さあ、抱け
白くうすい布地を纏った女の子が僕に近づいてくる。この子が父さんの上役とでもいうのか。はしたない恰好はしているが、確かに堂々として威厳を感じる。そのうえ、年不相応な妖艶な魅力を感じた。僕は唾を飲んだ。
「貴方は誰ですか?」
「ほほほ、なにをいっておる頭じゃよ。わからんか? 芋生家の宗家で主である芋生十六じゃ」
「十六……子供の頃に見たことあるな。おじいさんだったような」
僕が被験体として施設にいた時に見たことがある。確か、その時に僕と同じ年頃の女の子もいたような。
「うむ、妾は先代の後継者じゃ。何も知らぬようじゃな」
「申し訳ありません。息子には知らぬままに事を運んだほうが迷いを生じないと思いまして」
父さんは言うがそんなことはないと思う。余計に物事を拒むんじゃないかと言いたい。
「気負いしてしまうということかの。だが、妾は隼人を抱くことが使命の一つと教えられてきたが、なんの緊張も感じぬ。むしろ、喜びに感じるぞ。さあ、話は後じゃ奥へとついてくるがよい」
そんなことは、嫌にきまっている。五百子と尾瀬遙さんの関係でいっぱい、いっぱいなのだ。誰でも抱くような見境のない人間にはなりたくない。
しかし、十六という女の子は僕の腕を掴んでひっぱっていく。僕は力がある方でないがそれにしても女の子の力に負けるのが不思議だ。というより力がでてこない。どういうことだ?
「不思議そうな面持ちじゃの。もしや、突撃型と補助型について知らぬのではないの?」
「突撃型?」
「どうやら、本気で知らぬようじゃの。まあよい、二人沿い合うときに教えてやろう。フフフ」
意地悪そうに笑われる。楽しまれているようだ。
「では、十六様、私達は社の警戒をしていますので」
邪魔者は退散といった感じだ。しかし、邪魔をしてほしい。貞操観念が崩壊してしまう。
「では、妾は妾で伽を楽しむとするかの」
くそ、これが目的だったんだな。翻弄される自分が虚しくなった。怒りすら感じる。
「これ、そんな怖い顔するではない。皆、命がけなのじゃ」
みると、十六は悲しそうに同じ言葉を放った。
「命がけなのじゃよ……」
僕は神社の奥へと連れていかれた。そこに、遊郭のような雅で目の悪くなりそうなくらい灯りの寝室があった。ちなみに遊郭というのは自分のイメージだが。
「ほれ!」
そのまま、十六に布団へと押し倒される。されるがままという感じだ。歯がゆい。
「そう、睨むな。突撃型が補助型に抵抗できるわけがない。お前が貧弱ではないのだ。そういうつくりになっている」
突撃型、補助型とはなんなのだろう。自爆人間を知っているのにそのことについては知らない。
十六は僕の体に乗っかって耳元にささやく。興奮した息が耳元に届く。生ぬるく感じる。
「せいぜい、楽しませてもらうぞ」
男女の立場逆転がした状態で十六は僕の全身を触る。それが、体では拒否しないなさけない自分がいる。だが、心は負けない。
「君は好きな異性はいないのかい?」
せめて、言葉では抵抗した。しかし、強い言い口ができない。情けない。
「いるぞ。お前じゃ」
「は?」
僕は惚けた。だとしたら、このアプローチは直球しすぎないか? 僕は疑った。
「冗談でいっておるわけではない。幼少から、お前のことを抱くことを決めつけられて、妾はそれが嫌ではなかった」
「そんなの恋なんかじゃない」
「そうかの? 妾はそうは思わない。芋生の一族は戦いに役に立つことだけに存在している。その中で境遇が似た者を恋しておかしいのか?」
「君はどういう生い立ちなの?」
「お前と同じ薬の実験台じゃよ。そして、頭となったいまは全力で突撃型をサポートする身」
「僕と同じ施設にいたの?」
「いや、突撃型と補助型は別施設じゃ。補助型は突撃型と違い死ぬことを許されない。突撃型は死ぬことも役割の一つしてはいっている」
十六はニヤリと笑う。どことなく嘘の表情で悲哀に満ちている。そして、本心がこぼれ落ちた。
ポタリ。
涙? どういうことだ。
「妾……。私は突撃型としか関係が出来ぬ身。だったら、幼いころから慕っていた隼人さんがいい」
急に口調が変わった。どういうことだろうか。表情も年相応の十代の女の子の顔に変わる。
「私を抱いて! 抱いてください」
わからない。わからない! わからないよ!
「なぜ、僕に固執する?」
なぜ、どいつも、こいつも僕に関わる。困らせる。苦しませる。
僕は出来る力で十六を突き放した。