気配無き獣、再び
僕は自暴自棄になった。故郷を捨てて倫理を捨てて遙と五百子をさらってこの国に逃避行したというのに。第三国ヘイムハイロウにも追手がきた。しかも、自爆人間の補助する役目から逃れていた新垣君が先頭にたってだ。彼は元彼女の遙には何の興味を示さず、僕の妹、五百子を連れ去った。僕と同じ境遇である自爆人間の姉妹を置き去りにして。
この姉妹に助ける価値がないただの道具ってことかよ。いや、道具としても使いきれていない。
白い毛むくじゃらの獣インドミルという種族の砦は自爆人間の姉妹である姉のエルマーに半壊されている。魔法のエネルギーをぶつけられたせいだ。僕が彼女を抱きしめてとめなければ壊滅していただろう。
彼女たちの力は僕の格下だ。しかし、常人からみれば超人的なちからを有する。
そして、二人の妖艶さが餌だったのだろう。戦場に感情を持ち込んでいる僕はただの道化だった。僕は人並みに男だとは思っている。だけど、好色ではない。色沙汰で大切な者を奪われるほど自制心がないとは思っていなかった。馬鹿だ僕は。
置き去りにされた姉妹に目を向ける。僕はエルマーとアルマーで五百子の代わりに慰めろということなのだろうか。どうでもいい。僕は自分の情けなさに失望して自決をすることにした。それをこの姉妹に止められる。敵同士だったはずなのに。
「情け? 僕を死なせてくれないのか」
態度は変わらず姉のエルマーは呆れた表情で僕に言う。
「馬鹿を言え、こんなところで自爆されたら私達も巻き添えを食らう」
妹のアルマーも続いてくる。仲がいいことだ。
「あのね、自爆人間の誇りはある? 意味のない死はやめなよ」
意味のない死か。その通りだが、せめて一人静かに終わりにしたい。
「自爆の影響範囲をコントロールできるから安心してよ。君たちを巻添えにしない」
バチン!
? 僕は姉妹の姉、銀髪のエルマーぶたれた。
「甘ったれるな。私たちは自由に生きることができない。だからこそ生きられるのなら生き続けるのだろ?」
「それは、君の考えだよ。どのみち生きながらえてもいいことはおきない」
「私の考えではない。誰もが思うべき考えだ。生きれるだけ生きる。生きていなければ幸せはおきない」
「だから、幸せは起こすんだよ! 私たちの力で」
妹の金髪のアルマーもはいってきた。
「僕の生きたいと思う動力源か……」
遙と五百子だとおもっていた。一人失えば、半分は中身がない残骸としかいえない自分といえる。やがて、かけた部分は全てに影響して壊れる。
「ちょっと、隼人君。私を忘れないでね。君は私のなんなの?」
もともと、そっちから関係を迫ったというのに言ってくれる。遙は真剣に怒っている。いや、勇気づけているのかもしれない。
「大事な人だね」
「でしょ? ちょっとやそっとでは嘆かない。五百子ちゃんはいずれ奪還すればいいでしょ」
そんなに、うまくいくのだろうか。曖昧だ。しかし、エルマー姉妹の言う通り生きていなければできない。幸せは生きていてこそか……。
「君の心の空虚はね。五百子ちゃんを取り戻すそのあいだ、穴埋めはこの娘達にしてもらいましょ」
遙はエルマーとアルマーを両腕で抱きしめて僕に押し出す。
「ふざけるな!」
「そうよ、私達を代理品にしないでね」
姉妹は反発するが、さほど怒っていない。それより僕を受け入れているとさえ見える気がする。まさかね、自己都合の甘い僕の妄想だ。
「だけど、遙。五百子がいなくなれば良かったんじゃないの?」
「そうだよ。でも、生きているでしょ? あの子には隼人君と離れたブランクを思い知らせてやるの。私の方が愛されているって」
方便なのか、策略なのか、どちらにしろ五百子が不必要に言わない遙に安堵する僕がいる。
「話し中すまないが仲間が少なくなっている」
事を見計らって、ラベルドさんが話にわってはいる。かなり深刻にいってくる。
「先ほどの私の激突で死んだのね。ごめんなさい」
エルマーは例え敵対していたとはいえ、事が済むと人に謝れる心があるようだ。
「いや、君の一撃はハヤト君のおかげで死傷者でなかった。今、私達の仲間が少なくなっている」
「少なくなっている?」
僕は思い当たる節があった。あの生き物がここにいるのか。
「とりあえず、点呼をとりましょう。みんな一か所に集まって」
僕はインドミル砦の長、カイラーサーにインドミルの人数を聞く。
「はて、何名だったのかわからなくなっている。今は13名だ」
カイラーサーは困惑している。
「我々も元の人数がわからなくなっているが現在10名だ」
同様にラベルドさんも考え込み唸っている。
そうか、やっぱり。あの、魔獣がすでに暴れていたのか。
「気配無き獣ですよ。我らは半数はやられている」
「む、コ国の兵器も乱入していたとは。先ほどのキ国の者が早々撤退したのも頷ける」
ラベルドさんも気配無き獣はしっているようだ。自爆人間とは別にある意味達が悪い魔獣にして兵器に。
気配無き獣、人間に感知されることなく行動ができ、殺されたり、食べられたりするとその者の記憶が完全抹消されるという兵器。
「どうやら、嘆いている場合ではないね」
気配無き獣を感知できるとしたら、膨大な魔力を持つものだ。僕たち、自爆人間だ。
「君たちに頼りきりだが気配無き獣を頼む」
「わかりました」
僕は先ほどの薬の魔力残りをフルに開放させてことにあたる。
しかし、なんでこのタイミングで気配無き獣が現れたのだろうか?




