「突然」
「マジかよ!運命なのか!?」
すぐさま、彼女の方に駆け寄った。近づけば近づくほど胸の鼓動が小太鼓から大太鼓へと変化していく。彼女の隣を通った。隣に座ろうという意志は強くあったが牧野の童貞心がそうはさせない。顔は彼女の方を向きながら斜め後ろの席に座った。前だと彼女が見えないからである。軽くストーカー気質だと感じた。
全く頭に入らない無駄な授業をたんたんと済ます。その間に牧野は彼女のことを上から下、隅々までチラチラと見た。見てはいけないことは分かっていても目の自由が全くきかなかった。
「あー疲れたー」
「一回もしゃべりかけられなかったし、目もあわせてもらえなかった。」
普通の授業では失うことがないほどの体力と精神を使いきった牧野は友達の高野に誘われて飲みに行くことにした。
「彼女なんて俺にはいらねーんだよー!」
酔った勢いで心の片隅にも置いていないことを嘆く。
「そーだそーだ」
しかし同じタイプの高野は賛同する。そんな意地の張り合いのような会話を刻々と進めていき、この楽しい時間が終わりに近づく。
飲み屋から家まではそう遠くはなく、歩いて帰れる距離だ。全く定まらない足を一歩ずつ進めていく。吐きそうになりながらも必死で耐えて彼女と出会ったあの横断歩道までたどり着いた。その横断歩道を歩く間だけは酔いが覚めた気がした。そして、何とか家に着くと、着替えることもなくベッドに駆け寄り就寝した。
翌朝、二日酔いで痛い頭を支えながら大学へと向かう。足どりが重かった。
「あー頭イッテー」
今日は大学を休むことを考えだが、それはやめた。牧野の重い頭と足を動かしたの彼女の存在だ。会いたいから大学に行く。牧野の考えはただそれだけだ。
大学にやっとの思いでたどり着く。やっと会えると小さな胸に収まりきらないほどの期待を溢れさせ、教室に向かった。教室に足を踏み入れる。
「...!?」
あのドキドキを感じない。なんだかどんよりした感覚だ。何かがおかしい。彼女が座っていた席に向かう。
「いない...」
彼女はいなかった。エベレストの山頂にいた。牧野の気持ちは、店の地下室まで落とされた。
授業が始まった。先生がゆっくりと歩いてくる。そして、先生は言った。
「あの席に座っていた更科さんが事故で亡くなられました。」