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悪の宰相を倒す話

人魔共和国(ニムさんち)の結婚事情 三男の場合

作者: くま

 二番目の兄の結婚式が無事終わり、ドレス姿の新郎新婦を見送って、僕は隣に座る婚約者と微笑みあった。


「サファリはまさか、僕にドレスを着せたりしないよね?」

「クォーツ殿下が着たいのでしたら止めませんわ」

「君が僕の意見を尊重してくれる人で良かったよ。是非ともタキシードを着させてくれ」

「ええ、お好きなように。その代わり、わたくしも好きな格好をさせてくださいましね」

「もちろん」


 この外面を取り繕いまくった会話でお分かりだろうが、僕たちの婚約は政略的なものだ。


 留学という名の人質として送られてきたツキ様とアイオライトが恋に落ちてしまったため、ひとつ違いの僕の婚約者は急遽国内から選ばれた。

 雪女という、天候と氷を操る種族のサファリは、銀髪の美少女だ。


 なんというか、綺麗すぎて取っつきにくい。それでも、最初に会った時はキラキラした目で僕のことを見てくれたし、僕だって、愛情を育もうと努力はしたんだ。


 ……釣書をババ抜きして婚約者を選んだと知られてからはご覧のとおりなんだけど。


 まあ、さすがにね?年上のサファリの年齢もあるし、一番二番と片付いて、次はいよいよ僕の番ってなってきちゃったから、どうにかしないといけないとは思ってるんだよ?彼女がとりつく島がないだけで。


「どうしたらいいと思う?」

「謝ったらどうだい?」

「ていうか、なんで俺の部屋?なんで義姉さんはそんなことになってんの!?」


 夕食後、相談があると兄ふたりを頼った(既婚者に横恋慕するだけのヘタレは論外だ)けど、なんか異様な光景が見える。


 うん、気のせいだね?


 キティさんはエメラルドの膝に頭を乗せて床に座り込んだりしてないし、アイオライトはツキ様のネグリジェを着たトルソーを抱えてたりしない。


 ……なにやってんだ、こいつら。


「とっくに謝ったよ。贈り物もしたし」

「誠意が足りてないんじゃないか?サファリ嬢んとこはけっこう金持ってるだろ?」


 金額が問題?でも、けっこういい物を送ったんだけどな。小遣い一月分のドレスと宝石。


「馬鹿だな。金で解決するならとっくに解決してるだろう?クーはライトと違ってその辺は抜け目ないんだから。話し合いが一番だよ。その前に許さざるを得ないように外堀は埋めておくことが重要だけど」


 うるさい、変態。エメラルドがそうやってキティさんを嵌めたことを僕が知らないと思ってるのか?


 エメラルドがキティさんの髪を一房取って口付ける。いちゃつくならよそでやれ。

 動いた拍子にキティさんのスカートが少しめくれて、赤い革細工の足枷が覗いた。


 エメラルド、お前そこまで変態だったのか……。


 兄たちの危ない思考を垣間見て、恐怖に震える僕を見て、キティさんはため息をついた。


「クォーツ殿下、外堀は埋めにゃくていいにょで、サファリ様とはにゃしてみてください。できれば、ふたりっきりで、本音で」

「キティさん……」


 言ってることはまともなのに、エメラルドのせいでまともに見えない。「さすがキティ」とか言ってさらっとキスしてんじゃないよ。そしてトルソー抱えた変態も消えろ。……あ、ここアイオライトの部屋だった。じゃあ、僕が帰ればいいのか。おやすみ!



 と、いうわけで。


「話し合いをしようと思ってね」

「話し合い?一体なにについてですの?」


 なにについてと言われても……。キティさんに言われるがままお茶会を開いてみたけれど、正直なにを話せばいいのやら。


「なにについてだろう?僕としては、君との関係改善を図りたいところだけど」

「おっしゃってる意味が分かりませんわ」

「だよねぇ。僕もわかんない」


 ティーセットを押しやって、テーブルに突っ伏す。上目遣いで見上げると、少しだけサファリの表情が動いた。


 あれ、なんかいつもと違う?僕がだらけてるから?


「…………お行儀が、悪いです」


 目線が泳ぐ。耳たぶが真っ赤になって、テーブルの上で指がわきわきしてる。


 考えた末に出てきたらしい言葉は、とても無難だった。「ごめん」と返して起き上がると、椅子を引きずっていって隣に座った。

 もう一度テーブルに伏せて、サファリを見上げる。


「ねーえ、サファリ。……もしかして、君、けっこう僕のこと、好き?」

「んなっ!?」


 淑女にあるまじき声をあげて、サファリはバチン!と両手で口をふさいだ。顔は、もう隠せないくらい真っ赤だ。


 え、なにこのかわいい生物。これ、僕の?僕のだよね?


 あ、そっかぁ。だからエメラルドは外堀を埋めろって言ってたんだ。でも、もう婚約してるしなぁ……。あ、そうだ!


「ねえ、サファリは結婚してから調教されるのと、今からちょっとずつ素直になるのとどっちがいい?」

「は!?え、は!?」


 耳に直接吹き込めば、サファリは目を白黒させて椅子から滑り落ちた。腰を抜かしてしまった彼女を抱き上げて、膝に乗せる。


 あ、これいいかも。


「ちょ、ちょうきょうって、なにをかんがえていらっしゃるんです!?おねがいですからわかるようにおっしゃってくださいませ!」


 あわあわしてるサファリもかわいい。これが一生僕のかぁ。悪くないどころか、かなり楽しくなってきた。


「サファリ、かわいいね」

「だからいきなりなんですのぉ!?」

「なにを考えてるのかって聞いたから。サファリがツンツンしてるから、僕、ずっと寂しかったんだ」


 指で耳たぶをすりすりしながら首をかしげると、サファリの目が盛大に泳ぐ。


 口を開いたり閉じたり、お魚みたいでかわいいね?


「僕ができることならなんでもするよ。だから、だから僕のこと、捨てちゃ嫌だよ?」

「捨てっ、そんなこと致しません!」

「ほんとう?絶対だからね」


 あーかわいい。かわいい以外の語彙が死んでるくらいかわいい。これ、結婚したら僕馬鹿になるんじゃない?でも、父さんもエメラルドも馬鹿になっても仕事してるからいいのか。


「ええ、絶対です。だからおろしてくださいませ」

「……いいよ。その代わり、結婚したらサファリのネグリジェは全部僕に選ばせてね」

「なんですの、その提案は」

「それくらいいいじゃない、お揃いにしたいんだ。昼間は好きなの着ていいから。エメラルドだってやってるし、夫婦なら当たり前のことだよ」

「そ、それなら……」


 口を尖らせると、サファリは困った顔をした。

 童顔の一点だけ母親似の、父譲りの顔はこういうときに便利なんだよね。


 それにしても、変態グッジョブ。お揃いの寝巻きなんてって思ってたけど、自分が選んだものを着せられるなら安いもんだ。


 ほんとはもっと抱えてたいけど、約束したからしょうがないよね。


 ひとまず、エメラルドにいい寝巻きを聞こう。それから、明日からサファリのことをめちゃくちゃかわいがるんだ。楽しみだなぁ。


 そんな風に思ってた僕は、サファリのことを完全にナメてた。


 なんと結婚式の当日、彼女は騎士団の制服を着て現れたのだ。


「サファリ!?なんでそんな格好で……」

「なんでと申されましても、アイオライト殿下の結婚式のときに約束したではありませんか。それに、わたくしが騎士団の所属であることはご存知でしょう?」

「知ってるけど、でも……!」


 綺麗に着飾ったサファリをエスコートする気満々だったのに、サファリは夜会まで制服のままだった。「ズルい」とぼやいたら、彼女は今まで見た中で一番の笑顔で胸を張った。


「わたくしが思い通りになるだけの女だと思ったら大間違いですわ」


 あー、もう、かわいい!大好き!


お読みいただきありがとうございます。

長男と三男は、王配さんのヤンデレ気質をきっちりみっちり受け継いだので、言動が特におかしいです←

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