第二十九話
「な、何を可笑しな事を……。迷い人など御伽噺の存在ではないですか。」
ミリオーネ侯爵から迷い人かと聞かれたレンは、少し慌てつつも誤魔化す様に言う。
「ふむ……気持ちはわからんでもないが、隠さんでも良い。そうさな……なら、お主が読んでいるその手帳をキーリス達にも見せてあげると良い。」
「……?」
レンの話を聞いたミリオーネ侯爵は、少し考えた後に黒革の手帳をラトやキーリス達にも見せてみろと告げた。
そんなミリオーネ侯爵の言葉に、訝しげな表情をしつつも言われた通りにラト達に手渡した。
「見せて頂くのです……。」
「んー?どれどれー……。」
レンから手帳を手渡されたラトは、手帳の表紙を開きその内容を確認するが、直ぐにその表情は困った顔へと変化していく。
「申し訳ないのです……ご主人様。ラトには読めないのです。」
「そうね、残念だけど、私もこれは読めないわ。」
「そうであろうな。」
レンへ手帳を返すと、ラトは悲しそうな表情で首を横に振りレンに手帳が読めない事を伝える。それに続いてキーリスも肩を竦めて自身も手帳が読めないと伝える。
そんな二人の様子を見ていたミリオーネ侯爵は頷いていた。
(そういう事か……。)
レンはラトから手渡された手帳を再度開いて確認する。先程は気にならなかったが、それも仕方の無い事だろう、なにせこの世界に来てまだ一月も経っていないのだから。
そこに書かれていた文字は、この世界にはあるはずも無い日本語で書かれていたのだ。
「 これは初代当主の奥方様が遺した手記に書かれていたのだが、初代当主は迷い人らしくてな、そこに書かれている文字もそうではないかと考えていたのだよ。」
そう言ってミリオーネ侯爵は別の紙束をレンの前に置いた。
レンはそれをパラパラと読むと、それを書いたのが手帳に書かれていた『大楯の少女マーレ』だというのが分かった。
「なるほど。それで、侯爵は私をどうするおつもりで?」
「ん?どうするも何もないだろう。なにせ迷い人は大半が貴族を嫌うと言うしな。お主が嫌で無ければもっと話を聞かせてもらいたいが……。」
迷い人だと知られた(厳密に言えば違うのだが)レンは侯爵へ警戒の眼差しを向ける。
そんな視線を受けたミリオーネ侯爵は意外にもアッサリとした様子でレンに笑いかける。
「はあ……多分、迷い人が嫌う貴族って言うのは、高圧的な態度の貴族だとは思いますけど……。」
「ああ……なるほど、確かにそういった貴族も多いな。」
レンは余りにもアッサリとしたミリオーネ侯爵の態度に、毒気が抜かれた様に肩の力を抜いた。
「さて、そろそろいい時間だし、昼食をとりながら話を続けようではないか。もちろんの話だが、お主らが嫌で無ければだがな。」
「ははっ、有り難くご一緒させて頂きますよ。……ただ、出来ればラト達も同席させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
レンの肩の力が抜けた所を見て、ミリオーネ侯爵はレン達に共に昼食をとろうと提案する。その後でミリオーネ侯爵は冗談でも言うようにニヤリと笑いながら言う。
レンはそんなミリオーネ侯爵の言葉を聞き、一つ笑うとラト達も一緒に昼食に同席させたいと、ミリオーネ侯爵に言う。
「ああ、構わんぞ。と、言うよりは、元よりそのつもりだ。アシュレイ様からお主がその娘を大切にしておると聞いていたからな。」
「……はぅ……。」
「え〜と……まぁ、そういう事にしておきますが、ありがとうございます。」
アッシュからレンの話を聞いたというミリオーネ侯爵は、当然ラトの話も聞いていたのだろう。この世界における奴隷は、食事の際には同席などは以ての外、同室すら許されない事があるらしい。
その奴隷であるラトをレンは常に同席させ、食事も自分と同じ物をとらせていると聞けばそう思うのも当然なのかも知れない。
そんなミリオーネ侯爵の言葉に、顔を赤くしたラトを横目に、ここで否定すると後々厄介な事になりそうだとお茶を濁してから、ミリオーネ侯爵に礼を言う。
「そうだ、もしよろしければ私からも一つ食材を提供させて頂きましょう。」
いい事を思い付いたかのように、レンはいつものオーク肉をインベントリから取り出す。
当然だが直接ではなく、いつものように腰に付けた袋からだが。
「ほう、これはオークの肉か……。」
ミリオーネ侯爵は手元のベルで使用人を呼ぶと、レンから受け取ったオーク肉を使用人へと直ぐに調理をするようにと手渡す。
「さて、お主から貰ったオーク肉の調理が済むまで、もう少し話をするとしよう。それでその手帳にはどのような事が書かれていたのだ?」
「そうですね……この手帳に書かれていたのは基本的には日記でした。」
オーク肉を手渡した後、調理が終わるまで時間があるとミリオーネ侯爵は話を進める。
それもそうかとレンも手帳に書かれていた事をミリオーネ侯爵に伝える。
「しかし、先程何か驚いていただろう?あれは何だったのだ?」
「あ〜……それは……信じて貰えないかも知れないですが、もしかしたら初代当主は自分の知り合いの父親だと思います。」
レンは手帳に書かれていた幼馴染みの名に引っ掛かりを感じていた。
「どういう事だ?そうなるとお主は数百年前の人間という事か?」
「いえ、そういう訳では有りません。そもそも迷い人がどこから来たのか、どの時代から来たのかはわからないのですから。」
初代当主と知り合いかも知れないと言ったレンの言葉に、不思議そうな表情を浮かべたミリオーネ侯爵に迷い人がどこから、どの時代から来たのかと話す。
「成る程……確かにそう言われてみればそうだな。という事はだ。その手帳にお主のその知り合いの名前が書かれていた、という事だな?」
「その通りです。もしかしたら同姓同名という事も有り得ますが、まず間違い無いと思います。」
ミリオーネ侯爵は納得した様に頷くと、レンに手帳に書かれていた事を言い当てる。
「だが、その根拠は何なのだ?別人かも知れんのだろう?」
「それは……あの大剣です。」
ミリオーネ侯爵が言うように、もしかしたら同じ名前の娘がいる別の人かも知れないが、自分が剣を作った相手が幼馴染みと同じ名前の娘を持つなどという偶然があるのだろうかと、そうレンは考えていたのだ。
「あの大剣は自分が作った物と酷似しているのです。まあ、作ったと言ってもゲームの世界の話なのですが……。」
「なんと……!?それは本当か!?げぇむというのは良く分からんが、ならばお主はアレをまた作る事も出来るのか!?」
ミリオーネ侯爵に大剣の事に関して打ち明けたレンに、ミリオーネ侯爵は詰め寄ってくる。それもそうだろう、これまで幾ら調べても分からなかった物の答えが目の前にいるのだから。
「アレは〔ガラド・ボルグ〕と名付けた大剣で侯爵もお気付きの通り、自分が使っている剣の素材と同じ物を使っています。ただ、混ぜ物はしていないので、魔力を通していない時は、他の物より劣る事になります。」
興奮が抑え切れないといった様子のミリオーネ侯爵にレンはつらつらと大剣〔ガラド・ボルグ〕の説明を始める。
「結論から言いますと、アレは今の自分では作れないでしょう。誰か腕の良い鍛冶屋がいれば協力して作る事も可能だとは思いますが……。」
「それなら、お主の剣を打った鍛治師に頼むのはどうだろうか。」
今のレンでは完全にガラド・ボルグを再現は出来ない。それは鍛治スキルのレベルが低いといった要因がある為だ。
それならばとミリオーネ侯爵はレンの剣を打った鍛治師に頼めば良いと話す。
そこまで話したところで、執務室の扉が叩かれる音が聞こえて来た。
正直、ここの所カツカツです。
今後遅れる事もあるとは思いますがよろしくお願いします。




