第二十四話
再度ゴブリンキングと対峙したレンは、痛む身体に耐えながらナイフを操りつつ剣を振るっていた。
「くぅッ……だが、アイツだって無傷じゃないんだ、それならやりようはいくらでもある筈だ‼︎」
レンはそう自分に気合を入れつつ数本のナイフと共にゴブリンキングへと斬りかかって行く。相手も飛ばされたナイフの危険性を理解したのか、先程よりも警戒の色が濃くなっている。その所為なのかは分からないが、随分とレン自身による攻撃に対して防御が疎かになっていた。
「ははっ、随分とナイフに怯えてるんだな?……っと、そこだ‼︎」
レンはゴブリンキングがナイフを嫌い棍棒を振っていた所を斬りつけたのだが、ゴブリンキングは予想していたかのようにナイフを避けてレンの剣を弾く。
「ぐぅ……まだそんな余裕があるのかよ!……マズイな。」
レンは弾かれた剣を手から離さない様にしつつ、ナイフを全てゴブリンキングに集結させるように飛ばす。だが飛ばしたナイフが少し溶け始めている事に気づいたレンは焦り始める。
これはナイフを操る際に少量ではあるが、ナイフに込められた魔法を解放している事が由来している。その力を使い目標へとナイフを飛ばしている為だ。
恐らくではあるが、このままではそれ程しない内に操り踊る短剣は使い物にならなくなるだろう。
「仕方ない……か。こうなりゃ全部くれてやるよ‼︎……全解放‼︎」
溶けて使い物にならなくなるぐらいならとレンはゴブリンキングの周りに集めたナイフに付与された魔法を全て解放させる。
全ての魔法がゴブリンキングに降り注ぎ土煙を上げる傍らでレンは剣を支えに膝をついていた。
「はぁ……はぁ……これで終わりだと嬉しいんだが……。」
しかし、レンがそう言った直後、土煙の中から勢いよくゴブリンキングが飛び出してきた。その姿は所々を風魔法で貫かれ左腕は千切られかけている。
それでもなお、レンに向かって執念の如く棍棒を振るう。ゴブリンキングの一撃をすんでのところで防御をしたレンだったのだが、体力の限界を迎えていたレンは遂に剣を弾き飛ばされ、自身までも吹き飛ばされていた。
「ご主人様‼︎」
「来るな‼︎……ぐッ‼︎」
他にも理由はあるのだが、ラトを巻き込む訳にはいかないと考えたレンは駆け寄ろうとしたラトを抑える。
そして、立ち上がろうとするレンの前にゴブリンキングはよろよろとしつつも笑みを浮かべながら歩いて来る。
「はぁ……ったく!これだけはやりたくなかったんだがな……。」
なんとか立ち上がる事が出来たレンはそんな風に呟くと、自身の魔力を掌に集中させていく。
「勝ち誇った顔してんじゃねぇよ‼︎……コイツで終わりだ‼︎魔力爆発」
ゴブリンキングが勝ち誇ったような顔してレンの前まで来た時、レンは自身の掌に集めた魔力をゴブリンキングに向かって打ち込む。魔力爆発は魔法やスキルとも言えぬ様な技で、ただ単純に圧縮した魔力を目標に向かって爆発させると言ったものである。当然ながら使用者は爆発の中心にいる事になる為、諸刃の剣となってしまう。だが結果を見てみるとそうはならなかった。
それはレンの持つスキルである【魔力操作】によるものである。このスキルのおかげでレンは本来なら自爆技と言ってもおかしくはない魔力爆発に指向性を持たせる事が出来ていた。
それでもやはり少なからずレンにもダメージはあった。元々、無視出来ない程のダメージを受けていたレンは自身が放った魔力爆発の余波を受け、ゴロゴロと転がっていく。いくら指向性を持たせたとは言っても腕だけは爆心地である、その為レンの手を見れば酷い火傷を負うと言う様な事になってしまっていた。
「ッ⁉︎ご主人様……あまり無茶はしないで欲しいのです……。」
「ああ……悪いな、ラト……ぐぅぅ‼︎……でもこれで後は楽になる筈……だ……。」
「ご主人様⁉︎」
レンが起こした爆発が収まると、ラトは大急ぎで転がったレンの元へと駆け寄って来ていた。レンは駆け寄って来たラトに一言謝った後にゴブリンキングを見てみると為す術もなくその身を焼かれて倒れていた。それを見たレンもゴブリンキングを倒した事で安心したのか遂にその意識を手放してしまっていた。
----------------
あれから数日程経った。
レンが意識を失った後、直ぐに別の冒険者パーティーがやって来たとラトから聞かされている。どうやらアッシュは森から抜けた後、直ぐに出会った冒険者に助けを求めていたらしい。
そして、レンは今どうしているのかと言うと未だに宿のベッドの上にいると言う状態であった。
それもこれも全ては最後に使った魔力爆発が原因である。
あの技は【RoE】でも魔力の殆どを持っていく技だった。レンの魔力でそんな技を使ったのだ、魔力の回復はほぼ問題はなかったのだが、あの時に焼けた腕は未だ回復が遅れていた。
「はぁ……こんなになるんだったら、あの技使うんじゃなかったなぁ……。んで?何でお前が此処に居るんだ?」
「何でって言われてもねぇ……。」
ベッドから起き上がったレンの視線の先には、何故かキーリスが座っている。
「キーリスさんは今回の件でご主人様の奴隷になったのです。後コチラが特別報酬になるのです。」
「はぁ?」
部屋に入ってきたラトからそんな事を言われたレンは、素っ頓狂な声を出した。
事情を聞くと、ある貴族からアッシュを殺すようにと依頼を受けたキーリス達はあの森を訪れていたと言う。
キーリス達はこれまで暗殺依頼などを何件か受けていたらしく、今回そういった件で犯罪奴隷となったのだと、ラトはテーブルに何枚かの硬貨が入った麻袋を置きながら言っていた。
「あれ?新人狩りは?」
「言っとくけど、それアタシじゃないわよ?」
話の途中で気になったレンが聞いてみると、いつの間にかベッドに腰掛けていたキーリスからそう言われる。
「そうなのか?……分かった、じゃあその件はギルドに任せるとしよう。後は……そうだな、アッシュはどうしたんだ?先刻の話だと無事なのは分かるんだが……。」
恐らくギルドでも調べているだろうと、取り敢えず納得してから森を抜けた後、アッシュはどうしたのかをラトに聞いてみる。
「アッシュ様は親しい貴族様の屋敷に行ってるのです。今回キーリスさんに依頼した方について何やら話があるそうで、相談に行ってるみたいなのです。」
そう言ってラトは宿に常設されているお茶を淹れて椅子に座る。レンもベッドから立ち上がり、ラトが淹れてくれたお茶を飲みつつ椅子に座る。
「そうか……まぁ、何にせよ皆無事で良かったよ……。」
飲んでいたお茶を置いたレンは、そう言って包帯の巻かれた腕でラトの頭を撫でていた。
活動報告の方にも書かせて頂いたのですが、風邪をひいてしまい全然続きが書けていないのです。もしかしたら来週は更新出来ないかも知れないのです。




