心ないロボット達
「人間は、自分や周りのコミュニテイを豊かにするために、
たくさんの知恵を働かせ、今日まで歩んできました。
狩猟や農業をするために、道具を生み出し、
周りと情報の共有をするために、言葉が使われるようになりました。
そして、お互いの不足を補うため、物々交換をし、
より簡易的に取引ができるように通貨が生み出され、
人々の生活はどんどん豊かになっていきました。
農業や漁業など自然物を生産・収穫を行う第一次産業の発展、
さらに製造業や建設業などの物作りを行う第二次産業の発展、
そして、運輸や金融、通信などサービスに関する第三次産業の発展。
産業が革新されることにより、暮らしの質が上がり、
現代では、第四次産業が目まぐるしい成長を遂げております。
Iot技術、人工知能やロボットの開発により、正確で多種多様な情報と
安定的な労働力が、人間の負担を軽減させ、
非常に過ごし易い世界が築かれていっております。」
・・・・
「ロボットが自慢話してるよ。」
机に両肘をつき、今にも落ちそうな頭を
両手で支えながら、ユウキは鼻を鳴らして笑った。
教室の中には、20人ほどの生徒がおり、
ユウキは、一番後ろの窓側の席に座り、
気怠そうに授業を受けていた。
「ちょっとユウ君、データに取られちゃうよ。」
横の席のユリカが控え目の声で注意し、
ユウキの肩をそっと触った。
「生徒の皆様も、16歳から17歳になる年頃です。
来年度には皆様は成人されます。
成人するということは、自分たちで考え、行動しなければ
なりません。これからの世界をどのような素晴らしいものに
するかは皆様次第です。進路をしっかりと考え、
自分がどの分野で働きたいかを考えていってください。」
ロボットと呼ばれた教官らしき物体は、
ユウキの発言を気にも留めず、話を続けていった。
「それでは本日の授業はここまでです。
皆様準備をして、部活動へ移行してください。」
教官がそう言うと、時計は15時を指し、
使い古したチャイム音が教室に鳴り響いた。
その直後に教官は首を下げ、電源が切れたのか、
空気が漏れる音が少しだけ聞こえた。
生徒たちは気にする様子もなく、
決められたいつもの行動のように、
鞄に荷物を詰め各々が
まばらに教室から出て行った。
ユウキも周りと同じように机上のキーボードを
鞄に仕舞い、肩に鞄をかけ、無言のままに
ゆっくりと扉のほうへ向かい、
追うようにユリカがユウキの後ろを歩いた。
「あーーー、息が詰まった!
今日も息が詰まったよ!!」
校舎から外に出ると、ユウキは溜まった陰気を
吐き出し、空気を思いっきり吸い込んだ。
「馬鹿、声が大きいって。
全く授業中にもあんなこと言って。
ちょっとしたお喋りが評定に響くって
わかってるでしょ?」
ユリカは飽きれた顔でユウキを注意した。
しかし、ユウキは少し拗ねたように
話顔を曇らせ、話を続けた。
「だってさ、ロボット達にずっと監視されて、
点数つけられてんだぜ。いい子のふりしてたら
息も詰まるよ。産業革命の果てにロボットが開発されて、
人間のために働いてるって言ってたけど、
どうしても違和感を感じるんだよな。
なんていうか、俺たち人間のほうが、
ロボットに管理されてるっていう感じかな。」
ユリカはユウキの真剣な話に、少し驚きつつも、
自分なりの考えを話し始めた。
「どうしたの急に、そんな真面目な話して。
ユウ君らしくないよ。斜めから物事見すぎ!
私たちの生活は、Iotや機械がなければ成り立たないし、
管理じゃなくて統制だと思うな。だって昔は人間同士が
殺し合いや事件ばっかり起こしてたって言うじゃん。
そんな怖い時代より、今のほうが平和で好きかな。」
「そうだよな、ごめん、なんか変な話しちゃったな。
進路の話をされて、考えさせられたのかもな。」
ユウキは歯を出して笑顔を作り、
ユリカの肩を小突いた。
ユウキのいつもの表情に、ユリカも一安心し、
「ちょっと、痛ーい!」と
冗談交じりで笑ってみせた。
2人が笑いながら部室へ向かっていると
いつもと違う様子にユウキが気が付いた。
「ん?あの子、見ない顔だな。」
ユウキがテニスコートのほうを指差すと
ユリカもその先を見た。
「あー、あの子は多分、春原さんじゃないかな。
入学式の時に一度だけ見たことある。
ほら、一番前の春原さんの席に、
カメラとパソコン置いてるじゃない?
いつもあそこから自宅学習してるんじゃなかったかな。」
「そっか、あの子が春原さんか。」
2人の見る先には、色白の小さな少女が嬉しそうに
テニスコートを眺めていた。
まだ誰もいないコートを初めて見るかのように、
目をキラキラと輝かせていた。
しかし、少女の真後ろにはスーツ姿の色黒の男と
アルミ色の顔をした人型ロボットが立っており、
まるで少女を護衛しているようだった。
その少女と護衛の雰囲気のギャップに、
ユウキは違和感を覚え、その様子を眺めていた。
「私、練習前に少し話しかけてみるよ。
彼女テニスに興味ありそうだもんね。」
テニス部の部長であるユリカも、
少女のことが気になったのか、
テニス部に勧誘するそぶりをみせた。
ユリカは人の面倒を見るのが好きな質がある。
新しい仲間を見つけたように、声を弾ませ、
早く部活に向かいたい様子を醸し出した。
「後ろの護衛の人たちに怒られないようにな。」
少し心配そうにユウキはユリカに話しかけた。
「大丈夫、大丈夫、まっかせなさい!
じゃーまた部活が終わったらね!」
そう言うと、ユリカは部室のほうへ走っていった。
ユウキは、ユリカの背を目で追いかけた。
春原と呼ばれた少女のほうをみると、
少女は今もなおテニスコートに夢中で、
ユウキは、不思議な気持ちを抱えたまま、
自分の部室へ向かっていった。