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第二十三話

 

「え……?ま、まさか、ゴブリンキング……?なんでこんなのがいるのよ……。」

「死にたくなかったらお前も戦え‼︎」


 レン達の前に姿を現したゴブリンキングに呆然としていたキーリスの前にインベントリから取り出した片手斧と丸盾(バックラー)を放り投げて怒鳴る。


「何言ってんのよ⁉︎アンタあんなのと戦う気⁉︎」


 レンの言葉にハッとしたキーリスは、レンに向かって正気かと問い詰めて来る。ただし、視線だけはゴブリンキングから外さないところだけは冒険者として優秀だと言えるだろう。


「死にたいんだったらこのままお前を置いて逃げてもいいんだぞ?」

「やだ、置いて行かないで‼︎わ、分かった、アタシもちゃんと戦うから。」


 レンが冷たく突き放すような言い方をすると、焦ったキーリスは慌てて放り投げられた斧と盾を手に取って構える。ゴブリンキングが近づいて来ている状況で流石に服や防具は着ている暇は無いので全裸のままである。


「裸のままで可哀想だと思うのですが、何かを着ている暇は無さそうなのです……。せめて綺麗にしてあげて欲しいのです。」


 ラトは同じ女性としてゴブリンの体液塗れだとキーリスが可哀想とレンに頼んで【洗浄(クリーン)】という生活魔法を使ってキーリスに付いていた体液を洗い流してやる。


「あ、ありがとう……。」

「来るぞっ‼︎ラトは先刻と同じで遠くのゴブリン達を相手にしろッ‼︎キーリスはラトに近づいて来たゴブリンと戦えッ‼︎……俺はゴブリンキングの相手をする。……切り札を使うからゴブリンキングには近寄るなよ!」


 綺麗になったキーリスがレンとラトにお礼を言うと、直ぐにレンから指示が飛んでくる。

 レンは指示を出すとインベントリから先日買った投げナイフを数本取り出して相手に向かって投げつける。


「ちょっと‼︎どこに向かって投げてるのよ‼︎全然違う所に飛んでるじゃない‼︎」


 キーリスが言ったようにレンが投げたナイフは一本もゴブリンキングに向かっていなかったのだ。


「切り札を使うと言っただろう……舞い踊れっ‼︎【操り踊る短剣(マリオネットダガー)】」


 焦っているキーリスを窘める様に言った後、レンはナイフに付与していた魔法を発動させる。するとレンが投げたナイフは何かに取り憑かれたかのようにその軌道を変え、ひとりでにゴブリンキングへ向かって飛んでいく。


「あ、危なかったぁ……それにしても何よ、アレ……。」

「気を抜いちゃ駄目なのです!」


 その異様な光景に気を取られたキーリスがゴブリンに迫られるが直ぐ様ラトの矢が刺さって倒される。

 レンはラト達の様子を横目に確認しながら投げたナイフを操りつつゴブリンキングと剣と棍棒を打ち合わせる。


(やはり少し重いな……もう少し付与魔法のレベルが上がっていれば良かったんだが……)

「何でご主人様の剣で棍棒が斬れてないのです?」

「何よ、アンタ知らないの?あー言う魔物が持つ武器ってのは魔具が多いのよ。」


 レンは操るナイフに対して苦々しく思う。付与魔法のレベルが上がっていれば【重量軽減】という魔法が使えるはずだったからだ。そんな風に考えながらも剣を打ち合わせるレンの姿を矢を放ちながら見ていたラトが不思議そうにボソリと呟いていた。ラトの呟きを聞いたキーリスがその答えをラトに教えている。

 時折現れるキングの名を冠する魔物。流石に簡単に倒せる相手では無く、その武具は不壊の魔具(マジックアイテム)となっているとの事だ。

 しかし、それはレンにとってはあまり関係のない事ではあった。なにせゲームでは武器を壊して戦うという事は無かったのだから。


「くそッ‼︎やっぱり今のレベルだと少しキツイな……。っと‼︎こっちだってそう簡単にやられてたまるかよっ‼︎」


 ゴブリンキングは自身に向かって飛んでくるナイフをうざったそうにしつつも棍棒でレンに攻撃してくる。しかしレンもいくらレベルが足りないからと言って簡単にやられる訳にはいかない。


(恐らくだが、パターンがある筈だ。それさえ分かれば攻撃をする隙を見つけられる。)


 レンはそう考えてゴブリンキングが振るう棍棒を避けたり、或いは武器で受けたりして攻撃する隙を窺う。幾度となく振るわれる攻撃を避けながらゴブリンキングを観察していると、棍棒を振り上げた時に死角が出来る事に気がついた。


「こいつで……どうだぁっ‼︎……ぐあぁっ⁉︎」


 レンはゴブリンキングの隙をついて剣で攻撃をしただけではなかった。ゴブリンキングが棍棒を振り上げた所にレンが剣で攻撃をしつつ飛ばしていたナイフを右後方からゴブリンキングへと飛ばしていたのだ。


「ぐあぁっ⁉︎」


 死角からナイフが突き刺さりはしたのだが、ゴブリンキングは苦悶の表情を浮かべつつもレンに棍棒をぶつけてきたのだ。レンもまさかナイフが刺さったまま攻撃してくるとは思いもしていなかった為【守りの腕輪】の発動も間に合わずミシミシという音を立てて横薙ぎに吹き飛ばされて転がっていく。


「がはぁっ……‼︎くそッ……ナイフが突き刺さっても御構い無しかよ……。じゃあ、こんなのはどうだ……?解放(ブラスト)‼︎」


 吹き飛ばされたレンは血反吐を吐きつつも、ナイフに付与された魔法を解き放つ。レンを吹き飛ばしたゴブリンキングは脇腹に刺さったナイフを抜こうとしていたが、その努力も虚しく解き放たれた魔法により更に脇腹を抉られる事となっていた。


「ご主人様……⁉︎大丈夫なのです⁉︎……今、回復するのです。『水よ、汝、生命(いのち)の水を用いて傷を癒し給え。ウォーターヒール』」


 いくら防具として鎖帷子を着ていても衝撃……打撃などに対してはそこまでの意味はない。だとすれば、今レンが受けた攻撃が非常にマズイ事はラトにも分かっていた。だがラトの回復魔法を受けたレンの顔色は少し良くはなっていくものの完全に回復する事までは出来ていなかった。


「ラト、もういい。お前はまだ他のゴブリンと戦ってくれ……痛ぅッ‼︎……今のでだいぶダメージを与えられたようだし、後は邪魔さえ無ければ押し切れる筈だ。」


 痛みに耐えながら立ち上がったレンは、回復を行なっているラトの肩に手を置いて引き離すと、ラトは今にも泣きそうな顔をしてレンを見ていたので、レンはラトの頭を撫でて声をかける。


「大丈夫……この剣も有るし、まだ他のナイフも生きている……安心してくれ。」

「ですが……いえ、分かったのです。ですが、ご主人様……これだけは覚えて置いて欲しいのです。ラトはご主人様が居なければ、ラトも生きてはいないのです。だから、どうかご無事で帰って来て欲しいのです。」


 泣きそうな顔をしたラトはそう言って、レンの頰にキスをしてから離れていった。レンはラトからキスされた頰に手を当て、フッと笑いつつも剣を握る手に力が入るのを感じていた。

操り踊る短剣(マリオネットダガー)……イメージは完全にファン○ルなのです。正直名前の何処かにファ○ネルって入れたかったのです。

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