶ鳥を落とす勢いのエリア伯爵家の我儘お嬢様は気の向いた時に王子たちと会うことなんて珍しくもないと言い訳出来たらいいんだけど、まあお父様がそうはさせてくれないでしょうね」


「伯爵様がですか?」


私はお嬢様の発言に首を傾げざるを得なかった。エリア伯爵は落ちぶれたクライナ子爵家に手を差し伸べてくれた優しい人で、一人娘のお嬢様を猫可愛がりしている印象しかない。ローズお嬢様に望まない縁談を無理やり強いるとは到底思えなかった。


「ジゼル、前々から言っておきたかったんだけど。お父様は策略家だから。野心家だから。あなたが思うような優しいだけの伯爵が、こんなに出世するわけないから。貴方にその悪魔を渡したのも絶対わざとだからね」


ローズお嬢様にそんな風に言われてもにわかには信じられない。無表情でどこか感情が欠落しているような私と違って伯爵も兄もいつもにこにこ笑顔を振りまいて人当たりの良い人物である。ローズお嬢様は伯爵と兄が結託して昨夜のことを仕組んだというが、結局お嬢様は昨夜フィリップ王子とろくに言葉を交わしていたない。一人でまくしたてて話しただけで、フィリップ王子はきっと昨夜の出来事が何だったのか理解できていないのではなかろうか。


「まあ、その件に関しては僕もローズに同意するよ。兄さまについて行くはずだったのに、途中でエリア伯爵に呼び止められたんだ。あれはきっとわざとだろうと思うよ。王子が婿入りするより、娘が王妃になった方が普通に美味しいしね。責任を感じるし、協力するよ」


言葉は優しいが、王子の口調にはどこか面白がっている様子も感じられる。


「もちろん、あなたに責任があるんだから当然手伝ってもらうわよ。とりあえず、王子たちに婚約者がいないのが悪いのよ。攻略対象の誰の婚約者になっても私は悪役令嬢ルートだし、あなたはとっとと誰かと婚約してお兄様たちにも誰か婚約者をあてがいなさい!」


「やだよ!僕はまだ13歳だよ!婚約者なんていらないよ、面倒くさい」


オーエン王子は表情を変えて抗議した。お嬢様の言い分はあまりに横暴だから無理もない。私にまで兄に誰かと結婚するよう勧めろと言われて、そんなに簡単にできません!と即座に却下させていただいた。


「お嬢様、とりあえず、お嬢様がフィリップ王子と婚約させられるかもしれない件はおいといて、お嬢様の妄想話だか、先見の占いだかを適当に信じるなら、お嬢様の読んだ小説の世界では、ヒロインのカリーナ・コーエン公爵令嬢がそれぞれ別の男性と恋に落ちる設定なんですよね。どの男性と恋をするにしてもお嬢様がその人の婚約者で邪魔をする役目になるということですけど、それこそ、お嬢様がそのカリーナ様のお相手以外と婚約してしまえば、お嬢さんのいう破滅ルートというのは回避できるのでは?」


お嬢様の説明はところどころわからないところがあるが、要約すればお嬢様は前世でとある恋愛ゲーム(これはよくわからないがとりあえず無視)をして、イベントを途中までクリアするとクリアした人だけ、限定コードが配布されて『続きは、小説で』という形で、これまでの出来事とその後が書かれた小説が買えるというゲームというか小説にはまっていたらしい。その小説が実はこの世界とそっくりで、お嬢様はその小説の中に出てくる主人公の邪魔をする悪役令嬢とやらに転生した(と思い込んでいる)のだ。そのヒロインがカリーナ・コーエン公爵令嬢で、ヒロインがハッピーエンドを迎えるとお嬢様は必ず処刑か国外追放になっていたらしいのだ。

馬鹿馬鹿しいのか恐ろしいのかよくわからない話だが、お嬢様の立場であれば、この国のどんな男性との婚約も現実味のある話ではある。


「あのねえ。王家と結びつく以上の良縁じゃないと、お父様は納得しないのよ。それこそ、隣国の王侯貴族とでも恋に落ちて婚約でもしないといけないじゃないの。そんなこと簡単にできると思うの?」


それを言うなら、オーエン王子はじめ3人の王子やジーク兄様の婚約もそんな簡単にできないだろうと思いいたってほしいものだ。いや、わかってて強引にねじ込もうとしているのであれば、なおさらたちが悪い。


「でもさあ。それを言うなら、カリーナ・コーエン公爵令嬢が兄様と結婚するというのもあまりに無理がありすぎるんじゃない?聞いたところ、コーエン公爵って宮廷であまり評価も高くないみたいだし、お金にも困っているって聞いたけど?」


オーエン王子が昨夜から王宮の身近な人物に聞いたところによると、コーエン公爵家は何代か前に王女が嫁いでいて王家と縁戚ではあるものの、現当主はお坊ちゃま育ちで政治や領地経営に関心が薄く贅沢好きで愛人にもさんざん貢いでおり、あげく輸入ワインの貿易で投資した船が沈没して大損してしまい、お金にも困っているということだ。どんなに娘が美貌で名を馳せていようと到底王家に娘を嫁がせられるような状況ではない。


「ああ、それならね。コーエン公爵は表向きはお金に困っている振りをしているけど、ザルキス男爵や複数の商人たちから賄賂をもらっているのよ。東大陸との貿易は特に腐っても大臣のコーエン公爵の管轄でしょ?ザルキス男爵たちの密貿易をお目こぼししている見返りね?それに最近多発している令嬢たちの失踪事件はザルキス男爵たちがかかわっているのよね。カリーナはそうとは知らないんだけど、お気に入りの侍女や仲良しの令嬢たちが失踪してしまって父親を怪しんで、そのとき一番近づいている攻略対象に相談するのよ。公爵もそこまで彼らが悪事を働いていると知らないわけだから、娘のためにとんだとばっちりな訳だけど、没落はしないまでも宮廷での重要な役職からは外されてしまうわけ。贅沢を捨てられなかった報いよね。カリーナの方は、主人公補正のご都合主義で彼女の境遇に同情した攻略対象から同情されて仲を深めていくわけよ」


「おいおいおいおい、ちょっと待てよ。それが本当なら大問題じゃないか。作り話じゃないんだな、到底放っておけないよ」


オーエン王子が三毛猫もとい師匠を膝から放り出して立ち上がった。王子がそれほど驚くのも無理のないことで、ローズお嬢様はそれこそどこかで読んだ小説のストーリーを説明するみたいに話によどみがなかったが、話を聞けば王国を揺るがす大事件である。お嬢様はハッピーエンドの恋愛小説と言っていたが、ちょっとカリーナ様にはあまりに過酷すぎる展開ではなかろうか。


「婚約がどうのこうの言っている場合じゃないよ。先にそっちの方をどうにかしないといけないじゃないか」


「―言われてみたら、そうね。何せ深窓の令嬢だから、昨日夜会で聞くまで令嬢の失踪とかそこまで話が進んでいるなんて知らなかったのよね」


お嬢様があははと乾いた笑いを浮かべたが、笑い事ではない。


「すぐに今の話を父上に伝えてくるよ。こんなことをしている場合じゃない」


オーエン王子は正義感が強いのかすぐに踵を返して部屋を出て行こうとしたが、その彼の手をローズお嬢様がパシッとつかんで止めた。


「やめなさい。いまザルキス男爵の話を唐突にしたって、なんの証拠もないんだから。証拠もなしに話しても、とりあってもらえないわ」


「そんなの、君の魔法の力だって言えばいいだろ。予言の力で見抜いたとかなんとかいえば」


とにかく今すぐに話に行こうとするオーエン王子の主張に、ローズお嬢様は静かに首を振った。


「もしそれでおじ様が話を聞いてくださったとしても、証拠がなければザキアス男爵を問いただしてもしらばっくれられてしまうわよ。これ、今気づいたけど、カリーナを救えば私も悪役令嬢ルートを回避できるかもしれないし、慎重にいかなくてはならないわ」


ローズお嬢様がまっすぐに見つめて諭すと、オーエン王子は少し熱が冷めたように再び椅子に腰を下ろした。そんな王子にお茶をすすめて、お嬢様は心を鎮めるようにして自らもお茶を口に含んだ。その冷静な様子はとても13歳の少女のものとは思われない。


こういうところなのだ。こうして時折、達観した大人びた様子を見せるから私は同じ年ごろの王子たちよりも年齢が上のフィリップ王子の方が合うのではないかと昨夜のお嬢様と彼の逢瀬を私はずっと楽しみにしていたのだ。付き人ではなく、私もパーティーに参加できたのは驚いたが、計画のためには好都合とすら思っていた。


「君の妄想の婚約話はどうでもいいけど、人身売買についてはどうにかしないとな」


お嬢様の転生云々がただの妄想なら人身売買の話も妄想話と片付けられそうなものだが、そうならないところを令嬢の失踪事件について実際に起きていているということなのだろう。私は確かに他の侍女と世間話をするタイプではなく、貴族社会についても疎いが、深窓の?伯爵令嬢と第三王子が侍女の私より世情に通じているというのはいかがなものだろうか。


「そうね。そのためには、まずはカリーナに接触しなければならないわね。本当は仮病をつかって王宮で寝込んだ振りして、ジゼルを身代わりに王宮で侍女として働こうかと思っていたけど、ここは令嬢らしく正攻法で攻めた方が良さそうね」


「というと?」


口の端に笑みを浮かべてなにやらきらきら瞳を輝かせ始めたローズお嬢様に不安を覚えて問えば、お嬢様はますます不敵な笑みを深くした。


「名付けて、お見合い大作戦よ」


お嬢様はそう言ってバサッと後ろ髪を払うと、自信満々にこれからの計画を私たちに話始めたのだった。


「伯母様、そろそろ









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