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第六話

 

 森の中を行くレン達の前にゴブリンの群れが姿を見せていた。通常ゴブリンという魔物は臆病な者が多く、相手の力を読む能力に特化している。なのに何故かレン達の前に現れていた。その理由は【隠者のローブ】のスキルにあった。【隠密】のスキルはその者の力を隠す。その為、力を読む能力があれどもレン達が弱者と見られ、レン達の前に姿を現したのだ。


「そこまで数は多くない、ラトは弓と魔法で援護をしろ!俺が引きつけているうちに、奴等を狙い撃て!行くぞ【身体強化】‼︎」


 ラトに指示を出しつつ自身とラトの身体強化を施してゴブリンの前に出る。そんなレンの邪魔をしない様にラトは弓を構えて矢を放つ。


「凄いのです。力が漲ってくるのです。やるのです、ラトはご主人様の役に立つのです。」


 えぃっ!やぁっ!と可愛らしい声を上げつつも、時折詠唱を行い見えない風の矢も織り交ぜてラトはゴブリン達を射抜いていく。


「やるじゃないか。はぁっ‼︎俺も負けてられないな。」


 次々と矢に射抜かれて倒れていくゴブリンを見て、呟くレンの後ろから襲いかかってきたゴブリンを精霊の剣で一刀両断して、次の敵に向かって駆け出していく。

 レンとラトによる蹂躙とも言える、戦闘は長く続く筈もなく、ゴブリン達の群れは見る間もなく全滅していた。


「ふぅ・・・、ご主人様はやっぱり凄いのです。身体強化?なのです?身体が凄く軽くなって自分の身体じゃないみたいだったのです・・・へぷんっ‼︎」


 ラトはぴょんぴょんと跳ねながら、レンの方へと近づいてくるが、途中で可笑しな声を上げて転んでいた。どうやら身体強化の効果が切れたみたいだった。


「・・・あぁ〜、すまないラト。ゴブリンだけだったし、今回は身体強化の魔力を弱めにしてたんだ・・・。大丈夫か?」


 レンは剣を納めながら、気まずそうにラトへと話しかけ、手を差し伸べる。


「うぅぅ・・・、痛いのです。」


 そう言ってぶつけた顔をさすりながら、レンの手を取って起き上がる。


「良いか、ラト?『水よ、汝、生命の水を用いて傷を癒し給え。』確かコレが水の初級治癒魔法のウォーターヒールの詠唱だった筈だ。さぁ、やってみろ。」


 ラトに水魔法による治癒魔法の詠唱を教え、使ってみる様に促してみる。

 ラトはウィンドアローを使った時に早くも魔法の感覚を掴んだようで、自身の身体の周りに薄い魔力を纏い始めた。


「は、はいなのです。『水よ、汝、生命の水を用いて傷を癒し給え。ウォーターヒール』・・・ふわわ、気持ち良いのです。」


 治癒魔法を唱えたラトの顔の周りに薄く霧の様な物が現れ、傷を癒していった。だが、少しして傷が癒えたラトは、今度は突然ふらっとふらついた。


「あれぇ〜?ふわふわするのです〜。なんだか気持ち良いのです〜。」

「おっとと、大丈夫かラト?」


 ふらふらと酔っ払いの様な足取りのラトを、ガシッと掴む様にして抱き止めたレンはガサゴソとインベントリから青い瓶を取り出してラトに渡す。


「あぁ、コレは魔力切れだな。ホラ、コレを飲めば魔力が回復するから。」


 そう言うとラトは魔力回復薬(マナポーション)を受け取り、んぐんぐと飲み干した。


「うえ〜、まじゅいのです〜。えへへ〜、ご主人様ぁ〜?ラトは、頑張ったのです〜、褒めて欲しいのです〜。」


 ラトは頭を差し出して撫でて欲しそうにしていた。レンは仕方なく狐耳を撫でてやる。


「仕方がない、ラトの酔いが覚めるまで少し休むか。」


 ラトを背に乗せて少し開けた場所まで歩いて行き、インベントリから布を取り出し地面に敷く、その上にラトを優しく降ろすとレンは近くにあった岩に寄りかかる。


「さて、今の内に【魔術】習得する為に、魔力を操作する感覚を身に付けないとな。」


 レンは目を瞑り、自身の魔力を内から外へ出すようにして魔力操作の練習を始めた。

 暫くそうしていると外に放出した魔力に何かが僅かに触れる様な、そんな感覚を覚えた。


(ん?何だこの感じ・・・、何かが近くで戦ってる?)


 不思議な感覚にレンは目を開けると辺りを見渡しつつ、剣に手を掛ける。どうやらその何かはこちらには近付いては来ていないようだった。もう一度魔力を辺りへ放出してみると何者かが何かに周りを囲まれている様に見える。どうやら【魔術】じゃなくて【魔力索敵】が習得出来たらしい。


「・・・えぇと、ご主人様、どうかしたのです?」


 漸く酔いが覚めたらしいラトがこちらを見ていた。


「あぁ、起きたか。それが【魔力索敵】を習得したみたいなんだが、近くで何かが戦ってるみたいなんだ、もし、それが冒険者の場合だと安易に助けに入って大丈夫なのか?」


 とりあえずラトが酔っ払っていた時の事は触れないで、今の状況をラトに教える。色々なアニメや漫画だと他の冒険者が襲われていても、大抵助けに入るのは御法度だったりするのだ。


「確かに冒険者同士は戦闘に介入されるのを嫌う人もいるのです。大半の冒険者はそんな状況で文句は言わないのですが、偶に命の危機を助けたとしても文句を言う方もいるらしいのです。」


 やっぱりそう言う冒険者はいるらしくて、レンも面倒臭さそうな顔をしていた。


「とりあえず近くまで行って助けがいるか聞いてみよう。それでもいらないって言うならそれで良いさ。」


 レンは面倒に思いつつも、戦闘が起こっている場所まで向かう。【魔力索敵】を常時発動させて、戦闘が起こっている場所まで向かう。そして漸く辿り着くとそこで戦っている恐らく冒険者であろう人物を見つけた。


「戦ったままで良いから聞け‼︎アンタを助けに来たんだが必要か⁉︎」


 レンは冒険者の近くまで寄って聞いてみる。


「だ、誰だアンタは、いや、そんな事、今はどうでも良い。助けに来てくれたのなら頼む!力を貸してくれ!」


 冒険者はゴブリン達の群れに襲われていたみたいで多勢に無勢といった様子だった。


「わかった!ラト!お前は先刻と同じ様に後方からの援護を頼む!それと、周りから魔力を集める付与魔法を掛けるが、残り魔力をしっかりと気にしながら戦えよ。行くぞ、【魔力吸収】【身体強化】‼︎」


 レンはそんな冒険者の言葉を聞き、ラトに指示を出しつつ【身体強化】を行い、付与魔法のレベルが上がり、新たに使える様になった付与魔法【魔力吸収】もラトに掛けておく。これは周囲にある魔力(マナ)を集めて自身の魔力へと変換するのを補助するだけでなく、自身が放った魔法の放射魔力と言った魔力も集める役割を持つ。


「はうぅ・・・、アレは忘れて欲しいのです。でもご主人様から任されたのです。ラトは頑張るのです。」


 ラトは恥ずかしそうにしたと思ったら、直ぐにレンから頼まれたと言う事が嬉しかった様で、フンスフンスと意気込んで弓を構える。

 レンは剣を片手に【魔力索敵】を発動させながら戦闘域に突入すると、ゴブリンも獲物が増えたと言わんばかりに持ったナイフでレンに斬りかかって来た。

 前後で挟み討ちを受けたレンは、まず前方のゴブリンの肩から斜めに切り落とし、そのまま振り返り下から切り上げようとすると、ゴブリンの頭から矢が生えている事に気付いた。


(コレはラトの矢か?彼処から頭を狙い撃つなんてやっぱり中々良い腕してるよなぁ。)


 ゴブリンと戦いながらもちらっとラトの方へ目をやると、ラトはレンの視線に気付いたみたいで良い所を見せようとやる気に満ちていた。

 ラトはレンと冒険者の援護をしつつ、ゴブリン達が纏まっている箇所を確認すると、数十本の矢を空に向かっておもむろに打ちだす。


「矢の雨を食らうのです。アローレイン‼︎」


 ラトは【弓術】のスキルである【アローレイン】で、ゴブリン達が纏まった場所に矢の雨を降らせた。そんな事が起こるなど露にも思っていなかったゴブリン達は降り注いで来た矢の雨に身を貫かれる事となった。最初に戦っていた冒険者は二人の戦い方を見て戦いながらも唖然としていた。やがて全てのゴブリンが地に伏せると、冒険者はレンの方へ歩いて来た。


「助かったよ、【ゴブリンの森】のゴブリン達が異常繁殖してるらしいから調査の依頼が出てたんだが、戦ったアンタらも分かっていると思うが強さまで異常だったんだよ。」


 冒険者がそう言うとレンとラトは顔を見合わせて傾げていた。


「ん?アレがゴブリン本来の強さじゃないのか?俺はゴブリンと戦った事が無いからなぁ・・・、ラトはどうだ?」

「ラトも知らないのです。ラトが暮らしてた村ではゴブリンなんかの魔物は、警備のおじさんが追っ払ってたのです。」


 ?マークが飛んでる二人を見て、冒険者は呆れた顔をしていた。


「おいおい、マジかよ。アンタらあの強さで冒険者じゃないのか?・・・っと、悪りぃ、自己紹介してなかったな、俺は・・・あ〜そうだなアッシュとでも呼んでくれれば良い。アンタらの名前は聞いても良いか?」


 冒険者は少し間を置いて【アッシュ】と名乗った。


(何だ、今の間は?自分の名前を言っただけだろ?何で少し考えて言ったんだ?)


 自身の名前を言い淀んだ事が気になったレンは、悪いと思いつつも密かに【鑑定】のスキルを発動させた。


(なるほどな、【アシュレイ・バーン・ウォルター】か。ウォルターってことはこの冒険者、王族って事か?それじゃあ、本当の名前は言える訳ないよな。)


「・・・俺はレンだ、それでこっちがラト、訳あって俺の奴隷になった。」

「ラトなのです。ラトもこの【ゴブリンの森】でご主人様に助けてもらったのです。」


 レンはアッシュの名前を見て少し困惑していたが気を取り直して自己紹介をする。


「それで?依頼を受けてこの森に来たのは分かったけど、一人で来たのか?異常繁殖してる可能性は聞いていたんだろ?」


 少なからず現在この森ではゴブリンが異常な数が存在している事が分かる。それなのにアッシュは何故この森に一人で居るのか、レンはもしかしたら何か厄介事なんじゃないかと危惧していた。


「・・・逸れた」

「・・・は?」


 ボソリと呟く様にアッシュが何かを言っていたがレンは聞き取れなかった、と言うより聞き間違いだと思いたかったのだろう。


「だからっ!逸れたんだよ‼︎本当は四人のパーティーを組んで、この森に来たんだよ!・・・はぁ、ゴブリン達に襲われて、戦いながら後退していたんだけど、気付いたら皆居なかったんだよ。」


 溜息を吐いてアッシュは額を押さえていた。


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