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月が落ちた世界に出来た彼の城

墨が通信機を操作し、それが繋がるのを待っている間は、休憩時間として使う事になった。

むかは一回コードについた砂を落とし、そして、砂漠の上に広がる布の上に、彼は静かに座っていた。


砂漠という環境にいるだけでも、天候はとてつもなく暑いけど、猛毒のような太陽の光から逃れる為に、むかも墨も全身を布で覆ったままだった。

服を少しでも脱いたら火傷じゃ済まない事は知っている、それでも、少しでも熱を逃そうと、むかは休憩の体勢を変えてみた。

ああでもない、こうでもない、どうしたらいいのかとむかが悩んでいると、自分の体の近くに何かが落ちる音がして、驚いたむかはすぐに音のする方向を見た。

そうすると、既に切られた果物が入ってるビニール袋が傍に落ちているのが見えた。

じーとその袋を見て、どうして果物があるんだと驚いてるように、むかは固まっていた。

そんなむかに気づいたのか、小さな笑い声が墨の口からこぼれて聞こえた。

「見張りをする」と、墨は自分が言っていた通り、むかの方へ視線を向かなかった。けど、その手は自分のカバンの方へ伸び、ジッパーを閉じた後、どこか呆れたような声で、墨はそう言った。

「次からはお前も用意しておけ、オヤツにしてもいいからな」

「あっ、その」

「疲れてるんだろう? 森までまだ距離はある、今のうちに栄養を補充して、ついでに休んでおけ」

「そう、だな。……ありがとう、墨さん」

そうむかは墨にお礼を言った後、彼は手の伸ばして、墨が投げてきたフルーツを拾い上げた。

ビニール袋の中にある果物は、保存用というより、本当に墨が言っていたように、ランチボックスに入れる為の、オヤツみたいな果物だった。

水分はほどほど飛ばされていて、味が若干薄いけど、果物を食べている時、少しだけ懐かしい気持ちになり、自覚はなかったけど、むかの躯を蝕む緊張が取れていく。

ビニール袋の中にある果物は結構あるけど、全部食べてしまわないように、墨さんの物だと墨さんの物だと、むかは何度も心の中で復唱した。

それでも、久しぶりの甘いものと水分で、むかの小さな口は次々と果物を食べてしまう。

静かになったむかが気になり、墨がむかの方を一度見たら、まるで小動物のように果物を食べるむかの姿が目に入り、墨は小さく微笑んだ。


丁度その時、墨はこっそり隠していた自分の通信機に連絡が入った事に気づいた。

見張りをすると先に言っていたので、そのまま墨はむかからもう少し距離を取り、森が見える方向へ目を向きながら、むかに気づかれないようにボタンを押し、墨は応答した。

「グランデか、何が用だ?」

『すーちゃん、君からの信号を受け取った。予測したよりも近い距離だったから、記録を修正したら送る、それを参考にしてくれ』

「そっか、それは助かる。で、実際俺らは何日外に居た?」


しばらく、通話機からは何の言葉も届かなかった。しかし、よく聞いていれば、機械越しに何度かページを捲る音と深呼吸をしてる音が聞こえる。

そうして、さほどの時間もかからずに、グランデの声が聞こえてきた。

『五日だ』

「マジか、体感では十五日は歩いていた気がしたけどな」

『多分もう既にどこかの境界に入ったのかもしれない、二人とも、調子は?』

「まあ、そう悪くはないさ。むーの奴も、案外慣れれば平気になると思うぞ」

『そっか……こちらは計画通り、この前君が教えてくれた場所を探索しようと思う』

「あー、あっちに行くのか?」

『時間があったら、行ってみようと思う』

「了解、何があったら聞かせてくれ。んじゃ、そろそろこっちも動くから」

『わかった。……すーちゃん、気をつけて』


『ああ、グーちゃんもな』


躊躇してやっと返せた自分の返事に、墨の返事と共に小さな笑い声が届いてきたのを聞いて、グランデは安心した自分がいる事に気づいた。

そして、通信機の受信ライトが消えたのを見て、グランデは大きく息を吸い込み、とてもとても大事そうに、彼は通信機を胸の前に抱きしめた。


本当なら、外の世界を二人だけに任せて探索する事はなかった。

しかし、どれだけ心配しても、どれだけ望んでも、今できない事を悔いても仕方がないと自分に言い聞かせて、グランデは握っていた室内通信機を元の場所へ戻した。


頭を上げて、グランデは電気のメーターを確認した後、手を伸ばして、彼は部屋に固定している通信機の電気を切った。

そして、持っている携帯型の通信機のバッテリーを満タンに充電した物と交換したあと、空になったバッテリーを充電器に置き、グランデの手は横にある工具箱を掴んだ。

片手に工具箱を抱えたまま、グランデは着ていたセッターとズボンを脱ぎ、最後に下着も一緒に横に置き、グランデはゆっくり立ち上がった。

空いた手で椅子を掴み、グランデは裸足のまま、一枚の大きいな鉄板の前まで歩く。

そして、程よく見える位置まで歩けば、グランデは椅子と工具箱を置き、その椅子に腰を下ろして、グランデは工具箱の中を漁り始めた。

磨き上げた鉄の板は鏡のように、グランデの姿を映し出した。

まだ少年の痕跡が残っている肉体はほどほどに筋肉が付けており、グランデの肌も健康的な色をしている。

けど、グランデの右肩とその左足に、異色な物が映っていた。

右肩の関節部分、そして、左足からその膝までも鋼鉄の色に包まれている。

動くたびに微かに聞こえる金属音は、変わってしまったグランデの躯体の異質さを語っている。

そう、グランデの右肩と左足は、まるでSFの話で登場するサイボーグみたいに、機械になっていた。


「さって、右肩は変化なし、左足は……膝まで来たのか」

工具箱の一番下から引っ張り出した小さなメモ帳を開き、グランデは前に書き込んだページの続きを書き込んだ。

記録を始めたのは何時なのか、日付を見れば分かる。

しかし、月が落ちた世界では、その日付は正しいのかどうか、グランデにも分からなかった。

とは言え、何かを基準にしておかないと、記録もくそもないと、どこか吹っ切れたようにそう考えながら、グランデは手作りのカレンダーに記号をつけて、彼はメモを仕舞った。

自分の躯の変化を確認する事なんて、もう普通の人間ではないのに、意味はあるのかどうが、それすらもわからないままで。

よくよく自分の足を見てみると、グランデは手を伸ばして、まだ人の物のである左足の指を触った。

微かにだが、自分の指を感じられて、感覚があることを確かめた時、どこか辛そうに、グランデは笑った。

機械の部分も正直に言うと、触ると微かに感覚はするけど、人の躯の部分と繋がる上に、神経の信号、パルスと言って良いのか、を送っているみたいだ。

どうして躯がこうなっても、また人としての感覚が残っているのか、謎が深まるばかりだけど、科学に詳しくないグランデにとって、それも解明のしようがない。

だから、疑問を残したまま、グランデは自分で作ったパーツを機械の部分の体に装着し、外れないように、彼はしっかりとネジを巻いた。

自作のパーツと言っても、大した物ではない。

鋼鉄と肌がつながる部分が怪我しないように、ガード用のプラスチック板を数枚と、機械の音が簡単に漏れないように、防ぐ為の布を少し用意しただけ。

普通の人であるように、普段の日常生活をする為の仕込みが出来、いよいよグランデは探索の準備を始めた。

とは言っても、もう探索する事に慣れてきたグランデは、ただ必要な物が詰まったカバンを取り出しただけだ。

そして、もう一度だけカバンの中身を確認した後、グランデは自分の部屋が入られないように、自分で作った仕掛けを起動し、音を立てることなく、彼は部屋を出た。


地下の世界はある意味狂っていたと、グランデはそう思っている。

しかし、狂い始めたのは、世界ではなくて、人なんだと、グランデはそう認識した。


もうどれほど前の事なのかは覚えてないが、ある日、『月が割れた』との情報があった。

すぐにその情報は消えてしまい、人々もそれを嘘だと思って、普通に過ごしていた。

しかし、夜、頭を上げると、確かに月の形がおかしくなったと、肉眼でも分かるようになった。

そして、なんの説明もないまま、日々がただ過ぎ、ふっと気づけば、月がもう落ちていた。

月が落ちた情報が漏れたその日から、段々と昼夜の境目が曖昧になっていき、情報を求めてネットを彷徨うと、様々な地域から広範囲の消失報告があった。

何故かニュースにはなってないけど、大国の都心、小さな国全体、リアルタイムで様々な掲示板やSNSに書き込みが増え続けて、そして、消されていく。

それでもあの時、見た全ての情報がどうしても現実味がなく、避難命令が出た時も、人々はただ言われた通りに、黙々と出発の準備だけを整っていた。


あの時の人は、誰とも交流する事はなかった。

混乱がピークになると、人はそんなに無関心になれるのだと、どこか傍観者気取りでそう考えながら、地域放送の避難指示に従い、まとめた荷物を抱えていた。


そして、ついに出発する日が来た。


その日、その時、彼は住んでいたマンションの頂上から、あの摩訶不思議な光景を見た。

歩いて行ける距離にあった町が、綺麗さぱり消えてなくなった。

何かに潰されたとか、何かに壊されたとか、そういった痕跡は一切なく、『元々そこに存在しなかったように』、あの町は消えていた。

その無の空間を見つけた時、何もなかった心には、驚愕が湧き上がり、それしか覚えてなかった。

そして、もっと月が落ちた事に対し、真剣に考えないといけないと気づいた時、もうその地に留まる機会を失った。

辛うじてその光景を写真で記録できたが、すぐに避難する人々に揉まれて、先の見えない人の列と一緒に地下まで移動した。


町を出て、山の中へ入り、長い長い洞窟を抜けた途端、聞いたことも見たこともある有名観光地のシンボル達が出迎えた。

何故現代の人造物を、古くから残った文明を、わざわざ地下まで移したのか?

月がただ割れて落ちていたという訳ではなく、何かの影響を齎したのか?

歩き続けているうちに、様々な疑問が心の中で渦巻いていた。

そして、周りを観察し続けていると、人々の焦燥と変化を感じ取り、咄嗟に理由を作り、今いるグループから離れることを選んだ。


結果的に言うと、それは正解だった。


グループを離れた後、電子機械のアンテナや電柱を繋げるケーブルを頼りに、都心部に当たる地域に入った。

その時だった、自分の左足の変化に気づいたのは。

人は自分と違う者を嫌い、攻撃し、消したくなる。

そう考えると、上手く移動できなくなる前に離れたのは良かった。

そして、自分が安心して動ける為に、隠し家的な場所でも造ろうと決意した。

その後、使われてない廃屋をいくつか見つけて、更にその中から電気が生きてる場所を確保し、自分のアジトを作り始めた。

生活に必要な物を揃え、警備システムが完備だった施設から機材を調達して、雛形だけど、拠点が完成した。

そこから予備の秘密のアジトをいくつか作っている間に、生きているネットワークを通して、世界の変化を知った。

月が落ちたせいか、空気が異質なものとなり、それを接触し続けている人々も少しずつ変わってしまった。

使える通信回路に繋げ、作業をしながら、硬くなっていく左足で動かしながら、グランデは聞いていた。

空気に出現した異分子が原因で、人の躯が作り替えられてしまう。見た目から分かり易いほどの変化が出る人もいれば、躯の中から変えられる人もいる。

そして、明らかに見た目で異形の姿に近づいていく人達を、誰かが『変異体』と、そう呼び始めた。

そんな変異体になった人についてだけど、元は人間だから拒むことなく、受け入れる団体がいれば、異質な外見に恐れて、隔離しようとする団体もある。

変異体が増えていく中、もちろんと言って良いのか、残念ながらと言って良いのか、拒むだけでなく、化け物扱いで、本気で消そうとする団体もある。


その団体の一つが、昔彼が一緒いたグループだった。


『自分タチと違うモノを消そうとして、公にそう宣伝しているから、消されてしまったんだ』と、機械めいた声がネット記事を読み上げた時は、少し驚いた。

あのグループが消えたと知った時、悲しくはないのかと言われたら、もちろん悲しいと思った。

けど、それ以上に、一緒にいなくて良かったと、自己本位なんだなと思いながら、そう思った。

昏い眼をしていても、自分の城を作り上げた、作らなければならなかった。


そして、完成した。


情報をいち早く掴み、安全が確保されていて、一人では持て余すけど、何も無いよりはと無理をして、作り上げた一人ぼっちの城だった。


本当はずっと一人ぼっちでいる筈だった。

けど、暗い暗い日々の中、出会ってしまった、奇特な少女に。


もし出会わなければ、外の世界なんて知る由もないだろうと思いながら、グランデと名乗りながら、人目付くことなく、ゆっくりと彼は地下の道を進んだ。

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