第二十五話
ゴブリンの森でゴブリンキングと戦ってから二週間程経った。あれからアッシュは忙しいようで一度も共に依頼を受けていない。
「はぁ……ゴブリンの森が使えないのは、どうにも痛いな……。」
ギルドに隣接している食堂でレンは溜息をつきながらそう呟いてテーブルの上に突っ伏していた。というのもあの一件で現在ゴブリンの森はCランク以下の冒険者は侵入禁止となっていたからだ。
流石にギルドとしてもゴブリンキングの出現は予想外だったらしく、報告した時は蜂の巣を突いた様な騒ぎとなっていたらしい。
ちなみに現在キーリスは掲示板の前で、何か良い依頼が無いかと依頼票を漁っている。
「まぁ、こればかりは仕方ないですよ。レンさんが倒したゴブリンキング以外にも居るかもしれないですしね。……あ、私にもお茶を頂けますか?」
「いや、多分あの森には出て来るのは通常のゴブリン程度で、もうゴブリンキングなんていないと思うぞ?」
「ああ、そう言えばご主人様が意識を失う前に『後は楽になる』みたいな事を言っていたのです。」
レンの呟きを近くで聞いていたルナが、そう言ってレン達が居る所までやって来る。
レンは【RoE】で知っていたが、魔物達の狂宴ではボス級の魔物が出現した場合、その魔物を倒してしまえば後は現存する魔物以上は出現しなくなる。
「まぁ、そうは言ってもそれで『森に行っても良いですよ』とは言えないんですよね。」
「はぁ……仕方ないんだろうな。……で、何か他に用件があったんじゃないのか?」
とは言えそれはゲームで知った話であり、この世界の住人には分かる筈も無い話である。ともすれば結局のところ、調査が必要となるのは自明の理と言えるだろう。
それはレンも分かっていたので多少なり愚痴は言えども、それ以上は言わない事にして何故ルナがレン達のテーブルへやって来たのかを聞く。
「あら?用件が無くちゃ話しかけちゃダメなんですか?」
「……そう言うのはいいから。早めに用件を言ってくれ。アッチでマリーとソフィアが睨んでるんだよ……忙しいんだろう?」
一見するとクールな印象のルナが、テーブルに置かれたお茶を飲みつつそんな事を言う。そんなルナの言葉を聞いたレンは呆れた顔をして、ギルドのカウンターを親指で指を差す。今現在ゴブリンの森が封鎖されている為、他に仕事が無いかと冒険者達が殺到しているのだ。
「そうですね……では話を進めましょうか。全く……少しくらいいいじゃないですか。それで今朝の事なんですけど、アッシュさんがギルドに参りまして、レンさんが来たらミリオーネ侯爵の屋敷まで来て欲しいと仰ってました。」
「ああ、確かアッシュの親しい貴族って話だったか?」
この忙しさに疲れ気味のルナはブツブツと不満を言ってはいたが、どうやらアッシュからの伝言を伝える為に来たらしい。聞く所によるとアッシュが親しくしている貴族の屋敷に来て欲しいとの事だった。
「恐らくはゴブリンの森での事を聞きたいのではないでしょうか。」
ゴブリンの森での出来事はアッシュやラトからギルドに報告されている。だがレンは三日程寝込んでいた為、直接の報告はしていない。パーティーで受けた依頼であるから問題はない筈なのだが、ゴブリンキングと戦ったと言うレンの話を聞いておきたいのだろうとルナはレンに伝える。
「そもそも魔物達の狂宴……でしたっけ?そちらに関しましても、発生例自体あまり有りませんからね。」
魔物達の狂宴自体発生例が少ない……と言うよりも、気付かぬうちに発生してそのまま行進になってしまっている。
「……で、いつ頃そこに行けば良いんだ?誰かが迎えに来るのか?」
「いえー……それがですねぇ……レンさんから許可が頂けたら直ぐにでもと仰られておりまして……。」
「えっと……もしかして何処かで待ってらっしゃるのです?」
まあ、それぐらいならとレンが言うと、なにやら気まずそうにルナが言葉を濁しつつ視線を他の場所へとやる。それを見たラトは何かを察したようで、ルナの視線を追ってそんな風に聞いている。
「おいおい……嘘だろ?俺が良いって言わなかったらどうなってたんだよ……?」
「まあ……それはやはり普通にお帰り頂くしかないでしょう。」
「そうなってたら後が怖いのです……。」
レンが唖然とした様子でルナとラトが見ているギルドの入り口にある扉を見る。なにせレンが行かないという選択肢を選ぶと迎えに来ているであろう使者は手ぶらで帰るという事になるのだ。それを想像してしまったラトは両手で自分を抱きしめるようにして震えていた。
「まあまあ、今回はレンさんに許可を頂けたのでなんの問題も無いんですから。それでは早速ですが行きましょうか。」
ラトを宥めつつ自分に出されたお茶を飲み終えたルナは立ち上がりギルドの扉を開けて外に出て行く。レンとラトもルナの後を追う為に立ち上がると、それに気付いたキーリスが慌ててレン達の後をついて来る。
「ちょっとぉ、置いて行こうとするなんて酷くない?」
「あぁ……すまん、普通に忘れてたわ。それで良い依頼はあったのか?」
ムスッとした顔でレンを見ていたキーリスだったが、どうやらめぼしい依頼は無かったようでレンの問いに肩を竦めて見せていた。
そんなやり取りをしつつギルドの扉を開けると外には渦巻く炎が描かれた大楯と赤い大剣が描かれた馬車が目に入って来る。
「貴方がレン様でございますね?私はダグラス様の使いとしてやって参りました執事長のウィリアムと申します。お気軽にウィルとお呼び下さいませ。さあ、どうぞ馬車へとお乗り下さい。」
レンが来たことを確認した老執事〔ウィリアム〕は恭しく一礼すると乗って来ていた馬車へとレン達を招いた。
どうやら先に出ていたルナから話は聞いていたようだ。促されるままレン達が馬車の中へと乗り込むと御者台に座ったウィルが後ろを振り返りレン達が乗り込んだかを確認する。
「では、これよりダグラス様のお屋敷に参ります。レン様達は馬車の中でごゆるりとお寛ぎ下さいませ。」
ウィルはそう言ってミリオーネ侯爵の屋敷へと馬車を走らせるのであった。
正直まだ風邪が治ってないのです……。
風邪ひく→小康状態ーー→再発といった具合なのです。
くふん……(´・ω・`)




