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4 偽名

短いです。後で改稿するかも。

 目を覚ます。眼前、十センチもない超至近距離に美少女がいた。


「ぅおぁああっ!?」


 反射的にはね起きようとして、彼女と額を強かにぶつけ合わせてしまう。視界に星が舞った。


 寝起きの俺に頭突きをかまされ少女が尻もちをつく。燃え上がるような赤色の髪に、意思の強そうな翠の瞳。しかし、その眦にはわずかに涙が浮かんでいた。


「あなた……っ! せっかく人が看病してたのに、いきなり頭突きとか何考えてるんですか!?」

「すい、すいませんっ! 驚いて、つい……」


 謝りつつ周囲を確認する。屋内だ。病院やその類では無さそうだが、宿か何かだろうか。室内にはこの少女一人しかいない。


 改めて少女を見る。年齢的には俺と同じぐらいだろう。異世界人なのでわかりづらいが、おそらくは十六歳前後だ。

 細身だが華奢というよりはスレンダーという言葉が似合う。イリスのような痩せぎすではなく、陸上部の女子のようにしなやかに引き締まっている。

 服は裾の長い臙脂色のローブに黒のミニスカート、腰のベルトにはいくつものワンドが吊られていた。どうやら魔術師らしい。


「あの、あなたは――痛っ」


 起き上がろうとして、足に痛みを覚える。


「動かないでください。寝ている間にポーションを飲ませましたが、骨のヒビはそう簡単に治りませんので」

「ヒビ……」


 折れてはいなかったらしい。少し安心する。

 ふと思い立って治療魔法を足にかけてみると、瞬く間に痛みが引いた。恐る恐る動かしてみるが、素人目には問題が無さそうだった。


「治癒魔法――混じり気の無い光属性ですか、珍しい。それに、魔法の練度も高い」

「そ、そうです、かね……」


 まじまじと瞳を覗き込まれる。顔が近い。頬が熱くなるのを感じる。気恥ずかしくなって思わず顔を逸らそうとするが、少女の手ががっちりと俺の顎を掴んでいる。

 引き離そうと彼女の腕を掴むが、両手を使ってもビクともしない。


 俺が慌てていると、部屋の扉ががちゃりと開かれた。入ってきたのは、イリスに勇者と呼ばれていた男だ。

 彼は俺を見てホッと息をついた。


「良かった、目が覚めたか。さっきは助かったぜ、危うく死ぬところだった」


 勇者がいかにも好青年といった感じの笑みを向けてくる。溢れ出る陽キャのオーラ。まぶしい。


「ど、どうも……」


 少女のせいで未だ熱い顔を隠しつつ、曖昧に答える。

 ふと少女の方を見ると、随分と気難しい顔で俺と勇者を見ていた。


「どうした、フィリア? そこの子と何かあったのか」


 勇者の方もそれに気づいたようで、フィリアと呼ばれた少女に問いかける。


「……いえ、何でも。この子も命に別状はありませんし、怪我も自分の治癒魔法で治していました。少々欠食気味なのが気になりますが」


 同い年ぐらいの子に「この子」呼ばわりされると何とも言えない微妙な気持ちになる。いや、確かにこの体は結構幼く見えるので仕方なくはあるのだが。


「そうか……。飯食う金が無えなら、しばらくウチで面倒見るが――」

「ちょっと、アレン」

「んだよ。別に下心とかじゃねえって、命の恩人だぞ」


 ……? どういうことだろうか。所持金は非常に心もとないので、面倒を見てくれるのなら大助かりだが。


「そういや、まだ名乗ってなかったな。俺はアレン。アレン・サジタリア。一応、四勇者の一人だ」


 四勇者とか言われてもわからん。そもそも勇者がわからん。知っていることを前提のように話しているし、常識レベルの知識なのだろうか。


「で、こっちの赤いのがフィリア。俺の仲間で、魔術師だ」

「人のことを赤いの呼ばわりしないでください」


 少女――フィリアがアレンを小突く。何とも仲が良さそうだ、羨ましい。


「で、そっちは――」

「ああ、そうですね。まだあなたの名前を聞いていませんでした」

「あ、はい。俺、いや、わ、わた、私は、ひい、じゃなくて、イリ、いややっぱり、えっと」

「落ち着いてください」


 秀津璃斗と名乗ろうとして、言い淀む。俺の名前はイリスが勝手に使ってしまった。ここで俺が本名を名乗れば、面倒なことになるかもしれない。かと言って、イリスの名前を使うのも……


「……名乗りたくねえなら別に構わねえが」

「違っ、その――りぃ、り、リリィ! 私の名前はリリィです!」


 咄嗟に浮かんだ名前を叫んでしまう。

 リリィて……! 偽名にしてももっといいのあっただろうに! ちょっと女の子女の子し過ぎている、恥ずかしい!


「あー、じゃあそれでいいか。無理には聞かねえ」


 アレンが苦笑いを浮かべる。本人はそのつもりはないのだろうが、その対応が何故か逆に俺の羞恥心を煽った。

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