攻防
「これが、連帯強化魔法?」
僕の体から広範囲の巨大な魔力が放出される。なれない感覚は正直体に重荷になり辛い。
「そう、貴方は軍のなかで教育されていないだろうからしらないだろうけど」
確かに僕は個別の戦闘を手ほどきはされたが、ほとんどが薬を投与される施設に寝た切り。戦闘の教鞭もうけず、自身で学んだ戦闘理論しか持ち合わせていない。素人に過ぎない。
「わかる? 貴方が認識できる仲間と思える数は?」
感知できるというより、繋がっているってことかな。魔力を操る感覚でわかる。
「体が感じる数でいいの? 20だよ」
「だいたい数の上では互角ね。貴方のその感じる仲間に魔力をおくって頂戴」
「ああ」
仲間とは。僕がいま頼れる人間は決まりきっている。まだ、深い絆ができたともいえないが共通して戦う意志がある仲間である。そう思いたい。
僕は魔力を操る感覚で20名に送る。カイラーサーと部下にラベルドさんとその仲間だ。そして、隠し玉としてあの二人にも。
「なんだか、生命力が抜かれるいくような感じだね」
「ごめんね。これは、天候魔法や災害魔法に匹敵する威力なの。軍隊戦で要となっているわ。普通の人間では耐えきれなくて薬を投与すると死ぬけど」
「僕はそう簡単に死なないというわけか」
「さあ、思念で指示して」
僕はまずカイラーサーとラベルドさん達に浮遊してもらい父さんが連れている兵士達にそれぞれ右翼、左翼に展開して攻撃してもらう。おそらく、魔法兵より上だと思う。
僕と遙の相手は超獣と呼ばれる父と同族であろうか芋生の性である青年と遙の従姉だという遙の姉だ。
「こんなことをしても何にもならんぞ」
父は冷めながらに言う。感情がなにも込められていない。そんな言葉は聞き入れない。
「戦いは素人だけどね。心では負けないよ」
感情も立派な武器だ。決死の覚悟こそ追い詰められた者の最大の力。向こうは侮ってはいないだろうが必死さはないだろう。
「心はこちらの方が強い。なにが起きても不動の精神。押し負けることはない」
口論はそれまで、僕は元々宿っている連帯強化魔法の力を使う。更に遙に口づけされた薬は持ちうる最強の肉体強化の魔法だ。
僕は体中に魔力を纏いそして噴射しながら父に突撃していく。自身がミサイルのように早く精密に父の体に拳をぶつける。打ち破れるか?
だが……。
難無く拳をガードされる。手のひら一つで。痛みも伝わっていない様子。父の感情がみえてこない。
「こんなものか」
「まったく通じていない……」
僕は呆気にとられたが父はそうでもないと言うかのように口元が緩む。少しだけ、感情をみせた。
「流石に自分の息子か。こんなものかとは思ったが順調に育っているようだな。しかし、力を用いる場所が違う」
「それは、父さん達でしょ! 私利私欲に動く国の手先に成り下がった人間が」
「そうだな、国に仕えるというものは滅私なのだ。我、芋生家はただ国の意向に従うのみ」
「反論しないのかよ。そんなことが生きて行く道だとでもいうのか?」
「違うな、魔法を扱う者は自然に反しているのだ。そう、道など元よりない。そんな我一族の居場所はキ国ということになるな」
「自ら、間違いを認めているのになぜ、魔法を捨てない? 国に反抗しないんだ?」
「世界はいずれ一つになる。キ国かコ国、あるいはヘイムハイロウかもしれない。私はその為に戦う。戦おうともしない者に平和は訪れないいのだよ。その、平和とやらも一時の夢だ」
「なにが言いたい?」
「なにもない。だがな、クズでも聖人でも役割がある。それを全うしろと言うのだ。お前は自爆人間であることに生涯をかけろ」
役割が最低すぎる。
「王に生まれるのも乞食に生まれるのも選択ができるわけがない。運命に身を委ねてそれに従え」
「そんなものは捨てた。僕は運命に抗う。運命は変えられる」
「なら、今のお前は何だと言うのだ? 逃避して得る物になにがあるというのだ」
「それは……」
逃避なんてしていない。僕はこの争いを終結する者になりたい。五百子と遙とどこかで平和に隠れていたいとも思った。だが、僕を離さない戦争という兆しがまとわりつく。なら、僕は当然、戦って平穏を築きたい。
「隼人はね、私達を幸せにする男なの!」
遙は大声で割って入った。
「夢事を……」
遙の姉と呼ぶ女がなにかマズイものを口にしたような顔でこちらを蔑視した。
「よしておけ、カナタ。戦闘力では私以外、あちらが上なのだ」
「そんなことはありません!」
カナタとういう女は父に反抗する。
「もう、いいっしょ? 隊長」
芋生の軽薄な男がいう。一人だけ空気が違う。場違いかと思えばそうでもない。とても、不吉な臭いしかしない。
「何がだ?」
「隼人君の魔力が駄々洩れさせているのをまっているんでしょ?」
「そうでもないがな」
「あちゃー。俺っち勘違い」
しかし、父は薬箱から何かの薬を飲みだす。防御型でも耐えられる薬だろうが効果はわからない。そして、カナタという女が軽薄な男に薬を口移しする。
今まで、僕達がやっていたことだけど、傍から見て、改めていやらしいなと思う。だが、カナタという女はあまり楽しんでいる様子ではなかった。五百子と遙は乱れて感じている素振りだから、意外に思えた。
「では、こちらが三人で向かうぞ!」
父たちは攻撃をしかけた。遙はあわてて僕に防御用の薬を口移しした。
 





