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第十七話

 

「【魔紋】なのです?聞いた事ないのです。ご主人様とラトの魔力は何か違うのです?」

「そうだぜ、魔力なんて誰でも同じじゃねえのか?」


【魔紋】と言う聞き慣れない言葉に、二人して何か違いがあるのかとレンに聞いてくる。


「魔力ってのは、同じに見えて……いや、普通は魔力は見えないんだが、一人一人の波長なんかが違うんだよ。皆同じだったら適性だって皆同じになるだろ?」

「確かにそう言われてみればそうなのです。」


 魔力の周波数とも言える【魔紋】。レンが言うにはこれが全て同じなら魔法適性も同じになってしまうのでは?と言う事だった。


「なるほどねえ……だけど、使用者を制限するなんて他の奴が使えない以上あんまり意味なんか無いんじゃないか?」

「まあ……それは、こいつを見てくれればわかるさ。……ラト、このミスリルの槍に魔力を込めて俺が持つ赤ミスリルに攻撃をして見てくれないか?」


 店主は未だにその性能に疑問を感じているのか、制限をかけるのはデメリットなのではないかと聞いてくる。それを聞いたレンはインベントリからミスリルの槍を取り出してラトに渡した後、赤ミスリルを手に取って魔力を込めて攻撃してみろと促した。


「分かったのです……でも、まだ慣れてないので少し待って欲しいのです。」

「ああ、大丈夫だ。俺もこれからこの赤ミスリルに魔力を練り込むからゆっくりやってくれていい。」


 未だ武器に魔力を纏わせる事に慣れていないラトを安心させる様にそう言うと、レンは赤ミスリルに魔力を通し始める。魔力が練り込まれ始め妖しく輝く赤ミスリルはレンによってその形を変えていく。とはいえこれだけでは本格的な剣や盾の形成は出来ないのでとりあえず薄く引き延ばして配膳に使う様なトレーみたいな形にする。


「とりあえずはこんなモンでいいだろう。ラトの方も上手く魔力の調整が出来てるみたいだな。」


 一方、ラトの方はと言えば慣れない魔力の調整に苦戦していた様だが、なんとか渡されたミスリルの槍に上手く魔力が流せている様で槍が蒼白く輝いていた。


「ふう……ご主人様、これでご主人様が持ってるソレに攻撃すればいいのです?」

「ああ、それでいい……来い。」


 レンはそう言って自身が持つ赤ミスリルのトレーの両端を持って魔力を流し構える。レンが構え終えたのを見たラトは、ミスリルの槍を構えなおしてレンが持つ赤ミスリルに襲いかかる。だが思い切り突いたのにも関わらずレンが持つ赤ミスリルのトレーには傷一つ付けることは出来なかった。


「うう……、手が痺れるのです……。」

「大丈夫か、ラト?……と、まあこんな感じで、魔力を込めた赤ミスリルは軽くミスリルを凌駕するんだ。」

「なっ……まさか魔力の込めたミスリルが欠けるなんて……、それほどまでの強さなのか……。」


 赤ミスリルに防がれミスリルの槍を床に落としたラトは手が痺れた様で手をぶらぶらと振る。二人の攻防を見ていた店主は傷一つ付かなかった赤ミスリルを見て驚きが隠せないと言った様子だった。


「ラト、手の痺れが治ったら次は赤ミスリルを持って魔力を流して見てくれ。」

「もう大丈夫なのです。さっきみたいに今度はこれに魔力を流せばいいのです?」


 ラトに赤ミスリルのトレーを渡すと、レンは床に落ちたミスリルの槍を手に取った。


「ん……、なんかさっきと同じようにしてるのに魔力が流れてくれないのです。」

「まあそうだろうな、そいつには既に俺の魔紋が刻まれているからな。……じゃあ、その状態で悪いがさっき俺がした様に構えてくれ。」

「わ、分かったのです……。」


 赤ミスリルのトレーに魔力を流そうとするがレンが持っていた時とは違い、赤ミスリルに輝きは見られなかった。その様子を確認したレンは先程自分がした様に構えるよう指示を出す。

 ラトが構えた所を見たレンはミスリルの槍を構えて赤ミスリル目掛けて縦に斬りかかる。突かなかった理由は別に刃毀れが原因ではなく、突いてしまうとトレーを貫いてラトに当たってしまうといった理由からだ。それを示すかの様にラトが持つトレーに目を向けると中程から寸断されていた。


「どうなってやがる……さっきは軽々しく防いでたのに、今度は逆に簡単に斬られるなんて……。」

「だから言っただろ?魔力の流れていない赤ミスリルは弱いんだよ。その代わり魔力を流す事が出来れば今見た様にミスリル以上の強さになる。」


 唖然とした様子の店主を横目に、切断した際ラトが落とした赤ミスリルのトレーを拾いインベントリへ入れていく。


「……っと、随分と話し込んじゃったな……。そろそろ俺たちは帰るとするよ。明日から多分ゴブリンの森に向かう事になると思うから、ラトの短剣は戻った時に受け取る事にするよ。」

「ああ、それは任せてくれ。……なんならアンタの剣も打っておこうか?」


 全てを片付け終えたレンは店主の方へ振り向き明日以降の予定と、頼んでいるラトの短剣を受け取るのはそれ以降になると告げる。それを聞いた店主も胸に手を当て自信を込めて頷いた後、赤ミスリルを使ってレンの剣も打とうかと言ってきた。


「いや、赤ミスリルは特殊な……って、そうか確かにさっき俺の魔力を練り込んだから後は普通に打って貰っても平気なのかな?」


 本来、赤ミスリルを使って鍛造する場合、魔力を練り込みながらやらなければならない。だが、レンは先程その性能を見せる為に赤ミスリルに自身の魔力を練り込んでいた。ともすれば、後は普段の鍛造と同じ様にやればいいのでは無いかと考えた訳だ。


「ただ、魔力を流すことが出来ないから普通のミスリルより扱いが少し難しいかも知れないがそれでも良いなら頼もうかな?」

「そこは鍛冶師としての腕の見せ所だろう?何とかして見せるさ。……因みにこいつは【全ミスリル(フルミスリル)】で良いのか?」


 少し考えた後、やはり頼む事にしたレンは赤ミスリルをインベントリから取り出し、店主に向かってミスリルより難しいと説明すると店主は肩を竦めた後、自分の腕を叩いてレンにそのように言った。


「ああ、それだけだと剣を打つには足りないだろうから、これと合わせて1/2ミスリル(ハーフミスリル)にしてくれ。」

「これは鉄じゃないのです。ラトは見た事ないのです。」

「こいつは……アダマントじゃねぇか……」


 レンは剣を作るにおいて、渡した赤ミスリルでは足りないだろうとインベントリから新たな鉱石を取り出して店主に渡した。ラトは見た事が無いらしく首を傾げていたが、鉱石を渡された店主はその鉱石の名を呟いていた。


「えっと……コレも珍しい金属なのです?」

「いやいや、違うから……そんな珍しいモンじゃないから、そんな目をするな。」

「ああ、なんだ?いつもこんな感じなのか?嬢ちゃん、兄ちゃんの言う通りこいつはそんな珍しいモンじゃない。」


 ラトがレンに向かって、またやらかしたのかと言った様なジトっとした目を向けるとレンは慌てて否定する。その様子を見ていた店主はレンが言うように珍しい物では無いと言ってくれた。


「ただ、この辺じゃあミスリルに次ぐ値段の高い鉱石だから少し驚いただけだよ。」

「そうなのです?……ご主人様の事だから、また珍しい物を出したのかと思ったのです。」

「ラトは俺を何だと思ってるんだ……?」


 アダマントは硬度だけで言えばミスリル以上の硬度を誇る金属だ。店主が驚いていた理由をラトに説明すると、納得したようにした後何やら呟いていた。


「兎に角、こいつと赤ミスリルでよろしく頼む。ああ、ついでにアンタに売る分のミスリルも5kg程置いておこう。」

「分かった。後、アンタの剣は溶けたって言ってたからな、なるべく早く仕上げるよ。……それにこんな珍しいモンで剣を打てるんなら、鍛冶師としては楽しみでもある。」


 レンは店主に剣を頼むついでに、店主に売る用のミスリルをテーブルに置くと、店主はミスリル分のお金をレンに手渡すと楽しみが抑えられないと言った様にしていた。そんな店主を置いてレンは店を後にして宿へと戻り、宿代を支払って眠りにつくのだった。

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