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学校の魔界化

 僕は二人の女子に朝から口づけをされた。ディープにだ。一人は親友の彼女でもう一人は妹だ。世の中は狂っていると社会を呪うしかない。しかし、不思議と高揚感もあった。うれしいのか? 僕は。クソッ!


 近くの壁に拳を叩きつける。本気ではないとはいえ怪我をする。拳から血が流れる。しかし、痛みで気持ちが晴れてくれることはないようだ。


「大丈夫? 隼人(はやと)君。自傷しているの? もしかしてマゾ?」


 親友の彼女こと、尾瀬遙(おぜ はるか)は意地悪く面白がっている。テメエの原因でもあるだろうが。だが、抵抗しない自分にも落ち度がある。僕はいったいどうしたいというのだ?


 僕は尾瀬さんを睨むが彼女は一向にかまわずほほ笑んでいる。僕を誘うかのように。クラっと頭が揺らいだ。しかし、安い挑発にのる僕ではない。気をそらすために拳から流れる血を舐める。


「兄さん、イケない。今はテープしかないからこれで傷口をとめる」


 イケないのはお前の行動だろうが。そうとも怒れずに素直に傷口を布とテープで押さえてもらう。それが、悪い気分でもない。なぜか、これも気持ちがいいと思えた。もう一度、拳を破壊してもいい。


 だが、僕は気を落ち着かせる。心揺らいでは駄目だ。せめて、誰か、この二人を牽制する人間がいてほしい。クソッ、新垣(あらがき)君が尾瀬さんを押さえていればいいんだ。そして、僕は妹、五百子(いもこ)をつっぱねる。


 しかしながら、そうはいかず僕は両手に花の状態で学校まで向かう。周りの人間からは羨望の眼差しで見られているような気もするが僕としてはちっともうれしくない。嫌々ながら歩いた。まくことはできないのだろうか? できていたら、こんな関係になっていない。僕が人間が弱いからそうなったのだろう。こんな、僕になんの魅力がある?


 そうして、僕らは学校内に入る。玄関先の全学年共通通路を歩いていると女子グループと遭遇する。というより待ち構えていたという感じだ。その中から一人女の子が僕に近づいてくる。僕には面識がない女の子だ。苦手だから覚えないだけかもしれない。


「隼人君だよね?」


「私は隣のクラスの古出楠(こで くすのき)というの」


「そりゃ、ど、どうも」


 冷静にあしらったつもりが相手に緊張感を伝えてしまう。いかん、どうも女子は苦手だ。そもそも朝から女子二人とのひと悶着あったのだから、余計に警戒してしまう。いきなり、口づけするとかはないだろうが。


「前から君のファンだったんだ。コレ受け取ってくれる?」


 キレイに包装された袋を渡されようとする。多分、お菓子かなにかだろう。僕は付き添っていた二人を見る。遠慮ではないが気になってしまう。しかし、僕はフリーであって誰のものでもない。そう、自分に言い聞かせる。


「おっ、隼人君。モテるね~」


「兄さん、私はこれぐらいで揺るがない」


 僕は欲しくはないが受け取っていいということだろう。余計なトラブルも起きないだろう。素直にプレゼントを貰い、早速に袋を開ける。


「クッキーだね」


「うん、食べてみて」


 僕は口にした。しかし、これは何かがおかしい。魔法薬に抵抗力のある僕がわずかに感じる違和感。僕はジッと古出さんという女の子を睨む。彼女もまた悪女のように楽しみながら笑う。


「やだ、察したようね。恋のおまじないに乙女はいれるものよ」


 そんな、乙女がいてたまるか! なんの罠だ? これは。


「僕の素性をしっての計略だろ? 何が目的だ?」


「新垣君の命令よ。でもね、君のファンであることは本当だよ。だから、クッキーの中に私のはずかしい……」


 ガハッ! 僕は、慌てて異物を吐き出す。とんでもないことを口にする女だ。しかも、本当に実行している可能性もある。


「酷いな~。私が愛情こめて作ったクッキーを」


「こんなの食べられないよ」


 この痴女が! なんの液体をいれた! いや、他にも繊維質的な物もいれなくはない。人毛だよ。


「ごめん、これは返す」


「残念」


「新垣君とはどういう関係?」


「それは、尾瀬さん公認の愛人でーす。ね? 尾瀬さん」


「そうね、私も彼も同種の人間だから許せちゃうの」


「私もそうなんだけど、どちらかといえば隼人君かな?」


 なんだか、どうにも聞き堪えないビッチな会話がするけど、僕を巻添えはしてほしくない。


 この二人は何を考えているか。わからない。どこまでも僕を苦しめようとするんだ? 本気だろうと悪ふざけだろうとブレーキをかけるどころか突っ走っていく有様である。


「兄さん、いけない。兄さんにはこの場は毒すぎる。保健室に行く」


 五百子よ、お前だって俺にとって毒のようなものだろうが! しかし、先ほどのクッキーのせいで調子も悪くなり僕は保健室に向かった。


 しかし、僕の後をつける妹がいる。もうよしてくれ。見守るというつもりでもあるのだろうが。


「お前たちは来るな!」


 なぜか、尾瀬さんまで同行する素振りなので、皆をよけて一人で行くことにする。なにをされるかわかったものじゃない。そんな中、彼女らはクスクスと笑って僕を見送った。なにが可笑しいんだよ! ずっと、僕は不愉快のままなんだよ!


「あそこは魔窟でしかないのに……」


 悪事が蔓延る場所か。神聖な学校の保健室がか?


 その台詞がやたらとひっかかったが、体調も悪いのは背に腹は代えられず目的地へと向かう。



 保健室へと辿り着いたが一瞬は何の変哲もない保健室で誰もいないかのように思えた。しかし、異様だった。


 ベッドが二つあり片方がカーテンで閉められている。誰かが休んでいるのだろう。僕は気を使い静かに魔法薬の解毒薬を取り出し飲んで去ろうとする。去りたかった。


 隠れたベッドの影は二つ。仰向けだろう影とそこに四つん這いに乗っかっている影。いくらなんでもわかる。そういう行為は陰で好きにしてくれ! しかし、喘ぎ声とは別にグチャグチャと肉を引き裂くような音が聴こえた。僕は泣きながら、必死にその場から逃げ出した。


 やはり、魔窟だった。僕は甘かった。せめて、気付かれないで欲しい。


 いったい、どうなったというんだこの学校は? 僕は平穏に生きたいだけなのに。僕の運命がそうさせないらしい。


 ただ、危険極まりない保健室から一刻も早く逃げるしかなかった。

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