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第十四話

 

「じゃあ、お言葉に甘えて、昼食に行かせてもらうか。」

「はいなのです。ラトもお腹ぺこぺこなのです。」

「ふふっ、では一旦入館証はお預りさせて頂きます。コチラの札をお持ち下さい。また入館の際に見せて頂ければ再度入館証をお渡しいたします。」


 レンがそう言って立ち上がると、ラトもお腹をさすりながら立ち上がる。その様子を見た司書の女性が微笑みつつ木札を二人に渡す。どうやらこの木札が再度入館する際の証らしく、外出から戻ったらまた入館証を受け取る様だ。

 木札を受け取り、入館証を司書へと返した後レンは、ラトを連れて図書館の周りを歩いてみる。ギルドの近くというのもあって、冒険者達を目当てとした屋台等が多い。レンは数多くの屋台の中に面白い物を見つけ、ラトと共にその屋台の前まで行ってみる。


「へい、らっしゃい!」

「これは何を売っているんだ?」

「なんだ兄ちゃん、シュトレン名物のパッセを知らないのか?なら、安くしといてやる、一皿半額の100ジールだ。」


 屋台の親父が、そう言って見せたのは焼きそば?いや、麺を見た感じでは焼きそばでは無く、焼きパスタ?と言った感じだ。


「ああ、王都に来たのは初めてでな、そしたらとりあえず二皿貰おうかな?」

「へへっ、まいどあり!」


 そう言ってレンは屋台の親父に銅貨二枚を渡すと、手際良く鉄板で野菜や麺を炒めていき、そこにソースらしきものを混ぜると香ばしい香りが、レンの鼻をくすぐった。


「ほれ、お待ちどう!熱いから気を付けろよ?」

「ああ、ありがとう。ほら、こっちはラトの分だ。」

「あ、ありがとうございますなのです。」


 レンはラトに出来立ての料理を一皿渡すと、自身もフォークを使って食べ始めていく。


「あふ……はふ……ふう、意外と美味いな、コレ。」

「はふはふ……本当に美味しいのです。このソースがまた美味しいのです。」

「へへっ、ありがとよ。ただ、意外とってのは酷くねぇか?」


 レンとラトが、美味しそうに食べているのを見て、屋台の親父は少し照れた様に笑うが、すぐにレンの言葉に複雑そうな顔をする。


「いや、まあ、悪い。ただ、アンタの見た目からは想像もつかない様な繊細な味で驚いたんだ。」

「ご主人様、それはフォローになってないのです。」

「ガハハ、大丈夫だ嬢ちゃん、兄ちゃんの言いたい事は俺も分かるからな。というか、ここに来る見ない顔の奴には大体言われてる。」


 レンが気まずそうに親父にフォローしようと言葉を口にしたが、ラトからフォローになってないと、突っ込まれた。しかし、親父もどうやら自覚があると言うか、よく言われる様で、ラトの頭を撫でながら笑っている。


「……なんて言うか、悪いな。」

「気にすんな、それに俺の料理を美味いって言ってくれたんだ、また来てくれりゃあそれでいいさ。」


 レンは頭を掻きながら言うと、屋台の親父は「気にするな、また来い」と気さくに言ってくれた。


「ああ、必ずまた来させてもらうよ。」

「次もまた必ず来るのです、おじさんのお料理美味しかったのです。」

「大体、この辺の場所に屋台を出しているから、また来てくれ。」


 レンとラトは、また必ず来ると言って、その屋台を後にした。レンは料理も美味かったというのもあるが、親父の気さくな気質が気に入ったというのもある。


「さて、じゃあ図書館に戻るとするか。」

「……あのぉ、ご主人様?ラトはもう少し何か食べたいのです。」


 レンが図書館に向けて歩き出そうとすると、ラトが赤くなりながら気まずそうにレンの袖を引っ張って、そう言って来た。


「……ぷ、あはは、そうだな、確かにあれだけじゃあ少なかったもんな。それじゃあ、図書館に行くまで他の屋台で串焼きとか、買って行こうか。」

「うぅ……、ご主人様が酷いのです。でも買ってくれるのは嬉しいのです。複雑なのです。」


 そんなラトを見たレンは、つい笑ってしまったが、直ぐに気を取り直して他の屋台へと歩いて、串焼き等を買って食べながら図書館へと向かう。


「お帰りなさいませ、木札をお預かりになります。では、こちらの入館証をお渡しさせていただきますね。……ごゆっくりどうぞ。」


 レン達が図書館に入ると直ぐに司書が気付くと、一度お辞儀をした後にレンから木札を受け取り、再度入館証をレンへと渡すと最後にまたお辞儀をする。


「ああ、ありがとう助かったよ。じゃあ、またゆっくりさせてもらうよ。」


 レンは木札を司書に渡した後、入館証を受け取りそれまでレン達がいたテーブルへと着いて、また一冊新たな本を手に取り、読み始めた。

 次に手に取った本に書かれていたのは、これまでとは一風変わった迷い人の話だった。大体の御伽話の最後には、迷い人は妻を娶り、家庭を築き、そして家族に囲まれ幸せに暮らす、と言った童話なんかにある如何にもな最後を締めくくる。だが、ここに書かれているのはそんな話ばかりでは無かった。確かにそんな話もあるのだが、他にも迷い人特有の能力(ちから)を使って犯罪を犯す者、自分の能力(ちから)を過信して迷宮内で死する者、そして、所在が分からなくなる、つまりは居なくなる者と言った様に様々な者が最後を送った様だ。


(意外と迷い人って奴は多かったのか?ラトやアッシュの話だと、ここ最近は居ないみたいだけど……。それに、この最後に書かれている、居なくなった奴って言うのも気になるな……。迷宮内で死んで居なくなったって言うのもあるかも知れないけど、もしかしたら、元の世界に帰れたのかも知れないんだよな。……まあ、俺の場合は死んでこの世界に来たみたいだから、元の世界には帰れないよな。……ん?まさか、この世界から元の世界に帰ることの出来た迷い人が【RoE】を作ったのか?それなら、この世界とあのゲームが似通った部分があるのも説明が出来る。)


 そんな風に考えつつ読み終えた本を閉じて、自身の横に置いて、新たな本を手に取って読み耽る。

 レンが読み終えた横の本が高くなる頃、外から鐘の音が聞こえて来た。この世界では朝夕二回の鐘が鳴らし、皆この鐘の音を聞いて時間を把握しているらしい。


「ん〜〜、もうそんな時間か。ほら、ラト、起きろ。そろそろ閉館するから、帰るぞ?」

「ふみゅ〜、ご主人様ぁ。ラトはいつでもウェルカムなのです〜。」


 鐘の音を聞いたレンは、もう閉館の時間になるので、いつの間にか眠っていたラトを起こそうと肩を揺らすと幸せそうな顔をして、寝言を言ってた。何がウェルカムなのかは置いておこう。と言うか、既に起きているのでは?と思いレンはある行動へと移る。


「……ほら、起きろラト。」

「ぴゃあっ!何が起きたのです⁉︎敵襲なのです?」


 幸せそうな寝顔をしているラトを起こす為と言うのもあるが、悪戯心が疼いたレンはデコピンを撃ってみた。どうやら本当に寝ていた様でラトは額を押さえながら飛び起きて、寝惚けた様子で周りをキョロキョロと見渡していた。


「ううぅ……、ご主人様、酷いのです。凄くびっくりしたのです。」

「あははは、悪い、悪い。ラトがあまりにも幸せそうな顔して寝てたから、ちょっとした悪戯しをな……」


 ラトは額を撫って、レンの方をジト目で見ながら頰を膨らませている。その様子を見たレンは笑いつつ謝り、ラトの頭を撫でる。


「むうぅ、どうせなら口づけとかで優しく起こして欲しいのです。」

「ん〜〜、また今度、な?」


 ラトが唇に手を当てて不満気な顔をしていると、レンは少し考えた後、ラトの頭を突いてそう答える。


「ふぇ?ほ、本当なのです⁉︎今度っていつなのです!今でもいいのです!」

「だぁ〜!今度は今度だ!それより、閉館するから帰るぞ。」


 ラトは一瞬キョトンとした顔をした後、ハッとしてから、レンに掴みかかる様に寄ってくる。そんなラトを引き剥がす様にして、レンは図書館が閉まるから宿に帰ると言う。ラトは再度、不満気な顔をしていたが、諦めたのか素直に立ち上がって、二人は図書館を後にしたのだった。

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