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氷魔術しか使えない魔術師、嵌められる。  作者: 猫夏れい
第一章 氷魔術師、落ちる。
3/3

三日目 蛇の巣

翌日だ。

寝て起きた。

それが俺にとっての日の変わり目だ。


とりあえず、ここには誰もいないので色々と愚痴らせてもらおう。

勇者パーテイーはマジでクソだった。

勇者はギザな典型的なモテ男。

それ以外はみんな女ばっかだし、こぞって俺に嫌がらせしてくんの。

それでも世界から選抜された超優秀なエリート共なんだけど。


なに?

なんなの?

俺と勇者の距離が近いからって集中砲火するのは酷すぎねえかね!?


だって勇者さん男ですぜ?

俺が好きになるわけないじゃない。

だって俺はノーマルなんですから。そうじゃなくてもマジであのモテ男だけはない。

いい奴だから惚れるのは分かるけどね!


そんで勇者さんは俺が嫌がらせを受ける度に他のメンツに注意勧告。俺はチクってないのにチクっただろとか言われて何度酷い目にあったことが。

勇者が鋭いってことにいい加減気づけって話だよ。俺も俺で勇者にあの面子を外すのはやめたほうがいいとは忠告してたけど。

腐ってもエリート。

戦闘では本当に役に立つんだよ?


腐ってるけど。

腐ってるけどね!


あー、なんかスッキリした。



地下生活もついに三日目突入したけど、一向にこの迷いの洞窟から抜け出せない。

それでいて狼もどきのエンカウント率はかなり高い。

朝起きた時だって設置していた罠が発動済みになってて、三体もの狼もどきの死体が転がってた時は本当にびっくりした。

逆にあの蛇もどきは全く現れる様子がない。まあ、あんなトラウマ製造機と出会わないほうが良いんだけど、ここまで出てこないとなると初日に見たひしめき合ってた蛇もどきはどこに消えたんだろうか。

もしかするとこうやって探索しているのも全部夢で、実は既に食われてましただなんてオチは蛇に食われて消化されてしまえ。


俺の身体にはなにも変わりはない。

いいね?


気がついたら下半身があの蛇もどきになってましただなんて、悪夢で見るとしても冗談じゃない。

うぅ、変なこと考えてると寒気がする。……トイレじゃないぞ。

ちなみに小便や大便は専用の魔道具使っている。というかこの洞窟で排泄なんてしたら臭いで魔物が寄って来かねないのでアウトだ。


さて、話を戻すが洞窟内を移動中に休憩を挟みつつ簡易短杖を新たにもう一本作成した。あの蛇の鱗と獣の骨を用いているが性能は最初の奴と変わらないので割愛させてもらうとする。

さて、注記しておくとするなら、更に強化したということだ。蛇の皮を骨に巻きつけ、魔蜘蛛の鋼糸で留める。そうするだけで耐久性がアップする。

詳しい仕組みはわからんが、骨と皮という組み合わせが魔術的に良い組み合わせとされていて、なんの法則か魔力伝導率を劇的に向上させると言われている。

例を挙げるとするなら、鉄に皮を巻きつけても意味がないってことだな。

骨は骨、皮は皮じゃないといけないらしい。

ちなみにこうすることで魔力伝導率が25程度だったのが一気に35超えまで爆上がりだ。1.5倍近い上昇量はこの世界の法則を疑うね。


そう言えばなんだが、この洞窟にもついにあの結晶が生えてきている。

うん、無駄に鋭くて青白く光るあの結晶だ。俺が通ってきた道に生えてるからこれってどう見たって原因は俺にあるよね。

どういう原理かは相変わらずわからないけどもさ。


通ってなかった道にもところどころ生えてるって流石に異常だよ?

この洞窟にいるうちに調べておかないと地上に戻った時が面倒そうなので頭のメモに記しておこう。


興味深いことと言えば他にもある、魔物肉を食べた時の痛みが段々薄くなってきた事だ。それで魔術の行使が妙に楽になった。


「シュルルル……」


聞き覚えのある音が聞こえたので臨戦体勢へと移行する。不意を打たれて食われちゃ話にならん。

音は洞窟内に反響しており、どこにいるのか敵の位置をつかむことすら難しい。


「シャーッ」

「っ!」


危ない危ない。危うく食われるところだった。回避すると同時に振り向く。

やはりアイツだ。


蛇の頭の上に人間の上半身を生やしたヤベー奴。今度もエルフ族の女性だ。

この種族はエルフ族のそれも女性が好きなのだろうか……。さっきは獣人族もいたしそういうわけじゃないんだろうけどさ。

いや、女性好きってことは否定できないけどな。


「……趣味が悪い蛇」


おっと本音が出てしまったらしい。

あー……。

まあ、聞いている人がいないし、自重する必要もないか。

ただ、戦うには少しばかり狭いから場所を変える必要がありそうだ。

大人三人が並んで通るのがやっとの幅なのでもうちょっと広い空間に出たい。

そう思い、少し移動したらそこは奴らの巣だった。やらかした。

広いけど流石に戦い辛いわ。


蛇が壁に張り付いているが、胴体のところどころふくらみが見える。そして俺が入ってきたのを確認するとその全部が降ってきた。


全部が降ってきた。

大事なことなので二回言いました。


とはいえここで力尽きてしまうのも嫌なので俺の上に落ちて来た不運な蛇には真っ二つになってもらった。

新しい杖に氷の刃を纏い、ボロボロの短剣の代用とする。


蛇を切り裂くと中からは腹の膨らんだ女性が現れる。蛇が絶命すると同時に生き絶えたみたいだ。

まじでヤベーよ、ここ。

そして強く地面に打ち付けられた奴は中から黄色と透明が混じった液体が出てくる。蛇の幼体が飛び出て来たりなかなかな大惨事だ。

ってか、人間自体が卵ってパターン?


肉体的には男性の方が頑丈だからそっちの方がええんちゃうかと思っていたが、奴らにも奴らなりの生存方法があったらしい。

女性しかいない理由としては女性を苗代として卵を植え付けるかららしい。

うん、殲滅すべきだな。これ。

というかこのエルフ族の女性は全部どこから来てるんだってばよ。

たまに獣人族が混じっているのが見えるあたりエルフ族の村落を襲っているとしか思えない。


数瞬のうちにそんなことを考えていると蛇もどきどもはぶっちぎれたみたいで、大口を開けて突撃をかましてくる。

流石に食べられるのはごめんなので、大きく開いた口の中に氷嵐(ブリザード)を打ち込んでやると凍りついて絶命する。数少ない簡易魔法媒体(スクロール)は犠牲となったのだ……。


「……鬱陶しい、往ね」


流石に湯水のように使えるわけでもないので、余裕があるときには蛇を切り刻み、危ない時だけ簡易魔法媒体(スクロール)を開いて起動する。

うん、詠唱不要な分、簡易魔法媒体(スクロール)って便利だわ。


蛇もどきは変わらず降ってくる。

って、ちっこいのも降ってくるぞぉ!

当然、剣聖直伝の剣さばきでまとめて斬り伏せるんですけどね。

そうしないと魔力も簡易魔法媒体(スクロール)も保たない。


「ぶ、氷嵐(ブリザード)!」


あ、一瞬クラっとした。

やばいやばい。

これ魔力残量が少ないサインじゃないか。

おいおい、こんな場所で一生を終えるなんて冗談じゃないぞ。


死ぬなら死ぬで美女の胸の中で死にたい!

できれば銀髪美少女の膝の上がいいです!


でも死にたくないィ!


「あ、氷壁(アイスウォール)!」


背後に忍び寄る蛇もどきを氷の壁でアッパーカット入れてやって意識を他方向の蛇に割く。

これは流石に冗談にならないくらいの物量だ。邪竜の迷宮の地下はこんな化け物が生息していたのか。


「あっ……」


我ながらかなり間抜けな声が出た。

そこから俺の視界はブラックアウトする。


気がついたときには蛇もどきはみんな凍えて息絶えてしまっていた。どうやら無意識で【(アブソ)(リュー)(トフロ)(ーズン)】をやってしまったらしい。


記憶は残ってないというわけでもない。視界がブラックアウトしたのはランタンがぶっ壊れたからであって、別に気を失ったというわけじゃない。

偶然自分を守るイメージが【(アブソ)(リュー)(トフロ)(ーズン)】だっただけであり、偶然だとしても集団魔術を無詠唱で形にしてしまうとは恐れ入る。


「ほへぇ……」


いやほんと、我ながら間抜けな声だ。




とまあ全部を凍てつかせてしまったせいで蛇の素材は欠片も得られなかった。


どれも氷結による劣化で素材の適性を失っていたからだ。

自分を守るために発動したとはいえ、なんだか勿体無い。ちなみに、魔力不足による気分の悪さが改善するという謎の現象まで起こっている。


集団魔術を放っておいて魔力を消費するどころか回復するとはこれ如何に。検証の余地ありかもしれない。

この件は慎重に調べていくとしよう。


さて、流石にこれだけ暴れれば疲れるというものだ。罠を張り、離れた場所で睡眠を取ることにしよう。


もう二度とこんなバトルジャンキー紛いなことやりたくないわー……。

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