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気配なき獣と人間爆弾

 隣国とは表向きには停戦状態でいる。しかし、ちいさな摩擦はある。僕らは高校を卒業すると免除されない限りは兵役に二年は送られる。中には命を落とす人間もいる。兵役逃れは国民最大の刑罰を与えられる。


 我が芋生(いもう)家は敵国の首都を壊滅したという罪状を背負わされた一族なのだ。本当なら英雄なのに敗戦国は悪の国の罪人でしかない。


 僕は妹とベッドで寝ていた。いつもはおとなしい妹があの時の口移しが始まって以来騒がしい人間になっている。


「兄さんには死んでほしくない。だから、被験体として兄さんが施設にいることを知ってから私は薬を投与する役割を望んだ」


「投与? あの、口移しか?」


「そう、今の魔法薬は直接ではなく、間接的に飲まないと効果があらわれない」


「だから、口移しか。どういう仕組なんだ」


「意味のない仕組。ただの感情。私たちの子供の頃に自爆テロがあったでしょ。これは機密だけど、私達の国の仕業よ。実験的に誰に悟られることなく敵地に侵入が出来て自爆ができる薬。それを、つくった人のやり方が今の魔法薬の元となっている。それを真似なければ高性能の魔法薬はつくられない。おそくなったけど口移しの意味は魔法薬を作った人が刺客として送られた人を愛してしまったから。自爆する前の思い出としてプロセスに組み込んだ」


「わかれのキスみたいなものか」


 僕は妹と平然と一緒に寝て話を聞いている。子供であれば仲が良い兄妹ですむんだが……。


「わかれのキスなんじゃないわ。いまは、この工程をすることで魔法薬の副作用を防ぐところまでいったの」


「移す側のデメリットは?」


「移される側と同じくらいよ。半減できる」


「半減か……」


 それでは危険なままじゃないか。妹の五百子(いもこ)尾瀬(おぜ)さんはそんなリスクを背負って戦いのない時に僕に薬を口移ししたのは何故だろうか? 罠かなにかと思っていたけど。


 昨日の件では新垣(あらがき)君は名前を知らない女の子に薬を口移しした。そして、女の子は化け物と一緒に爆発した。守られていない。


 その、考えを妹は察したようだ。僕には情報が少なすぎる。


「昨日の騒ぎ……といっても誰も気づく人はいないでしょうが。隣国の新兵器よ。知覚できないモンスター。だから、表向きには報道されない。非難もされない。だけど、秘密裏だからこそ、私達が倒しても隣国から文句はいえない」


「口移しで副作用を半減する? だけど、新垣君は女の子を守れなかったじゃないか!」


「自爆だけに関して今は無理の状態。死ぬしかない。だから、わたしはなんとしても兄さんを助ける糸口をみつけたい。でも、間に合わない」


「そんな……」


「だから、兄さんが死の役目がくるまで私が愛し続ける」


 冗談じゃない……。施設から卒業し芋生家に暮らせるようになってから僕は平凡で静かな暮らしができると思っていた。その願いがかなわない。死の役目がくるのであれば偽りの楽園でモルモットとして生きていた方がよかったのだろうか?


 しかし、自分の身だけを嘆いていてもしょうがない。昨日は学校の生徒が数名死んだ。というより世界から抹消された。この世に存在していたことさえ消えてしまっているようだ。


 ふざけんな! 


「自爆して悪名を残した曽祖父さえこの世に存在したことは残っている。なのに、なんだ? 死より酷いだろ全記憶の抹消? ふざけんな」


「それが、兵器の役目としては都合がいいの。私達の国は犠牲になって国を存続する。隣国は争ったこと知らぬふりをして存続する」


「どちらも、クソだよ」


「だから、だから、すこしでも兄さんと綺麗なままでいられる世界にいたい」


 五百子は泣きながら僕に抱き着いてくる。その涙の理由は。


「兄さんを愛してしまったから」


 冗談や病気で言うような気迫ではない。本気のようだ。だけどね。だけど逃避行するほど、僕も軟弱じゃない。生き延びる手立てはを精一杯探すしかない。だからこそではないが。


「僕はそれを応えてやることはできない。仮に血のつながりがなくてもどうなるかはわからない」


「知っている。だから、こうやって」


 妹は口づけ、いや、口移しをしてくる。また、あの薬か。


 感情を操るようで、五百子に対して感情が揺らいでいくのをかんじる。いや、すでに受け入れている状態で心を許しているのでは。なぜ、僕は抵抗しない。拒否しておいて僕は口だけか?


 そんな中、僕は気持ちよくなりながら、先ほどの暗い気持ちが消え安心感をいだいてしまっている。薬のせいか、口づけのせいか。わからない。


 !


 僕の部屋を開けられる。カギをかけていないのがいけないがみられた。誰だ? ノックしろとも言えない。


隼人(はやと)話がある」


 見られた、父さんに。五百子をそっと布団に隠す。しかし、すべてが遅い。


 父は一向に表情を変えずに僕に近づいてくる。妹を抱けと言った父だ。このシーンがふしだらとかいう感情が生まれないのかもしれない。幼少からの付き合いではない。父がよくわからない。それは、五百子にも言えることだが。


「かまわんよ。隠すことはない。だがな、気付かれずにやるというのも考えなくてはな。自爆人間は考えなくていいわけではない。お前は先ほどの連絡で最終自爆兵器ときまったよ。曽祖父のようにな」


「そんな、勝手な都合を」


「隣国が気配なき獣を投入したのは昨日のことだ。こちらも、気配なき自爆人間を早く使用しなければならない。だが、お前には他に使命がある。それを説明するために出かけるぞ。したくしなさい」


「どこへ」


酩酊(めいてい)神社」


 我が家の曽祖父の名前だ。悪名高き悪霊を鎮めるところして存在する。隣国の圧力で普通の仏として眠らせてはくれないのだ。


「わかったよ」


「期日、決行日はきまっていない。今は安心していなさい。ただ、覚悟は決めておくことだ」


 たぶん、これで、お別れなんだ。少しでも人間として生きていられたのだろうか?僕は父に従った。


 僕は、他人に爪痕をのこしただろうか? 家族、友人、恋人はいないけど……。


 それに、値するのが、新垣無双(あらがき むそう)尾瀬遙(おぜ はるか)そして、芋生五百子(いもう いもこ)の三人と思っていいのだろうか。


 思ったところで、別れはやってくるのであろう。それでも、あがいてみせたかった。

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