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縄張りを持てなかった猫。

作者: エルトン・ジョン万次郎

皆様、はじめまして。お久しぶりの方も居るでしょうか?1年近く休んでいました。

仕事が忙しかったのと、約1ヶ月入院していたので、活動おやすみしていました。

この話は多少脚色していますが(特に最後の〆の部分)ほぼ実話に近い話です。

それではどうぞ・・・・。

子供の頃のオレは、自宅のテラスに猫とねころんでいるのが大好きな子供でした。

時折、見かけない猫が入り込んで来ては彷徨いていて、何か怯える様にこちらを伺っていました。

良く見るとその猫はオス猫です。

ウチの猫もオス猫でした。結果は決まりです。追い払いました。

当然です。オス猫には縄張りを持つ習性が有り、激しい戦いの末に、死ぬ場合も有るからです。

でも、その猫は叩かれても蹴られても居座りました。

やがてウチの猫とも満更仲が悪く無いので、追い払いは止めました。

しばらくした有る日、「おーい、おーい」と何か。探している声が聞こえていました。

「こんな所に居たのか、ウチの猫返せ」

声の主は、向かいの借家に住む娘でした。

「おい、お迎えが来たぞ。」

コイツ、向かいの借家の飼い猫だったのか。

のっしのっしと、猫を抱えて歩き去ろうとした時、猛烈に暴れ出してオレの所に戻って来てしまいましあ。

「キシャーッ‼」と叫びながら、オレの右手にしがみついているでは有りませんか。

「ホラ、帰るぞ。」引き剥がそうとすると、「キシャーッ‼」と雄たけびを上げて激しく抵抗しています。

「お前、コイツに何やった⁉」

「そっか、コイツ、そろそろ繁殖期かもな。」

「繁殖期⁉」

「猫の繁殖期は、オス猫の縄張りに入って来たメス猫と交配する事でしか出来ない。」

「縄張りを持つていないコイツは、ウチの猫の縄張り使いたくて必死なんだ、ホラその塵取の上」

「うっ⁉」塵取の上にはネズミが4匹転がっていた。

「憐れだよなあ、猫って孤高の存在だと思っていたのに、縄張りが無いばかりに、ネズミを持って来ては御機嫌伺いだ。」

「お前、弱っちいけど根性は有るよな、普通出来無えよ遜って他所の猫の縄張り使おうなんて」

飼い主の娘は黙って聞いていた。

そこに見馴れぬ猫が現れる。丁度ウチの敷地と隣の農地の境目辺りだ。

「ホレ、行って来い」オレは自分の猫を、そちらに向けてやると、勇んで駈けて行った。

「ホラ、お前もだ」娘の猫をそちらに向けてやろうとすると「キシャーッ‼」と唸って激しく抵抗している。どうやら引き剥がそうとしていると勘違いしている様だ。

「バカバカ、行っちゃうよ‼」今度はオレが慌てる番になってしまった。

向こうはウチの猫といい感じになって歩き出している。

「行っちゃう、行っちゃう、行っちゃうよ‼」

ウチの猫と野良のメス猫はいい感じになって去って行ってしまいました。

「この御馬鹿ーーー‼」お前、何の為に頑張って居座っているんだよ。コイツ必死過ぎて周りが見えなくなっている。

やがて、ウチの猫は晴れやかな顔つきで帰って来た。

「どうだ?楽しかったか⁉」「にや~♪」「嫌ねえ」

ウチの猫を撫でていると、また別のメス猫が来た。

ウチの猫は喜んで走って行く。

向かいの猫は相変わらずだ。「よーーし」オレはオレの方の身体を半回転させ、向かいの猫をメス猫の方へ向けた。

「オラ、しっかりしろ、メス猫持って行かれちゃうぞ」

一瞬、ピクンと反応すると、猛ダッシュしてウチの猫に体当りを食らわした。

勢いに押されて、ウチの猫はすごすごと撤退して来る。

「1回したから落ちついちゃったのかな?」「にや~!」

暫くして、向かいの猫が満足気に帰って来た。

「やったね、縄張り無いのに、お前繁殖出来たよ♪」

向かいの娘が、猫を抱き上げ様としたら、逃げる様に再びテラスに布陣した。

「どうした?帰らないのか?美味しいキャットFOODもあるぞ」

「アハハハ、無理無理、繁殖期は1週間前後続くから」

「そんなに・・・・」「放し飼いの猫は意外と簡単に死ぬ、たくさん交配しないと子孫を残せ無いのさ」「そうか・・・・・」

その日の晩、放し飼いしているので外に置いてある餌箱に、見慣れないキャットFOODが入っていた。差し入れのつもりだろうか?

次の日も、次の日も、次の日も、ウチの猫と向かいの猫は駆け回っていた。

近くにボス猫が居て、かなり縄張りを浸食されているからだ。

オレが居る時は棒切れ持って加勢する場合も有るが、いつも居る訳にはいかない、たまに酷くヤられて帰って来る時も有った。

そんなある日の夕方、2匹の猫とマッタリ過ごしていると、向かいの猫に語りかけた。

「ごめんな、向かいの土地ウチの土地なんだけどさ、ウチの親父が建築廃材だらけにしちゃってさ」「・・・・・」こういう時の猫は神妙な顔つきで大抵は見ている。

「前に1度綺麗に片付けて栗の木を植えようとしたんだよ、通学路に栗畑が有ってさ、売り物にならない小さな栗が打ち捨てられていて、そこから何株か芽が出ていて、植えて肥料でも加えれば立派に育つんじゃないかと思ったんだ。」

「・・・・・・・・・・」

「でも、ごめんなぁ・・・明日植えようと思って帰ったら、既に建築廃材の山になっていたんだ・・・まあ、根回ししなかったオレも悪いんだけどな。」

相変わらず、向かいの猫はこちらをジッと見ている。

しかもオレの腕の中からだ、何やら気まずい。

「栗はいいぜぇ、煮ても焼いても美味いし、栗ご飯もウマイ、それに栗の木には昆虫がいっぱい集まって来るんだ。そいつを狙って鳥や小動物が集まって来るから、あそこ60坪位の縄張りにしちゃ狭い土地だけど、充分縄張りとして機能する筈だったんだ。」

「・・・・・・・・」

「ごめんなぁ、上手く行か無えもんだよ、オレ月末になると小遣い足らなくなって、オヤツ買えなくなるんだ、栗なら日持ちするし、何とかオヤツの替わりになりそうなんだ。」

「・・・・・・・・にや~・・・・・」

この時、初めて口を開いた。まるで人語を解したかの様に「お前も被害者じゃないか」と言わんばかりに。

「だから、ウチの猫の縄張り好きに使っていいぜ、他に行く所無えんだろ?好きなだけ居ていいぜ。」

「お前、それは本当か⁉」

向かいの娘が立っていた。

げ⁉また面倒くさそうなのが、聞き耳立ててやがった。

「まあねぇ、でも既に片付け様が無い」

「諦めるな‼」

「せめて敷地の半分位迄なら、何とか野焼きで処分するが(オレが子供の頃は野焼きは珍しく無かった)敷地一杯に捨てられて、山になってちゃ手も足も出ない。」

「ごめんなぁ、お前にヒドイ事してばっかだな。」

向かいの娘は凄い顔付きでオレを睨んでいた。


後日、コイツは地元のタウン誌に一連の事実を投稿しやがったらしく、大変な騒ぎとなっていた。


ウチの親父は大慌てだったみたいだが、ウチの婆ちゃんは大喜びだった。婆ちゃんは農家出身で、誰か親族に「農家っぽい事」でいいから、やって貰いたがっていたからだ。

だから、タウン誌越しに栗の木を植えたい事を知り、「この子は見どころが有る」とか言って大事にしてくれた。

そして親父に大至急、建築廃材の撤去を迫って来る。


ウチの親父はカンカンだった。

建て売り住宅を手掛けていて、てんやわんやの状態で、建築廃材処分どこじゃ無かったからだ。

ある日、婆ちゃん家に遊びに行くと、栗の苗は向かいの土地に植えたかと尋ねて来る。

「??????」

「向かいの土地は、まだ建築廃材だらけだよ。」

「!!!!!!」

どうやら、ウチの親父は婆ちゃんに「片付けた」と嘘言ったらしかった。

婆ちゃんは脚が悪かった。それをいい事に嘘ついてヤり過ごそうとした訳だ。


それから暫く、建築廃材は何とか半分程度に減らしたが、また山積みになってしまった。

ウチの親父とフランチャイズ契約していたハウスメーカーが悪徳で、支部長に押し付けられたらしい。

昭和50年代の話だが、全くヒドイ話だ。

ちなみに、その悪徳ハウスメーカーはニッセキハウスです。

ここ最悪で、昭和50年代にTVのCM流すからと、集金が回って来た事が有りました。そう言うの普通本部持ちだろ。

ここの経営は当時からガタガタでしたが、見せ掛けだけは立派でした。

幹部の横領に、主要取引銀行の第一勧銀(当時:現みづほ銀行)

のテコ入れ虚しく2002年に計画倒産。

その後、当時の社長がセレコーポレーションを設立、失職した社員の受皿とする。

但し、東証一部上場の株はほぼ無価値になり、ニッセキハウス時代のアフターサービスは放棄したらしいが・・・・・。

ネットの書込み見るとヒドイの何の・・・・。

ウチの親父みたいに、建築士の資格持っている人が現場出ているの稀だとか・・・・なんでこんな所と組んだんだよ。

でもまあ、当時は建設景気で建て売りなんか建てている傍から売れた時代で、実際に儲かってはいた。

だから深く考え無かったんだよなぁ・・・・今(約40年後)思い出しても、つくづく悔やまれる。


ウチの前の道は抜け道になっている。

特に昭和50年頃は、啓発活動なんかも行き届いておらず、小学生の脇を車が猛スピードで走り抜けたりしていた。


ある日の下校時刻、途中まで集団下校をしてやがて人数が減ってバラけて帰り出す。

家の前の緩いコーナーを抜けると、遠目に猫が倒れているのが見えた。

「!!!大変だ!!!」

近付いて見ると、向かいの猫だった。

「おい!しっかりしろ‼」

向かいの猫は血溜りの中で、既に息絶えていた。

猫は死に敏感な生き物とも言う。

そう言や、コイツここ最近やたらオレに甘えていたなぁ。

一緒にウチに上がり込んで、ソファに横になってマッタリしていたっけ。ベッドでゴロ寝していると、意味も無くスリスリして来たりとか、やたら膝の上に乗りたがったりとか・・・・・。

とにかく一緒に居たそうにしていて、何か足掻いている様にさえ見えていたのは気のせいだろうか。

オレは信じられ無くて、もう一度心音と呼吸を見た。

・・・・・・残念ながら両方停まっていた。

オレはグッタリと動かない向かいの猫を抱えて、向かいの借家の呼鈴を連打する。

中から「はーい」と言う返事が有り、娘の母親が出て来た。

「大変だよ!この猫ここん家の猫でしょ⁉クルマにヤられちゃっているよ‼」

「まあ、大変!あの子この猫溺愛していたから、きっと大騒ぎするわ‼」

うへえ~、同情はするが大騒ぎは勘弁してくれ。タウン誌に寄稿してくれたおかげで、オレん家大騒ぎだったんだせ。

「新聞紙敷いてくれませんか?土間に寝かせるのは可哀想だ。」

新聞紙を敷いた框の上に寝かせると、オレは御辞儀をして立ち去った。


それから小一時間程して、向かいの娘が凄い権幕でスッ飛んで来た。

「だぁれだー‼ウチの子をこんなにしたのは‼?」

既に冷たく硬くなってしまっている猫を抱えて、目を真っ赤に充血させている向かいの娘は、完全にブチ切れていた。

仕方無い、第一発見者のオレが出て行くしか有るまい。

「一番最初に発見して、オマエん家届けたのオレだよ」

「誰だー!誰がヤった⁉匿ったらお前を殺す‼」

「匿ったりはしないが、事故現場は見ていないから犯人は分からない、現場に居合わせればナンバーひかえて警察に突き出すなり出来たんだが。」

「本当に何も知らないんだな‼?」

「そう言や、そっちの北小学校から帰って来る時、そこの緩いコーナーろくに減速せずに走り抜けた無謀運転のライトバンが居たっけ、確か白のブルーバード・バンだったな、確か昭和46~47年式位の奴。」

「それだけじゃ分から無え‼」

オレは冷たく硬くなってしまっている猫を撫でながら、ごめんなぁ、ウチの学校デレスケでさ、集団で登下校させてんだよ。

だから日直の奴に合わせて帰るから、帰宅するの10分~20分遅くなるんだ。オレがコイツ発見した時はまだ暖かくて硬直していなかったんだ。多分、死んで5分と経って居なかったんじゃ無いかな。

「本当にごめんなぁ・・・集団下校なんかブッチして、早く帰って一緒に牛乳でも飲んで居れば死なずにすんだかもな。」

彼女は怒りに肩を震わせながら、自宅に引っ込んで行きました。


更に小一時間後、オレの部屋の窓を叩く奴に、家から出てみると、向かいの娘が泣きながら立っていた。

「ど、どうしよう・・・ウチ借家だからお墓作っちゃ駄目だって・・・・。」

ああ、もう、世話の焼ける~‼

「仕方無いな、オレん家とお前ん家の間に墓作ってやるよ

そして墓の材料とスコップ、線香に墓石代わりの石に打ち捨てられたヤカンと・・・・。」

オレん家の塀は3尺(約90センチ)程下げる様に、市役所の都市計画課から指導を受けた。道路拡幅の計画が有るらしいが、お隣さんが建ペイ率無視して目一杯に建てちゃったので、当分実現は無理そうだが。

猫グルマ(一輪車)にスコップ他荷物を積んでその狭い場所を掘り返す。

「随分と深く掘るんだな⁉」

「土葬は基本深く掘るんだ、コイツの死臭なんか嗅ぎたく無いだろ?」

やっとの事で埋葬が終わり、墓石代わりに大人の拳サイズの石を置いた。

石を置いたら、そこに取っ手の壊れたヤカンで水をかけてやる。

「それは?」

「喉が渇かない様に適量を墓石にかけてやるのさ」

それから線香に火を着けて、約10本位娘に渡す。

オレも10本位、盛り上がっている土に挿して手を合わせた。

「お前、良く頑張ったよな。普通縄張りが無かったらオス猫はとっくに死んでいるよ。お前は、頑張って生きて生きて生き抜いて、最期は交通事故で死んじゃった。」

「うっうっう・・・うああああ・・・・・。」

「お前、最後まで縄張り持つのが夢だったよな。次、生まれ変わる事が有るなら、立派な縄張り持てよ。」

「こんなの、あんまりだよ!可哀相過ぎるよ‼」

娘はいつまでも泣き続けていました。

道具類を片付けていると「にや~。」とウチの猫が寄って来た。

「お前、男だろ?消沈のコイツと一緒に居て、励ましてやれ。」

ウチの猫を渡すと、キュッと抱き締めて「お前だけは死ぬな、私の周りに誰も居なくなっちゃう」と泣きながら語りかけた。

残った線香の束を彼女に渡した。「アイツの事思い出して悲しくなったら、線香でもあけてやりなよ。」

「・・・・うん。」チカラ無く答えると、猫と線香を抱えて自宅に引き下がって行きました。

ちなみに、ウチの猫は人懐っこくて、向かいの家に飼い猫がやって来る前までは、ウチの猫に勝手にエサやりしたり、部屋に入れたりしているのを目撃した事が有った。

本当はこう言うのいけないんだが、子供ゆえ我慢出来無かったんだろう。


翌日、ウチの猫を抱えて、向かいの娘がフラリと現れた。

「この猫、ウチにくれないか?」

とんでもない事言い出しやがった!

「そいつの命は誰の物でも無い。自然と対峙して生き抜いている、ソイツ自身の物だ。」

「コイツ、弱っちいけど、必死に戦っているんだよ。すぐ裏手は森だろ?狸やら毒へびのヤマカガシやらキジ(意外と強い)と言った動物も強敵なんだよ、そいつを縛ろうとするな」

娘の腕の中に居たウチの猫は、そこから飛び降りると私の所に来てスリスリした後、隣の農家のビニールハウスに向かって歩き出した。

「そっちは危ないし、ネズミやスズメなんか捕食するな!ウチに来れば、美味しいキャットFOODも沢山有るぞ‼」

ウチの猫はいちべつくれただけで、駆け出して行く。

「そう言う問題じゃ無いんだ。猫ってもっとフリーダムなんだ、餌で釣れるのは御腹が空いている時だけだ。」

ウチの猫は猛烈に駆け出して、飛び掛かって何かを捕まえたみたいだった。

獲物を咥えて帰還して来る。獲物はネズミだった。

そのネズミを私の横に置くと、膝の上に乗って喉をゴロゴロとグルーミングさせる。

「お前相変わらず優しいなぁ、ネズミ捕まえて来てくれたのかい?」「にや~、にや~、にや~!」

誇らしげに幾度か鳴いた後、いつまでも、いつまでも、いつまでも、膝の上でくつろいでいました。


~おしまい~


いかがでしたでしょうか?本当の最後の〆の部分ですが、実は呼鈴を押しても全員留守だったらしく、仕方なく遺体を自宅に引き揚げて置いた所、親父が勝手に庭に埋葬してしまいました。

どうやら建築廃材撤去の件を根に持っていたらしい。アハハ~、ひっでえ話。

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