第七話 宿の救世主!そして、デレ期!?
「ヨーマさ~ん、はい、どうぞぉ」
「うん…、ありがとう…。美味しいよ」
「そうですか?ありがとうございます♪」
「……………」
状況を説明すると俺は病院のベッドの上に座っていてその横にいるリーネにご飯を食べさせてもらっているところだ。どうしてこうなったかというと正直よく分からない。目が覚めると俺は病院のベッドの上に寝ていて横の椅子でリーネが眠っていた。リーネは起きると俺に抱きついてきて改めてお礼をいってきた。その後、
「ご飯作ってきたの。食べられそう?」
と、言われ食べられそうだと言うとなぜか橋でおかずをつまみ俺の方に差し出してきた。自分で食べられると言ったが断られた。そして、今に至る。
「ヨウマ君、起きたんだね。よかったよ」
しばらくするとナタリーさんが入ってきて事情を説明された。俺は気絶したあと駆けつけた護衛団に救助され病院に届けられたらしい。その後はリーネがずっと側で看病をしてくれていたようだ。因みに呼び方がヨウマさんからヨウマ君に変わっているのさんだと何だか他人行儀ぽく聞こえるからと言うとそうかわった。
「私がするって言ったんだがね。ずっと離れなかったからリーネに任せたんだ。この子がこんな風にするのは初めてでね」
「俺も驚きました。これどうなってるんですか?」
「助けに来てくれた姿が格好よかったそうだよ」
「そんなですか?壁にぶつかってしかいなかったような?」
「女の子ってのはね、単純なんだよ?好意を抱いていた男に助け出されたんだ。そんなの惚れ込むに決まってる。まぁ、他の男ならあれだがヨウマ君なら安心だし、見たことがないリーネを見られるしね」
「そうですね。俺も嬉しいです。………それで、その聞きたいことがあるのですが」
俺は少し躊躇ったがなぜあのチンピラが来てリーネを連れ去ったのかずっと疑問だったので聞いてみた。あのチンピラどもはリーネのことを知っている風な感じだったから何か関わりが有るのではないかと思ったのだ。
「あぁ、あいつらのことだろう。分かっているよ。ちゃんと説明する。私はね…」
ナタリーさんの話を聞く限りだと奴等にはさらに親玉がいてそいつらにお金を借りていたらしい。ここは親が残した宿らしく潰したくなかったが一緒に残していった借金も多く取り壊しが決まりそうなときにお金を貸してやると言われたそうだ。経営を再会し安定してくると最初は少しずつ返せば言いと言われていた。しかし、リーネが借金のことを知り働きたいと言い出して、看板娘になって客足が増え始めた頃から返済額が増え始めた。最初は、収入が増えたのだから当たり前だと思っていた。しかし、徐々に返済額が増え、返せなくなってくると
「返せないなら、その娘を貰おうか。それでチャラにしてやる」
そう言われたときにこいつらは最初からそれが目的だったのだと気付いた。その時はなんとか帰ってもらい、俺という常連を手に入れ安定して返せると思っていたらしい。だが、相手もそれを知りお金が貯まる前に押し掛けたと言うことが一連の流れだそうだ。因みに連れ去られていた女の子達は病院に運ばれた後、回復し次第親御さんの所へ返されるそうだ。
「本当にすまないねぇ、私たちのことに巻き込んで。新しい宿を探しておいたからそっちに移った方がいいよ。キャンセル料金はこっちのことで起きたんだからもちろんなしでいい。本当は何か払うべきなんだろうけども何もなくてね。すまないねぇ」
急に言われてなんのことだか分からなかった。
「どういうことですか?」
「あいつらはヨウマ君が倒してくれたけど借金が消えた訳じゃないから多分また別のやつが取りに来るだろう。これ以上迷惑はかけられないし…」
なるほど、そう言うことか。俺は少し考えた後、ある考えを提案した。
「借金はどれくらい残ってるんだ?」
「金貨8枚ちょっとだけど、どうしてだい?」
「それくらいなら手持ちにある。変わりに払おうかとおもって」
「そんな事してもらうわけにはいかないよ!ただでさえ迷惑かけて怪我までさせたのに」
「そうだよ、ヨーマさん。私たちのことは気にしなくていいから」
親子揃ってそんな事を言う。
(さすがに、受け取らないか。なら)
「じゃあ俺が借金を返す変わりに当分の間、ただでここに泊まらせてくれ」
「「……………」」
今度は親子揃って黙り込んだ。
「それは、私にとっちゃあ有難い話だがどうしてそこまでしてくれるんだい?」
「うん?それは、ここの飯が気に入ったからかな?それと」
俺はリーネの方を向き
「リーネのことが好きだから、かな。だからこれからも世話役を頼むよ?」
「っ……そ、そんな事でいいなら精一杯頑張ります」
「あぁ、飯も取って置きのを作ってあげる。本当にありがとう」
ナタリーさんは深々と頭を下げた。そのとき、病室の扉がゆっくりと開き、大柄の男が入ってきた。日本ならスーツや袴を着ていそうな男だ。おそらくナタリーさんが言っていた親玉だろう。また難癖を付けてリーネを拐いに来たのかと身構えるとその男は丁寧に頭を下げ謝罪してきた。
「今回のことは、部下が失礼した。あいつらへの沙汰も下した。今日はそれを伝えに来ただけだ。そう身構えるな。それと、話が聞こえたんだが、お前が借金を肩代わりすると言ったのか?」
「あぁ、そうだが?まさか駄目と言う訳ではないよな」
「いや、言うつもりはない。こちらは返してさえ貰えればいい。お前が構わないと言うならこちらが止めることではない」
「そうかい。しっかりとした親玉でよかった。いつ返せばいい?」
「いつでも構わないが遅くない方がいいのは確かだ。いつなら出せる?」
「俺は明日でも出せるがそれでいいか?」
「分かった。なら、明日宿に向かう。そこで返してもらおう」
「朝までには準備しとく」
「そうか、では失礼する」
親玉はそれだけ言って病室から出ていった。俺は一気に緊張が緩みベッドにもたれ掛かった。
「はぁ、よかった」
「大丈夫ですか、ヨーマさん?」
「あぁ、大丈夫だ。少し気が抜けてね。リーネ達は大丈夫?」
「はい。怖かったですけどヨーマさんがいたので」
「ヨウマ君、本当にありがとう。私たちの宿を守ってくれて」
「いえいえ、それに俺のためでもありますから。うまい飯と綺麗な宿が無くなると悲しいですから」
そう言って、俺はベッドに寝転んだ。リーネに身体にさわるからと寝かされたのだ。その後、
「本当にいいこだねぇ。うちの子にならないか?」
「嬉しい誘いですが。今は止めておきます」
「今は、かい?」
「はい。今は、です。出来ればの話ですが」
「そうだね。だが、大丈夫そうだ」
そしてナタリーさんがリーネを見ると恥ずかしそうにうつ向いた。が、やがてこちらを見て、
「将来的になら」
と言った。俺はガッツポーズをし、ナタリーさんによろしくお願いしますと頭を下げた。調子にのってふらついたりもしたがそれはまた別のお話。次の日の朝親玉さんが来てお金を払い、二言三言話して帰っていった。親玉さんはなぜか俺のことを気に入ったらしく
「この宿は手を出されないようにしてやる」
とも言っていた。それを聞いてナタリーさんはさらに頭を下げ、リーネは飛び付いてきた。そうして無事?借金を返し、俺は清潔でうまい飯を作る宿を失わずにすんだ。