第ニ十話
時は少し遡りレン達が街を出た頃、キーリス達はとある貴族の屋敷にいた。
「何、アシュレイがまだ生きているだと⁉︎どう言う事だ⁉︎貴様等はワシに嘘の報告をしたのか‼︎」
丸々と太った貴族の男が手元にあった飲みかけのワイングラスをキーリスに投げ付け喚き散らしていた。
「ッ‼︎滅相も有りません‼︎……確かに魔物達の行進に巻き込んだので死んだものと思っていたのですが……どうやら、偶然出会った冒険者と協力して助かった様です。……ですがご安心ください、そのアッシュと共にいる冒険者もたかがFランクだと言う事なので、今度こそこの手で確実に葬って参ります。」
「ふんッ‼︎当たり前だッ‼︎貴様等の様な者をわざわざ高い金で雇ったのだからな……、今度失敗したらこのワシが自ら貴様等の首を刎ねてくれるわ‼︎」
キーリスは投げ付けられたグラスを避ける事もせず弁明を図るが、この貴族の男はそれすらも苛立たしいと言った様子でキーリスに怒鳴る。
「奴らはこれからゴブリンの森に向かう様なので、私達も後を追って始末します。次に来た時にはきっとハルバー様にも良き報告が出来る事でしょう。」
「ならば早く行ってあの忌々しい第二王子諸共始末してこんかッ‼︎」
「は、はい、直ぐに行って参ります。」
貴族の男〔ハルバー〕に叩き出される様に屋敷の裏口から出たキーリスは急いで自分達が泊まる宿へと向かう。
「あんのクソ貴族がぁッ‼︎自分では何も出来ないくせに舐めてんじゃないよ‼︎」
屋敷に居た時とは打って変わった態度で、自室の物に八つ当たりをしているが幾らも気分が晴れる訳も無く、それが更にキーリスを苛立たせる事になっていた。
「ガレット!クタール!さっさとアッシュを殺りに行くよ‼︎」
「……はあ、だから自分達でやった方が良いと言ったじゃないか。」
「あぁん⁉︎ガレット……アタシのやる事に文句あんの⁉︎」
「落ち着きましょうや、キーリスの姉御。ガレットの旦那もそう言う意味で言ったんじゃないですって……。」
「じゃあどう言う意味よ⁉︎」
戦士風の男〔ガレット〕に怒鳴るキーリスを落ち着かせる様に、狩人風の男〔クタール〕が話し掛けるが取り付く島も無く怒鳴りつける。
「……はあ、もういいわ。さっさと準備を済ませて行くわよ。」
準備を済ませ宿を後にしたキーリス達は、レン達を追うために門を潜りゴブリンの森を目指す。
「ところでクタールから見てあのレンって男はどうなの?」
「ああ、ありゃ冒険者になって気がでかくなってるだけですさ……実力もFランクで妥当な所だと思いますぜ。それよりもアッシュと居た獣人の娘の方がEランクそこそこの強さって感じですかね。」
「ふぅん……?それでよくもDランクのアタシ達にあんな口聞けたもんね……。アハッ、そうだ!あのレンって男の前でアッシュとあの獣人の娘を殺せばいいわ、一体どんな表情をするのかしらねぇ?」
「いやいや、姉御。どうせなら獣人の娘は男どもの前で犯してから殺しましょうや。」
狩人風の男クタールの実力は大したことはないが相手の実力を見抜く事には長けていた。強き者には遜り、弱き者には強気に出ると言った典型的な小物である。その実力を見抜く能力を買われキーリスと共に悪事を重ねていたが、今回不運な事にレンの実力を見てしまった……【隠者のローブ】で弱く見せられた誤った状態のレンの実力を見てしまった。クタールの能力を買っているキーリスはそれを聞いて嘲笑うかのような笑みを浮かべると、クタールも同調して下卑た笑みを浮かべる。
「だけど、あのレンって男……見た所魔術師っぽいから、気を付けた方が良いんじゃないか?」
「あらぁ?どうしたのよガレット?もしかしてビビっちゃったの?……アハハハッ‼︎大丈夫よ今まで魔術師の冒険者だってやって来たんだから問題なんてないわよ。」
ガレットは相性の悪さから魔術師という者に苦手意識があり少し弱気になっていると、キーリスが笑いながらガレットの背を叩いて安心させる様に言う。
「まあ、魔術師はいいとしてアッシュと獣人の娘には気を付けなきゃいけなさそうね。獣人の方は弓を持ってたから多分アッシュと連携して戦うだろうしね。」
先程まで笑っていたキーリスが途端に神妙な顔をしてレン達の戦力の分析を始める。この様な悪事に手を染めていなければ、中々良いパーティーではあるのだろう。そのまま暫くキーリス達は休憩も取りつつゴブリンの森に向かって歩いているとクタールから報せを受ける。
「これ以上進むと、あの獣人の娘に勘付かれ兼ねないですぜ。……これ以降は少しゆっくりと進みましょうや。」
「あら?随分とゆっくり進んでいたのねぇ。ま、アタシ達としては助かるから良いんだけどね。」
レン達が休憩も取りつつ戦闘をこなして進んでいると言うこともあって、いつの間にかキーリス達はラトに気取られてしまう位置にまで来ていた。クタールは経験上そろそろ気付かれるとキーリス達に促してゆっくりと進む事にする。とは言えキーリス達は気付いていないがラトに気付かれ兼ねない位置と言うことは当然レンには気付かれている位置なのである。
「今回も魔物達の行進を引き起こして奴らを巻き込む作戦で行くわよ。その戦闘に紛れてアイツらを捕らえればいいわ、パレードはその後にでも処理すれば問題ないでしょ。」
「まあ、ゴブリンなんかにやられる筈もないし、それでいいだろう。」
「じゃあ、アッシがまたゴブリンを集めて奴らにぶつけてやりましょうかね。」
暫く歩くとレン達が野営を始めたので、キーリス達も今日はここまでにして野営を始める。野営の準備を終えて焚き火を囲んで保存食を食べつつ作戦を練り始める。ある程度話がまとまりキーリス達も見張りを交代しつつ眠りについたのだった。
翌朝、荷物をまとめ再度レン達に気付かれぬ様に後を追い始める。
「あー……もうッ‼︎さっさと進みなさいよ‼︎あんな魔物に梃子摺ってるんじゃないわよ‼︎」
キーリスが苛々した様子で喚く。昨日にもましてレン達の進行の速度が遅くなっていたからである。
「まあまあ、アッシらは奴らを始末出来ればそれでいいんですから落ち着きましょうや。」
「そうは言っても、こう遅くっちゃあ苛つくのも分かる。」
クタールがキーリスを落ち着かせようと宥めるが、いい加減ガレットもその進行の遅さに苛ついていた。
「後もう少しの辛抱ですって……ほら、ゴブリンの森も見えて来ましたぜ。」
そう言ってクタールが指差す方向を見たキーリスとガレットは安堵の表情を浮かべたのだった。
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