第十二話
レンは自身が持つ精霊の剣を、いや、既に溶けきった剣だった物に目を向けていた。
「原因はやっぱり解放だろうな。となると今後も魔法は使えないのか?いや、武器を使い捨てにすれば使えるんだが……。」
「ご主人様、もう帰らないと暗くなっちゃうのです。考えるのは宿でも出来るのです。」
ラトにそう言われて空を仰ぎみると、もうそろそろ日が沈む頃だった。
「もうそんな時間か……、仕方ない、とりあえず街に戻ろうか。」
暗くなる前に戻らなければ、門が閉まり野営をしなくてはならない為、流石にレンも街へと戻る事にした。
レン達が門の近くまで辿り着いた時には、既に周りは暗くなり始めていた。門の前にはレン達が出発する時に、話掛けてきた門番がいて、レン達を見つけると少し呆れた様な顔をしていた。
「ふぅ、何とか間に合ったか、訓練に熱中し過ぎたから危なかったよ。」
「お、漸く帰ってきたか。訓練が捗った様でなによりだが、後少し遅かったら門を閉めるところだったよ。」
と門番の兵士は言うが、レンは色々な魔法付与を試している最中に現れた魔物と戦っていた為に、剥ぎ取りなどに時間が取られていたのだが。
「じゃあ、ギルドカードを出してくれ。街に戻るにも記録しなくてはならないからな。」
「ん、これでいいか?」
レンは自分のギルドカードを腰袋〔インベントリ〕から取り出して渡すと、門番は街から出た時と同様にサラサラと記帳していた。
「よしっ、通っていいぞ。」
ギルドカードの記帳が終わると、門番はレンにカードを返して、門の横に移動した。ギルドカードを受け取ったレンは、ラトと共に宿を目指す、と思ったが、まずはギルドに素材を売りに行く事にする。訓練中に試し斬りされた魔物達の素材を。
「あれ?レンさんにラトちゃん、こんな時間にどうしたの?確か依頼は受けてなかったよね?」
「ああ、また魔物の素材を買い取って欲しくてな。これなんだけど、大丈夫か?」
依頼を受けてなかったレン達が、ギルドのカウンターにやって来たのを不思議そうにしていた青髪の受付嬢マリーの前に、レンは魔物の素材を置いていく。
「これは、フォレストウルフの毛皮と魔石がそれぞれ五セットね?剥ぎ取り処理も中々良いね。これなら、毛皮が一枚、1000ジールで魔石は一つ500ジールでどうかな?でも、危ない事はダメだよ?知らないかも知れないけど、フォレストウルフはゴブリンなんか相手にならないくらいなんだから。」
「そうなのか?しかし……俺が戦ったゴブリンリーダーより弱かったと思うぞ?」
マリーから大銀貨七枚に銀貨五枚を受け取りながら、レンは考えたが、どう頑張っても最初に戦ったゴブリンリーダーの方が強く感じていた。
「ああ!その事なんだけど、レンさんに確認したい事があるんだよね。……もしかして、そのゴブリンリーダーって赤い帽子被ってなかった?」
「ああ、これだろ?この帽子がどうかしたのか?」
レンはそう言って、腰袋からあの時ゴブリンリーダーが被っていた赤いとんがり帽子を取り出してマリーの前に置いた。
「……レンさん?これ、ゴブリンリーダーなんかじゃないよ。いや、ゴブリンリーダーではあるんだけど、その上位種で見た目から〔レッドキャップ〕って言う、Dランクのモンスターなの。」
「は?……いや、そうか。確かにその後に戦ったゴブリンリーダーは最初に比べると、その強さは違った気がする。」
マリーは赤い帽子を手に取って、レンに向かってその帽子を見せながら教えると、レンはあの時の事を思い出した。
(確かに……【RoE】でも、最初の方でそんなレアモンスターがいたな。経験値もドロップも美味くないから他のプレイヤーからもスルーされててその存在を忘れてたな。)
そのうち、レンはゲームでも〔レッドキャップ〕が居たことを思い出すが、その強さは通常のゴブリンリーダーの数倍も強かった筈だった。マリーがレッドキャップがDランクモンスターと言うのも頷ける話だ。だが、レンにはどうにも腑に落ちない事があった。それはレンがまだLv1だった筈なのに、何故勝てたかという事だった。
(【隠者のローブ】のおかげかな?)
そんな風に考えていたレンだったが、ふと気付けば何やらマリーが唖然とした表情をしていた。
「どうかしたのか?」
「どうしたもこうしたもないよ!その後戦ったゴブリンリーダーって何⁉︎ゴブリンリーダーって1体だけじゃなかったの⁉︎いや、そもそも、そのゴブリンリーダーもレッドキャップだったんだけど。」
「ここまで来る途中一杯戦ったのですよ?」
レンの問い掛けに、大声をあげるマリーだったが、ラトの言葉を聞くと、額に手を当てて項垂れていた。
「じゃあ最近、ゴブリンの森でゴブリンが異常発生してるのも本当だったってことよね?もし集落を作っているんなら、早く緊急依頼出さないといけないじゃない。」
「異常発生かどうかは、来たばかりの俺には分からないし、集落の可能性もあるかも知れないけど、もしかしたら原因がレッドキャップって事はないか?」
マリーが慌ただしく緊急依頼の準備を始めようとしたが、レンからレッドキャップが原因なのでは?と、言われて考え込んだ。
「それより、ご主人様はいつレッドキャップなんて倒したのです?ラトは赤い帽子のゴブリンなんて見てないのですよ?」
「ん?そうなのか?こいつは奴隷商を襲ってたゴブリンだったから、ラトも見てると思うんだが……、って、そうか、あの奴隷商はゴブリンリーダーに対しての備えはしていたけど、レッドキャップなんて出会うとは思ってなかったんだろうな。」
ラトは考え込んでしまったマリーを置いておいて、レンがいつレッドキャップと戦ったのか気になったのか、まじまじと赤い帽子を見ながらレンに聞いて来た。あのレッドキャップはこの世界に来て始めて戦った相手でもあり、ラトが乗っていた奴隷商の馬車を襲った相手でもある。その奴隷商達も、その森でゴブリンリーダーに会っても大丈夫な様に護衛を雇ったのはいいが、まさかレッドキャップなんて強敵が現れるなんて考えもしなかったのだろうと、考えながらラトに経緯を話す。
「なるほどなのです。ラトは馬車が倒された時に気を失ってしまったので、知らなかったのです。ご主人様が来なかったら、ラトもこのレッドキャップ達に殺されてたのです。」
そんな風にラトとレッドキャップについて話していると、気付けばマリー、ルナ、ソフィアの三人がそんなレン達をを見ていた。
「レンさん、ラトさん。お二人があの森を抜けて来たのはお伺いしました。もしよろしければ、お二人にあの森の調査をお願いしたいのですが、如何でしょうか?」
「俺の一存じゃあ、決められないな。パーティーとしてはアッシュとも相談して決めないとな。」
ルナから依頼を持ち掛けられたレンは、まずパーティーを組んでいる、アッシュと相談をしてから決めるとマリー達に話す。
「明日は図書館にも行かなきゃなのです。なので早くても明後日以降になるのです。」
「そっかぁ、じゃあ明後日来るのを待ってるよ〜。」
「他の奴には依頼を出さないのか?」
「この街に二人でレッドキャップと戦える程の強い人はそうそういないからね。」
ラトが明後日以降だと言うと、マリーはあっさりとそれに答えた事に、レンは不思議に思う。何故、自分達に依頼を出すのか?他に適任者がいるのでは?と。しかし、マリーはそれすらも、あっさりと答える。その後、聞いた話では、王都には王国騎士団と言うのがあるらしく、新しく冒険者になる人も多くはないみたいだ。もう一つの原因としては、ここ最近、なにやら新人冒険者の死亡率が異常に高いらしい。それを聞いたレンは、頭の中にある一つの可能性が過ぎり、それを口にする。
「もしかしたら、新人狩りでもいるのかも知れないな……。」
ギルドの喧騒の中、レンは一人呟いた。




