表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

第十六話

 

 レンは自分の武器は、自分で作るしか無いかと呟く。


「いや、そもそも素材はどうするんだよ。この辺じゃミスリルは凄く高価な代物だぞ?」


 そんなレンの独り言を聞いた店主は、更に呆れた様な口調で言う。


「それなら大丈夫だ。ミスリルとかは持ってるから……、そうだアンタ、俺から素材を買う気は無いか?この辺じゃ高価なんだろ?」

「は?……いやいや、俺にそんな素材を買う金なんかねぇよ。そもそも、ミスリルなんて買う金があれば、こんな所で細々とやってねぇだろうよ。」


 いい事を思いついたかの様にレンがそんな事を口にすると、店主は一瞬、コイツは一体何を言ってるんだと言った様な顔をした後に、そんな金があれば、もっと良い場所で商売をすると言っていた。


「いや、この辺での売値なんかじゃ無くて……そうだな、ミスリルが良く採れる場所なんかでの適正価格でいい。それなら、そんなに高くは無いだろ?」

「……うーむ。確かにそれなら少しくらいなら買えそうだな。しかし、なんでまたそんな事を言い出したんだ?」


 レンはそう言いつつ、インベントリからミスリルを1kg程出して、店主に見せる。因みにこの辺でのミスリルの取引価格は、平均して1kg10万ジール程の値段が付く。だが、ミスリルが採れる鉱山がある場所になると、大体が1kg2万ジール程度になる。これはミスリルが貴重であると同時に、運搬する為の人的費用がかかる為であった。一言に運搬すると言っても何も運ぶだけの費用なんかでは無い。この世界には魔物がいる事、それに盗賊なんて者もいる為、他の街に行くには護衛を雇う必要がある。もちろん、その費用をケチって他の街に向かう商人もいないでは無いが、その様な商人などの大半は魔物の餌になったり、盗賊の餌食となってしまう。その為、どうしても費用が嵩んでしまい高価になってしまっているのだった。


「ああ、何も慈善活動って訳じゃあ無い。それよりも、此処には工房があるんだろう?それなら、安くする代わりにその工房を使わせて貰えないかなって思ってな?」

「いや、そんなのは別に構わねぇが……、そんな事で良いのか?」


 何故そんな事を言い出したのか不思議に思っていた店主に、レンは安くする代わりに工房を使わせてくれ、と交渉を持ち掛ける。店主にとってはそんな大した事じゃない事で、ミスリルが安く手に入るのならば儲け物であると思う気持ちが有るのと同時に、何か騙されているんじゃ無いかと怪訝そうな顔をしている。


「そんな事って言ってもなぁ……、そもそも武具を作ろうと思ったら、工房のある家を買うとか借りるとかしなきゃいけないだろ?それを考えると安いもんだと思うんだが……」

「それはそうだが……、そうだ!それだったらさっき、そこの嬢ちゃんの為に買った短剣を溶かしちまっただろ?それを俺に新しく作らせてくれ。」


 怪訝そうな顔をしている店主を見たレンはそんな風に困った様に言う。それでも店主はまだ気が引けるのか、レンが溶かしたラトの短剣を作らせてくれと言い出した。


「いや、それはありがたいんだが……良いのか?」

「まあ、それくらいしか俺には出来ることは無いからな……ただ、素材だけはアンタが持ってくれよ?」


 申し訳なさそうにしているレンを見て、店主は少し照れた様にレンに話していた。


「それは構わない、ミスリルなら結構持っているからな。……このミスリルはアンタに売る用として、コッチのミスリルを使ってラトの短剣を作ってくれるか?」

「さっきも思ったがマジックポーチ持ちか。その中にどれだけのミスリルが入っている事やら……、それで嬢ちゃんの短剣は1/2ミスリル(ハーフミスリル)で良いのか?」


 腰から下げた袋からミスリル数kg取り出しテーブルの上に置いていくと、店主はまじまじとレンが腰から下げている袋を見てそんな風に言っていた。

 因みにレンのインベントリにはミスリル等の鉱石が大量に入っている。これは蓮がプレイしていたゲーム【RoE】のレべリングの為に大迷宮等を周回して集めた物だ。そして、レンは数kgのミスリルを出し終えた後、インベントリの中から見慣れぬ紅い金属のインゴットを取り出していた。


「ああ、ラトのはそれでいい。俺の武器はこの【赤ミスリル】を使おうと思っている。」

「紅いミスリルなんて珍しいのです。」

「これは……、ミスリルなのか?紅いミスリルなんて聞いた事が……いや、まさか……」


 レンがインベントリから取り出した金属は、【RoE】プレイヤー間では【赤ミスリル】や【赤魔銀】などと呼ばれる金属で、正式名称は【血濡れの魔銀(ブラッディ・ミスリル)】。

 まるで鮮血に濡れたかの様な紅い色をしている為、この様な名前が付いたと言われているミスリルである。これは通常のミスリルと中純度程度の魔石を混ぜ合わせた物であるが、ただ魔石と混ぜればいいと言う訳では無く、ミスリルに魔石の魔力を練り込む様に精錬しなければならない。その精錬の難易度もあってか、この【赤ミスリル】は魔力の親和性や魔力を流した時の硬度が通常のミスリルとは桁違いの能力を有している。

 通常この赤ミスリルは製作する以外、入手方法が無い物である為、【RoE】を知らないこの世界に存在する筈は無いとレンは思っていた。

 それなのに店主は何かを知っているかのような反応を見せていた。


「へえ、赤ミスリルを知っているのか?」

「……いや、直接は知らねえが……遥か昔の武器……それも今は失われた技術だとか、迷い人が持ち込んだとか言われている武器が紅い金属で作られていたって言う話を聞いたことがある。」

「ご主人様がまたやらかしてるのです……」


 店主の話によると、どうやらこの世界に赤ミスリルを使った武器があるらしい。おそらく【RoE】のプレイヤーがこの世界に迷い込んだのだろうとレンは考えているが、それにしては店主の話では随分と昔の事の様だった。


「ただ、聞いた話だとその紅い武器は普通のミスリルより弱いって聞いたぞ?そんな物で作って平気なのか?」


 レンが考え事をしていると、店主は赤ミスリルは通常のミスリルより弱いと聞いていたらしく心配するかの様に聞いてきた。


「……は?赤ミスリルが通常のミスリルより弱い?そんな訳ないだろ。」

「聞いた話で悪いが……なんでも、その紅い武器がこの国にあるらしいんだが、そいつは魔力も通せねえ様な代物でまるで使い物にならないって話だぞ?」


 レンは赤ミスリルの性能を【RoE】で知っている為、そんな訳が無いと店主に言うが、先程話に出た武器がこの国にあるらしく店主もその性能を伝え聞いている様だった。


「ご主人様が使う武器なのです。普通のミスリルの方が良いと思うのです。」

「んー……?いや、そう言うことか。多分なんだが、その武器を使ったのは元の持ち主が使った訳じゃ無いんだろ。この赤ミスリルで作った武器は使用者が限定されるからな……恐らくはそのせいだろう。」

「何言ってるんだよ。使用者が限定される武器?そんな物聞いた事もないぞ。」


 ラトも心配そうに普通のミスリルで作った方がいいのでは?と言ってくるが、レンには思い当たることがあった。

 それは【帰属装備】と呼ばれる装備品だ。

 通常、装備品は誰が装備しようがその性能に変わりはしないが、赤ミスリル等の金属は装備を作る際に使用者の魔力を練り込みながら作る。その様な装備品にはこの【帰属】が付いてしまう。普通その様な【帰属装備】というのは【RoE】で、他のプレイヤーは装備出来ない様になっているのだが、現実であった場合はどうなるのか?と言った風に考えていた。


「いいか?この赤ミスリルって奴は武器を作る際にも魔石とは別に使用者の魔力を練り込む必要があるんだ……だから魔力の波長……【魔紋】が合わなければ、その性能を引き出す事も出来ないんだと思う。」


 レンはそう二人に説明するが、ラトや店主は聞いたことも無い言葉でもあり二人ともよく分からないときった顔をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ