狂う様を酷く冷静に見つめる瞳
狂気に満ちている五百子をただ冷ややかに父は観察している。何の感情も生まれていないようだ。それとも、内に秘めているのだろうか。
狂気によがっている娘を見ているのか? 気にせずにいるのか? わからない父がいる。僕には理解できない。
そして、僕、いや、53人のフォートに53人の父が淡々と口を動かす。
「どうだ? これが使命のために育てあげた道具だ」
「けっ、道具だ? テメエのほうが愛着のわかない道具で俗物達の所有物に見えるぜ」
フォートは毒づくが父は一向に気にすることはない。ただ、返す言葉だけは捨てていない。
「その通りだ。私の道とはそういうものだ。人は道があってこそ生きていける。迷うことなく溺れることはない」
「血の通っていない禅問答かよ。理解できないぜ」
僕も同様にわからない。ただ、わかったふりしかできない台詞に感じる。
「理解するのではなく、考えず道に近づくことだ。どうやら、お前と私の道は違いすぎたようだな」
「ああ、そうだな」
僕で言うところの自由なのだろうか? 父は不自由に生きているとおもった。そうではないのか? 接する時も少なかったせいもあるが分かち合うことができない。そんな、僕自身が悲しく感じる。
「ならば、父としてやれることは真の強さを教えるのみ。例え、この場でお前を始末してもだ」
「俺が死んで再利用するだけだろ? 蘇らせてな」
「ああ、だがな、お前は死ぬよ。お前ではなくなる」
人格をも変えるのだろうか。余所で気持ちよがって狂乱している五百子も人格を変えられたのでは? そう考えなくもない。だが、僕は甘い考えを捨てた。現実とは苦難の繰り返しだ。
「その通りだ。だが、それに身を委ねてみろ。苦しみはなくなる。だがな、本当の幸せではないのだ。それでも苦があるのは生きているからこそ。どんな時でも楽しませてみせろ」
父はフォートの深淵にいる僕の声が聞こえるのだろうか? 僕は今何もできない。フォートを信じるのみ。そして、フォートは応えた。
「言われるもないぜ」
53対53の同一人物の白兵戦が始まった。まるで、空襲で投下された爆撃のように辺りは散って爆音が響く。そして、森は燃え上がり地形が変貌していく。
二人は徒手空拳を何度でも打ち合いぶつかり合った。火花が散り魔力が四散していく。何度でもぶつかり合うが二人は消耗することなく果てがない。
「やるじゃねえか!」
「お前が最高兵器と称されても、こちらとしては三本指の一人、超獣と呼ばれているのでな。簡単に力負けするわけにいかないな」
父はそう言いながらも静かさの中に激しく動く。川から瀑布に移るが如く戦っている。フォートは尽きぬマグマのように熱を放ち続ける。こうしている間にも森は地殻すら変動する。猛烈な勢いで削られていく。
「この場じゃ、ギャラリーにいない連中にも迷惑がかかるな。移動しないか?」
「いや、それには及ばない。どうやら、このままではお前に勝てない」
「けっ、弱気かよ」
「いや、勝ちに徹している」
父はそう言うと転送されてきたのか女性が現れる。黒檀のように黒光りの質感を肌にした女性だ。美人だが、人とはえらく異質な美を感じた。別種族の美しさというのだろうか。
「なんだ? あれは?」
「紹介しよう。新しい妻だ。そして最後の妻だ」
「最後だと?」
「兵器も一つの仕上げに入ってきてな。隼人より最高品質の突撃型自爆人間を完成させた」
「そんなものがあるわけが……」
しかし、フォートと僕は焦った。有りうることだった。僕が改造されたので終わるわけがない。技術は進化していく。
「イモーコー・アイモー02と呼ぶ」
「聖人と呼ばれたイモーコ―だと」
イモーコ―に関してコ国の首都壊滅から人々を先導して救った人物としか知らない。
「最近、遺体を回収することに成功してな。それで作り上げた。そもそも、イモーコ―は自爆人間だからな」
僕は正直に兵器を作る為なら、なんでもすることに驚きを隠せない。タブーとか存在しないのだろうか?
「そうだな。人間の悪意は勝ちへの執念だ。勝つことは楽しい。それが行動原理」
「どうでもいいんだよ。そんなものは俺が始末する」
「まあ、慌てるな」
そう言うと父は53体から一人に戻る。イモーコ―に近づく。薬を口に含み黒檀な女性に口移しをした。そうすると、父が消えてしまいイモーコ―に僕より巨大な魔力が放出される。その異常な様を冷静に見ている五百子がいる。五百子も父と同じなのか……。
「ど、どういうことだ?」
「初めまして。私は02。世界の破壊と均衡を保つ存在です。早速ですが死んでもらいます」
彼女はそういうと大量の魔力の塊を僕に飛ばしてくるのだった。
ドカン!
僕の一人は一撃で消滅した。圧倒的な力の差だ。しかし、僕達は残り52体いる。
「ふざけるんじゃねえぞ! あと、42回繰り返せば俺を仕留めると思うなよ。やってやるぜ」
フォートは懸命に足掻いてみせた。余裕はないだろう。なにか、策はないのだろうか。僕にできることはないのか? 危機に陥ったが敗北は認めたくない。
戦いはこれからだ!
三日目頑張ったよ。頑張って面白くしてます。多分面白い。だけど、書いていくとわかるのが自分の執筆力だよね(^_^;) 続きも是非読んでくださいね。




