行き過ぎた愛情
キ国の刺客襲来は退けた。僕に戦歴などほぼないけれど、難関だった。その相手が父だったわけだが思えばよく勝てたと思う。遙のサポートが大きいわけだが今後は自分が主体となり皆を導き戦わなければならない。荷が重いが自由を手にいれた身に物事から逃げる無責任な行動はしたくない。僕の自由をかけた戦いなのだから。
相手側の死傷者は5名。内訳すると同族であろう芋生の者が一人で残り四名は率いてきた魔法兵。戦闘での死と捕虜を避けての自決。自爆人間でもないのに本当に徹底している。残りの兵は撤退。追撃はやめておいた。
こちらは奇跡と言っていい。死傷者はゼロだ。そのかわり、インドミルの首都は荒れに荒れてボロボロだった。まあ、未開の集落にちかいところだから気にならないって言ったら怒られると思うが。
「なに、すぐに復興できる」
カイラーサーは言った。やせ我慢ではなく、正直な言葉だろう。
「問題は首都を知られたことだ。遷都も考えなければ」
「なに、のんびりして言っているんですか」
ラベルドさんは言うがカイラーサーはあわてず応えた。
「君たち使節団にも知られないように隠れて住処を変えるんだから仕方ない。いきり立って君たちの前で向かい先を教えるわけにもいかないからな」
「貴方たちも被害を被っているのですよ。弱腰な」
「キ国もコ国も人間という種族も信用できないからな。しかし、恩だけではないが君たちがもし、真の平和に向かって戦っているのなら助太刀はする。まあ、遷都してもすぐにバレてしまうだろうがな。逃げ場所はないだろう。あがく為の時間稼ぎというところだ」
「消極的な……」
「今はそれしかないと思います」
僕は二人に弱く言った。言い様がないのが僕の現状だ。不甲斐ない。
「今回戦闘の貢献者がこの台詞ではな」
カイラーサーは呆れもせずに本音だけを口にした。
僕には今後の行動が見えてこない。キ国もコ国にも抵抗するだけの戦力がない。出来ると言えばゲリラ戦だろうが、自分たちが戦局を展開するのではなく追手に対応しているだけである。
「次は私達にかまわずに軍を送り出すでしょうね。名目はキ国とコ国との対立とういうシナリオで。戦地がヘイムハイロウになるわ。実際はヘイムハイロウの奪い合い合戦になるのだけど」
「わかるのか」
カイラーサーは驚く。遙は静かに頷く。遙は凄い、すぐに前に出て情報と指示ができる。それが、僕にできればいい話なんだけど。自身を情けなく感じる。
「無双とは特殊な魔法で絶えず連絡はとりあっている。軍部にも繋がりがあるしね」
「新垣君が! 君たちの本当の関係ってなに?」
「同志よ。私達を不当に虐げる人間達の敵。話を続けるわ。構図はキ国とコ国との争い。しかし、実体はヘイムハイロウの切り取りあいの競争だわ。でも、真の目的は隼人君の奪回。戦局を大きく展開してどさくさに紛れてあなたを捕らえるの。自爆人間の最高傑作だと言われる貴方をね」
「そんな、まるで僕の為に戦争がおきるみたいじゃないか!」
「正解よ。この戦いには世界人口の調節も兼ねているわ。大量の人員が動員されるわ。でも、その行動を起こすために準備がかかる。その間に反抗戦力を募るわけ」
「敵はなんてクズなんだ」
僕は、怒りが頂点に達する。自制が聞かない。僕の為に起こす戦争なら僕は死んだら事が収まるのではないのだろうか? しかし、遙に見透かされて制止される。しかも、哀願する顔で。
「お願い死なないで。貴方が世界の八割を消すために存在していたとしても」
八割もか。途轍もなく計り知れない。僕は何者なんだ?
「そんな重大なことを僕は何も知らずに生きていたのか」
「最終的に自爆人間を操作する魔法があるからね。当人には知らない方が都合いいの。でも、私は知った。許さない、貴方の境遇を救いたい」
「僕なんて、どうでもいい存在だよ! こんな鬼畜な所業に関わってまで生きたいとは思わない」
しかし、心の中に何かが響いてくる。テレパシーだろう。心に直接声が届く。
『お願い兄さん死なないで』
「五百子!」
『兄さんと結ばれるまでは特に』
「こんな時に何を言っているんだ」
『冗談でいっていると思う? 兄さんの境遇を知った時から気になっていた、愛してしまった。遙さんには譲らない』
「今、遙は関係ないだろう」
『いいえ、遙さんは世界と兄さんを守ろうとする形で兄さんにアプローチしている。私は違う。世界なんてどうでもいい。私は生き残りをかけて、兄さんと私だけの世界をつくる』
「そんな、途方もないことできるわけがないだろ」
『いいえ、絶対に全てを手にしてみせる』
僕は唖然とした。どう、感情に表したらいいのかわからない。しかし、強烈な意思が伝わる魔力だった。
本気だ。
五百子にそれだけをやってみせる手立てなどあるのかわからないが新たな難関が生まれようとしている。それは、事が起きてからでないとわからない。
もしかしたら、五百子の僕に対する愛を全て受け入れれば、物事が万事解決するのかもしれないとも思えた。
僕はいったい何に支配されているのだろう? 運命に? 強大な渦が崩壊の序曲を感じさせる。それほどの魔力が五百子の言葉にはあった。
『兄さん、愛している』
僕は戦慄した。




