生きていたい
「なぜ、貴方を固執する理由は」
僕をじっと見つめる女の子がいる。不純から始まった伽行為であるが、彼女の眼差しにはいっさい不純物を感じない。それでも、清らかさからほど遠いように感じた。
芋生家の頭と呼ばれる女の子は威厳満ち態度から普通の女の子に変貌しつつある。それが僕を動揺させた。そうでなくてもここは寝室だ。男女が二人いるとしたら敏感になる。というより、彼女は既に僕を抱こうとしている。それを、僕はなんとか突っぱねた。だが、彼女は諦めた様子はないようだ。
「それは、芋生酩酊の血を一番強く引き継ぐ直系の貴方だからこそ」
芋生酩酊、先の大戦で隣国の首都を壊滅した英雄であって、隣国にとって悪霊で敗北した我が国が犯罪者として祀ることになる存在。我、曽祖父だ。
「人をサラブレッドみたいな扱いするようだけど、君は僕の主家にあたるんだろ? そんな下位にあたるような僕を関係にもつなんて不思議だね」
力こそすべてそういうことなんだろうか? 破壊と孕みの一族はもはや害悪しかない。それでも、彼女と僕は生きている。
「芋生家の歴史は人間のより強い魔法を生み出す為の配合なの。貴方は突撃型の一番の要。私は補助型で一番の力を有するわ。あの娘を抜かしてね」
あの娘……。まさか。親父の言葉がよぎる。『妹と関係をもちなさい』忌々しい言葉だ。
「私は突撃型をサポートし、そして子孫を残す為に生まれてきた」
「そんなの、悲しいだけじゃないか」
いや、彼女は平静な表情をしていない。僕に全てをぶつけようとしている感じだ。
自らを道具として生きて人をも殺戮の道具とする。そして、消耗品だからこそ製造する。それが、生きた証とでも言えるのか?
「まるで、兵器じゃないか」
「今更? それでも、私は生きていたい。たとえ、愛した貴方を殺しても。だけど、残すものは欲しい。境遇が同じだからこそ愛が欲しい。貴方と愛の結果がほしい」
「それで、君を抱けということか? 僕は嫌だね」
確かに、死んで役に立つ僕と、それをサポートし、次の兵器を孕むために存在する彼女は兵器という名の道具だ。境遇は似ている。お互いが一番の理解者ともいえる。だけど、僕は平穏がいい。平穏の中で愛した女性と一緒になりたい。
「ふっ、お前がどうゆう態度をとろうが避けられぬことよ」
再び、傲慢な彼女に戻る。強がりか、諦めたのだろうか。
そして、僕は押し倒される。突撃型は補助型に抗えない。僕は始めに言った彼女の言葉を理解した。そして、これは道具として組み込まれたシステム。僕は観念しただの人形と化した。心以外は。
だから、僕はなにも残してはいない。なんの気持ちよさも感じない。向こうが満足するまで待つだけだ。
小一時間たっただろうか、僕と彼女は空虚だけ味わった。そして、別れた。諦めてくれたようだ。
そして、外は静寂に内は烈火のごとく激しく感情を放たれる。無理ないとは思う。
「妾に恥をかかせよって後で後悔させるぞ」
それでも、僕は半端に優しさをみせてしまう。
「君は君を大事にしなよ。僕は君を抱かない。殺されてもだ」
最後のあがきだろう。噛みつかれる。
「その甘い考えは後で失敗するぞ」
でも、僕はいたって静かに対応する。
「したっていい。僕は君に所有されない」
「これから、気配無き獣がどんどんと投入されるのじゃぞ。我々兵器は多いにこしたことはない。しかも、質の高いものは欲しい」
「その結果が子作りをするなんて想いたくない」
「ちっ!」
最低なアプローチのやり取りだ。だけど、どうにもならない。僕が彼女の立場ならどうしているのだろうか? 考えだけ無駄か……。
僕は去っていく。途中で父さんと遭遇する。父さんは簡潔に『どうだったか?』問うが、僕は『問題ない』と嘘をつく。多分、見破られているだろう。だが、疑念の面持ちもされず、平静でいられる。多分、父さんの代にもこういうやりとりはあったのだろう。母さんはなくなっているが、親父達の時代はどうだったのであろう?
いままで聞きたくなかったのでまったく知らない。それが、幸か不幸かはわからない。
これで、僕は貞操を守ったが、二人の女の子が頭をよぎる。
尾瀬遙、芋生五百子。親友の彼女と実の妹だ。ふたりも僕の遺伝子を狙っているのだろうか? そう思うと虫唾が走った。それなのに、二人のことを考えてしまう自分が酷い人間だと感じた。唾棄すべきは僕自身か。
加えて、芋生十六の関係がここで終了するとも思えなかった。
いっそのこと、隠し持っている。自爆用の魔法薬を飲もうかと悩むほど自暴自棄に走ってしまう。だが、それは逃げでしかないと自分に言い聞かせた。
僕も、十六と同じで不幸な境遇はあっても生きていたいのだから。
それは、誰しも同じ。同じであって欲しい。
犠牲でなりたつ社会などいらない。しかし、人は争い、自己の愛をばら撒く不完全な生物から抜け出すことはできない。教化も感化も自己正義も食い散らかした粕でしかないのに、それを美食として共有して味わいよがっている変態でしかないのだ。
らしくもなく、屁理屈じみた理論をこぼす自分。
変わりはしない。変わりはしないんだ!