第八話
翌朝、レン達は起きてから直ぐに、出発の準備を済ませ、王都へと向かっていた。アッシュが言うには、昼頃には王都に到着出来るそうだ。
「なぁ、レンは王都に着いたら冒険者になるのか?それとも王宮騎士団に入るのか?まぁ、どちらにしてもレンは剣士として腕が立つから何の問題も無いと思うけどな。」
「そうだな……、俺とラトでまず冒険者のパーティーを組もうと思ってるよ。ああ、それとアッシュ、いつ俺が剣士だって言ったよ、俺は付与術師だぞ?」
アッシュはレンの戦い方を見て、剣士だと思っていたようで、付与術師と聞いて驚いていた。
「そうなのですよ?ご主人様は、剣もお使いになりますが、本職は付与魔法を得意とする付与術師なのです。」
「ありえねぇ……、付与術師ったら後衛職じゃねぇか。なのに何で剣の扱いがあんなに上手いんだよ。そこいらの剣士より強いんじゃないか?」
アッシュは呆れた顔をしながらレンの方を見ながら、肩を落とす。
他愛も無い話をしながら歩いて行くと、やがて巨大な壁が見え始めた。近くまで進んで行くと、巨大な壁に門があるのが分かる。
「はぁ、やぁっと帰ってこれた。ようこそ、レン。あの壁の内側が王都【シュトレン】だ。ここからでも少し上の方が見えるけど、ウォルター王城もこの街にある。」
アッシュは両手を広げて王都を背に、レン達を歓迎するように説明する。
「ありがとう、アッシュ。おかげで早めに王都に着くことが出来たよ。」
「アッシュ様、ラトからも御礼するのです。ご主人様とラトだけじゃ、後数日は掛かっていたと思うのです。ありがとうございますなのです。」
レンがアッシュと握手を交わしていると、ラトは御辞儀をして、御礼の言葉を口にしていた。
「やめてくれ、レン達がいなくちゃ、俺は生きて王都に帰って来れなかったんだ。これくらい、なんてことはないさ。」
二人から礼を言われたアッシュは照れ臭そうにしていたが、実際、あの森で一人になってしまっていたアッシュは、あのままだとゴブリン達に殺されていただろう。
(そう言えば、アッシュを置いていった冒険者達ってどうなってるんだろうな?)
レンがそんな事を考えている内に、門の前まで辿り着いていた。門の前には、二人の門番が立っており、コチラを見て驚いた表情をしていた。その内の一人が抑えきれない様な様子でアッシュの元へ駆け寄って来た。
「アシュレイ様!ご無事でなによりでございます。アシュレイ様と共に……」
「ッ⁉︎」
門番の言葉を遮る様に、アッシュが機敏な動きで、門番の口を塞いだ。その後、アッシュは何かを門番に耳打ちした。もう一人の門番の方へ目を向けると、顔に手を当てて「やっちまった」と言わんばかりの表情を浮かべていた。
(まぁ、俺は知っているんだが、アッシュは隠したいみたいだし、とりあえず知らん顔しておくか。)
「どうかしたか、アッシュ?それより早く中に入りたいんだが、どうすればいいんだ?」
門番の言葉を聞いてなかった様な素振りをしたレンは、早く王都に入ろうと促す。そんなレンの言葉を聞いたアッシュは、安堵の表情を浮かべていた。
「は、はい、ギルドカードはお持ちですか?お持ちで無ければ、入国料として、お一人200ジールになります。」
「………」
アッシュに口を塞がれていた門番は、レンの言葉に「助かった」と慌てて、入国について話し始めるが、今度はレンの動きが止まってしまった。
「レン、お前、まさか……?」
「あ〜、多分、今、アッシュが想像した通りだな。」
ギルドカードをもう一人の門番に見せていたアッシュは、レンの様子に気付いて唖然としていた。レンはまだ、この世界に来てから街という場所には行っておらず、【RoE】でのお金は、インベントリとは別枠である。
つまり、レンは無一文だった。
「お前、今まで一体どうやって暮らしてたんだよ……。まぁ、まだ礼が済んだとは思ってなかったし、ここは俺が払っておくよ。」
「あ〜、すまない、アッシュ。今度、必ず返させてもらうよ。」
申し訳なさそうな顔をしたレンを横目に、アッシュは、レンとラトの入国料を門番へ支払いを済ませて、レン達は街の中へと入っていった。
王都へと無事?に入ったレン達は、まず冒険者ギルドへと向かっていた。レンとラトは冒険者の登録をする為、アッシュは調査依頼の報告をする為である。
冒険者ギルドに着いたレン達が、中に入ると目の前には、ザワザワとした空間が広がっていた。左側には冒険者達が登録や依頼の受付をするであろうカウンターが見え、右側には食堂と言うか、酒場らしきカウンターやテーブル等が見えた。
「お〜、これぞ冒険者ギルドって感じの場所だなぁ。アッシュ、登録をするにはどうすればいいんだ?」
「ああ、あっちのカウンターが冒険者の受付になってるから、そこで冒険者の登録が出来る。そのカウンターは依頼の受付・報告も兼ねているから、俺について来てくれ。」
アッシュが指を指したカウンターには、ギルド職員と思われる女性が三人程立っていた。やはりと言うか、流石と言うかは分からないが、美女と言うのに相応しい様な女性職員達が並んでいた。
左側の女性は、ストレートロングの赤髪。真ん中の女性は、肩まで程の金髪。そして右側の女性が、青髮で癖っ毛のショートと言った、容姿の整った女性職員達だった。
しかし、レンはそんな女性職員達を見て(信号機みたいだな)なんて事を考えていた。
アッシュが左側に立っていた職員の方へ向かって行ったので、レン達は真ん中の職員へ話しかける。
「冒険者の登録を頼みたいんだが……。」
「はい。登録の方ですね?では、まずはコチラの書類に記入をお願いします。あ、文字は書けますか?もし書けないのでしたら、コチラの方で、代筆致しますが、如何致しますか?」
受付の女性職員は、羊皮紙をカウンターの上に取り出して、レン達に説明をする。この世界では当たり前の事だが、勉強と言うべきことは、費用が高く、受ける事が出来ない者が多かった。
その為、女性職員はレン達に、代筆が必要か聞く必要があったのだ。
「大丈夫だ、ラトの分も俺が書かせてもらおう。」
「はいなのです。ご主人様にお願いするのです。」
レンは自分とラトの分の羊皮紙を受け取ると、名前・種族・年齢・職業等を書いていく。気付けば、アッシュも報告が終わったようで、レンの横で書かれていく、羊皮紙を眺めていた。
「へぇ、レンって俺と同い年だったんだな。年下だと思ってたよ。」
見た目は金髪ショートの青年のアッシュ、中身が日本人のレンからして見ても【鑑定】を見ていなかったらアッシュが同い年だとは思わなかっただろう。
やがてレンは、自分とラトの分の羊皮紙を書き終えて、受付の女性に手渡す。
「はい、お預かりさせていただきます。コチラをお持ちになって、お待ち下さい。」
受付の女性はレンに木札を手渡すと、カウンターの奥へと入っていった。レン達は仕方なく待とうとしていると、右側に立っていた青髮の女性がコチラに話しかけてくる。
「じゃあ、待ってる間にアタシが冒険者について説明するね〜?あ、アタシはマリー、あっちのアッシュさんが報告してた子がソフィアで、さっき奥に入っていった子はルナって言うの、よろしくね。」
「ああ、俺はレン、それとこっちがラトだ。これからよろしく頼むよ。」
「ラトなのです。よろしくお願いしますです。」
青髮の女性【マリー】は、待っているレン達に明るい口調で話しかけて来た。どうやら冒険者の事を、教えてくれるようだ。
「じゃあ、まずは知ってると思うけど、冒険者にはランクがあってね、具体的には下からF.E.D.C.B.A.Sって感じ。登録したてのレン君達はFランクって事だね。それで、依頼を受けてランクを上げていくんだけど、自分のランクより上の依頼は一つ上までしか受けれないから注意してね。後もう一つ注意しなくちゃいけないのが、依頼の失敗かな?これは罰金もあるから自分の能力と相談して依頼を受けるようにね。」
マリーは人差し指を立てて、レン達に説明を始めた。基本的にはラノベやアニメなんかで聞いた事があるような説明で、レンは割とすんなり受け入れられる。
「マリー、説明ありがとう。さて、レンさんお待たせ致しました、コチラが、レンさんとラトさんのギルドカードになります。」
マリーからの説明を受けていると、先程奥に入っていった受付の女性【ルナ】が、二枚のカードを持って姿を見せた。
「ありがとう、早速で悪いんだけど、魔物の素材ってギルドで買い取って貰えるのかな?魔石なんかを売りたいんだけど……。」
レンは王都に入った後、インベントリから密かに袋を出して腰につけていた。この世界ではインベントリと言うか収納スキルと言うのは珍しく、余計な荒事を招きそうだと思ったからだ。その袋に手を入れて中からゴブリンの魔石を20個程取り出して、カウンターの上に置いた。もちろん、最初に戦ったゴブリンリーダーの魔石もだ。
「コチラで大丈夫ですよ。えぇと、ゴブリンの魔石が……20個とゴブリンリーダーの魔石が一つですね。ゴブリンの魔石が一つ辺り、100ジールになりますので、コチラは2000ジールになります。ゴブリンリーダーの魔石なんですが、コチラは普段の物より少し大きめなので、1500ジールで如何でしょうか?」
ルナはゴブリンの魔石を手に取って眺めてそう言うと、銀貨三枚と銅貨五枚をテーブルに置いた。
「ああ、それで構わない。後もう一つ聞きたい事があるんだが、この辺のオススメの宿って教えて貰えるかな?」
「それならギルドを出て、右に行くと月に翼が描かれた看板が見えてくる筈だ、宿の名前は【月夜の羽】って所だ、ボクのオススメはそこかな。」
レンがテーブルに置かれたお金を袋に入れつつ、宿について聞くと、赤髪の受付嬢【ソフィア】が教えてくれた。
「じゃあまずは、そこに行ってみるとするよ。ありがとう。」
レンはソフィアに礼を言うと、アッシュを連れてギルドの外へと向かっていった。
正直、値段の設定とか店の名前だとかが苦手で、値段がおかしいとか、ネーミングセンス無いとか言われそうなのです。