二人の関係を奪いたい
「さて、インドミルの諸君。わたしとしては貴殿らに敵対したくない。おとなしく、我々の五百子をわたしてくれればそれでいい。しかし、拒否するなら手段をえらばない」
新垣君はあえて挑発的に言った。その後ろには場違いな女の子がいる。上半身はだけていてお互いを愛撫するのに夢中になっている。姉妹だそうだ。髪色が金髪と銀髪で区別がつくがどちらが姉で妹だろう。この二人のあまりにもいやらしさに僕の感情に邪なものがうまれた。遙、五百子という女がいながら女二人に釘付けになってしまっている。酷く愛し合っている。その関係を奪いたい。
だけど、僕は首を横に振る。駄目だ、駄目だ。僕はなにを考えている。こんな時に。
「ああ、気になるか? 隼人。そうだよな、お前は女が好きだよな。しかも、ふつうではない。俺もそうだ。やはり友人だと思うよ。お前は」
それを、聞いてここの長であるカイラーサーは笑いながら答える。
「子供の幼い衝動につきあうつもりはなくてな。実害もないことだし、我らは戦わずでも良いのだがな。今しがた客人に助太刀すると約束したのでな」
「客人?」
「ラベルド殿率いる使節団だ」
「ラベルド=ダム=アイモ―と申す。新垣殿には悪いがキ国の者が我らにまじっているとしって素直に引き渡すわけがないのでな」
「ラベルドさん、僕たちの問題です。僕たちを砦から放り出してよいのですよ」
迷惑はかけられない。正直、50人の軍勢だが師団クラスくらいに匹敵するだろう。インドミルやラベルドさんの実力はしらないけど、新垣君の部隊は僕たちをせん滅するに十二分の戦力だと思う。
「いった通りだ。キ国の者が欲しがるものなんぞ自爆人間の資質を持つものしかおるまい。兵器をやすやすと相手方にかえすわけにはいかんのだ。それにな」
ラベルドさんは悲しそうにため息をつく。
「友達なのだろ? 大人の都合に子供が犠牲になることもない」
「僕も大人にはなるのです。さけられないことに対処しなければならない」
「話はそれまでか?」
新垣君がそう問うと問答無用に砲撃が始まる。
――火炎の砲弾――
自爆人間でなくても一流の魔法使いが扱える魔法。戦車と同等、それ以上の攻撃50人がいっせいに放った。これだけでこの砦は壊滅だ。
しかし。
「他愛もない」
インドミルの長、カイラーサーが先陣に立ち結界をはる。すると、砲弾は無効化してしまう。
「すごいな」
ラベルドさんは驚嘆した。僕も実戦経験がないので素直に驚いた。涼しい顔をしているのは新垣君だ。確かに火炎の砲弾より強い魔法はある。しかし、威力が白兵戦レベルではなくなる。それに、まさか連れてきた爆弾人間の女の子にここで自爆させることもないだろうし。
それにしても、この女の子二人は蚊帳の外だ。二人必要にしつこくお互いを粘着して離さない。僕は鼓動が激しくなった。戦闘中だというのに目を逸らすことができない。
「やはり、並みの魔法ではインドミルはどうこうできないな。エルマー、アルマー出番だ」
「はい。新垣様」
銀髪で気が強そうな女の子は返事をした。金髪で大人しめの女の子は黙ったままだ。それにしてもキ国人だろうに横文字の名前なんだな。他国からさらわれたのかもしれないが。
「返事をしたエルマーに仕事を与えてやろう」
「姉さま、こんな色情な男の言うことなど……」
金髪の女の子が不満にいう。
「俺の命令は国の命令だ。ここで、ターゲットを捕らえたら、お前たちは死んだと本国に報告してやる。その先は姉妹仲良く百合の逃避行でもしているんだな」
「貴様の言うことなど、信じられるか! 我ら姉妹を奪おうとしたくせに」
「そうだな。諦めたというわけでもない。が、敵側にもお前たちを食指が動いている奴がいるぞ」
「食がそそる?」
「性的な意味でな」
女の子二人は怒りを露わにした。
「これだから、男ってやつは! 姉さん一撃で始末して」
おっとりとした金髪の子が冷ややかに殺意を表す。対して銀髪の女の子は激高していた。
「アルマー。わかっている。男なんてありえない。だから、力を頂戴」
「はい、エルマー姉さん」
姉妹は口移しで薬を飲んでいた。妹から姉へ。やることは同じ補助型が突撃型に薬を投与する。しかし、同性同士で効果があるのか?
自爆ではないが僕も遙と五百子を呼び出し、それぞれに肉体強化の薬を口移しさせる。
「今日の兄さん。大胆」
「そうだね。でも、私一人の力でよかったんだよ」
「むー」
遙と五百子は火花を散らばせる。だが、今は気にしない。二人とも僕の物だから、慌てることはない。
それより、ジェットエンジンよりも早く突撃してくる銀髪少女エルマーに集中する。言語化して考えていたら終わる。僕は刹那の速さで彼女の突撃を取り押さえる。物凄い衝撃が走るが他愛もなかった。爆発がおこり砦は半壊したが。彼女も僕も無傷である。僕はエルマーという女の子を取り押さえて抱き着いた。
「離せ! 離せ」
「そこの下郎! エルマー姉さんを放しなさい」
「くっ、くっ、離せ! ああああああああ!」
僕はさほど手を出していないというのに感じ入っている様子だ。
「姉さーん!」
僕は興奮してしまった。悶えている彼女を余所に姉の開放を願う妹と上司である新垣君を見る。妹は絶望している様と新垣君はその光景にほくそ笑んでいる。
「こいつを助けたければ、僕を追って来るんだな」
僕は砦から離れて森の奥へと走った。妹、確かアルマーはあっさりと疑うこともなく追いかけてくる。
ちょろいもんだ。新垣君は常にこれを楽しんでいるだな。彼は追いかけてこない。
だが、僕はハッとする。僕はこういう人間だったか? 色情狂だったか? 意地の悪いことをするやつだったか? でも、遅い。僕は走り続けた。もがく彼女を押さえつけながら。