第十九話
冒険者ギルドを後にしたレン達は、一旦レン達が泊まる宿に戻って来ていた。恐らく一週間程、宿を開ける事になるため荷物を取りに来たのである。一通りの荷物を取り宿の人達に挨拶を済ませてから門の方へと向かうと見たことがある人物が待っていた。
「おお良かった、間に合ったみたいだな。」
「アンタは……どうしたんだ?何か足りてない物でもあったのか?」
門で待っていたのは、昨日レン達が入った武器屋の店主だった。レンは何か不足している物でもあったのかと思い店主に尋ねる。
「ああ、そうじゃないんだ。……ほれ、兄ちゃんが昨日、使ってる剣を溶かしたって言ってたから早めに仕上げるって言っただろう?こいつが今朝仕上がったから、間に合うならと思ってここで待ってたんだよ。」
「まさか……もう出来上がったのか?」
店主はそう言いながら自分の後ろに立て掛けて置いた布に包まれた物をレンに渡す。それを受け取ったレンは巻かれた布を取り驚きの表情を浮かべた。
「そんな無理しなくても良かったんだぞ?」
「なぁに言ってやがんだよ、あんなモン見せられたら血が騒ぐってモンだろう?」
恐らく、レン達が帰った後掛り切りで剣を仕上げたんだろう。よく見ると店主の目の下には隈が出来ていた。それに気付いたレンは店主にそう言ったが、店主は気にもしない様にレンの背を叩いて笑う。
「悪いな、助かるよ。」
「気にすんな、俺はこれから帰って寝る事にするよ。……無事に帰って来いよ?」
剣を腰に差し店主に礼を言うと、店主は手をひらひらとさせて街へと戻って行った。その後、レン達は門番にギルドカードを見せて街の外へと出て行った。
「剣を溶かしたって何したんだよ……。見た所結構良い剣だったと思うんだけど?」
「ご主人様が新しい技を試したらあっという間に溶けたのです。ラトもあの時はビックリしたのです。」
武器屋の店主との会話を聞いていたアッシュが気になって尋ねるとラトが質問に答える。
「まあ、それはそのうち見せるさ。この剣なら相当な魔力に耐えてくれるだろうしな。」
「赤い刀身の剣なんて珍しいよなぁ……俺が知ってるのなんて知り合いが持ってる一本くらいなもんだよ。」
レンはそう言いながらあの店主が徹夜で仕上げてくれた剣を抜いて見せる。その赤い刀身の剣は昨日見た武器屋に並べられたどの剣より丁寧に仕上げられている。それを見たアッシュはその赤い刀身をまじまじと見つつそんな風に話していた。
「そう言えばさっきの店主さんも昨日そんな事を言っていたのです。アッシュ様の知り合いだったのです?」
「ああ、多分そうだろうな。そいつは俺の古い知り合いでな……確か、そいつの家に代々伝わる剣らしい。その剣もまた面白い形をしてたからよく覚えてるよ。」
二人は街道を歩きながらそんな話をしていたが、剣を鞘に戻したレンは魔力索敵により自身の後方に何者かの気配を感じていた。
(あのキーリスって奴か?……行き先がゴブリンの森だって分かってるから、ついて来ているって言うよりは追って来たって所だろうけど。)
「どうした、レン?早くしないと幾らゴブリンの森とは言え遅くなるぞ?」
「いや、何でもない……。所でアッシュはさっきのキーリスって奴のパーティーにずっといたのか?」
恐らく追って来ているのはキーリス達だろうとレンは思い、アッシュには一先ず伝えずに気になっていた事を尋ねる。
「ん?いや……森の調査の依頼を受けたアイツらのパーティーに誘われて参加したって所だな。それまではずっと一人で依頼をこなしてたよ。」
アッシュは何故急にそんな事を聞くのかと言った様な不思議そうな顔をしながら答えた。それを聞いたレンは歩きながらもまた考え始める。
(んー……初めは新人狩りかとも思ったけどアッシュ自身を狙ったのかも知れないな。少なくとも王族だしな。)
「前から魔物が来るのです。」
「【魔法付与】〔ストームジャベリン〕」
「……ラトの出番が無いのです。」
考え事をしている最中、魔物の気配には魔力索敵により気付いていたが、まだ射程範囲外だった為わざわざ向かう事も無いと思っていたのだが、どうやら魔物達の方がレン達に気付いて襲う為に近付いて来たのだ。だが魔物達も運が無かったと言うべきか、ラトの耳がピクンと動き魔物達の気配に気付いた時、丁度レンの魔法剣の射程範囲に入ってしまい襲いかかる間も無くその命を散らしていた。
「お、おい、今のは何だ?その赤い剣は魔剣だったのか……?」
「いや、今のがさっき言ってた新しい技ってところだな。前に魔物達が居るのには知ってたけど、コッチに来なければ戦う事も無いと思ったんだけどな 。」
「ラトの出番……」
レンの剣が魔剣かと勘違いしているアッシュに説明していると、しょんぼりした様子でラトが一人呟いていた。
「悪いな、ラト。お前にはゴブリンの森で活躍してもらうから落ち込むな。」
レンは落ち込んだラトを励ます様に頭を撫でて言った。レンに頭を撫でられたラトは機嫌を直したのか尻尾をパタパタとさせている。暫く戦闘と休憩をしつつ森へと向かっていると日が傾き始めた。後を追って来ているキーリス達に気付かれる距離では無かったので、インベントリから野営に必要な物を取り出して準備をする。
「さて、明日も森に向かいはするんだが、森に入るまでは出会った魔物の戦闘はラトとアッシュに任せてみたいと思う。」
野営の準備を終えてレンが提案したのは二人に戦闘を任せると言う事だった。これは森に着く前に二人の地力を上げると言う事もあるのだが、キーリス達が襲い掛かって来るのを見越した上での提案だった。
「それだと森に着くのが大分遅れそうなんだが……いや、確かにレンとの差は歴然だからな……この先パーティーでやっていくんなら俺達のレベルアップは必要か……。」
「はいなのです。ご主人様に少しでも近づける様にラトも頑張るのです。」
アッシュは森に着くのが遅くなると少し渋い顔をしていたが自身のレベルアップが必要だとラトと共に提案を受け入れていた。
(アイツらも森に入る前に来てくれると楽なんだがな……。)
そのままレン達は見張りを交代しつつ眠りについたのだった。翌朝、片付けを終えて再び森に向かって歩いて行くと直ぐに魔物と遭遇する事になった。レンが二人に付与魔法を使うと、アッシュが前に出て魔物を受け持ち、ラトが後方から弓を使い援護する。
「アッシュ!大振りになるな!ラトは味方の隙を援護する様にするんだ!」
「おう、分かった!」「はいなのです。」
レンは今まで【RoE】で培った技術を二人に教える様に指示を飛ばす。二人も自分では気付き難い部分を教えられ即座に修正して行く。休憩を挟みつつ何度か戦闘を行ない、その度二人に指示を与えていると、気付けば遠目に森が見え始めた。
「意外と自分じゃ気付けてない部分もあるもんだな……。」
アッシュは自身のレベルアップを噛みしめる様に呟いていた。




