第十話
レン達は話を終えて、食事を取る為に食堂へと来ていた。どうやらアッシュもここでレン達と共に食事を取るつもりらしく、同じテーブルについていた。
「お〜い、注文いいかな?……俺のもこいつらと同じ物を持って来てくれ、後、こいつにはパンじゃなくて、クオがあったら持って来てくれ。後はエールを三杯よろしく。」
「はい、では、クオの実の在庫を確認して来ますので少々お待ち下さい。」
アッシュがウェイターに注文をすると、ササッと注文を手元の札に書いて、厨房に姿を消す。
「待て待て、クオって何だよ、後、エールって酒だろう、まだ俺は未成年だから飲めないだろう?」
「ご主人様、クオは植物の果実なのです。ただ……この辺の人達はクオはあまり好んで食べないのです。それと、こちらでは15歳で成人を迎えますので、お酒は飲んでも平気なのです。……ところでアッシュ様、何故、ご主人様にクオを?」
ラトがレンに説明をした後、何故クオを頼んだのか不思議だったのか、アッシュに質問していた。
「クオってのはな、あまり知られてはいないけど、迷い人が好んで食べていたって言う話があるんだよ。だからレンも喜ぶんじゃないかなってな?」
「クオの実の在庫がまだございますので、そちらの方のパンをクオの実へ、変更でよろしいですか?」
「あぁ、アッシュがそこまで言うなら、それで頼もうかな?」
アッシュから勧められたのもあり、レンはクオの実という物を頼んでみた。
「アッシュ様は何処で知ったのです?ラトが昔聞いたお伽話では、クオの実は出てこなかったのです。」
「まあ、地域によっては色々変わるけどな、俺は城にあった文献で見たんだよ。」
迷い人に関してのお伽話は色々あるらしいけれど、そのクオの実という物は文献にしかないみたいだった。
「まあ、クオの事はとりあえず置いておいて……それよりもアッシュに魔法について聞きたい事があるんだけど……いいかな?」
「そんなに詳しく無いから答えられないかも知れないけど、何が聞きたいんだ?」
「いや、俺の事なんだけど魔法適性はあるはずなんだけど、未だに魔術のスキルが習得出来ないんだよ。何かコツみたいなのって無いかな?」
レンはここまでずっと魔術を習得する為に、魔力の操作を水面下で行なっていた。
もちろん、魔力索敵を行なっている時も。
なのに何故か未だに魔術を習得出来ずにいた。スキル習得率が上がっているにも関わらずだ。その為、もしかしたらアッシュなら何か知ってるかもと思い聞いてみた。
「う〜ん、適性があるんなら本来はある程度の魔法は使えるはずなんだがなぁ……。」
「そうか……、まあ、適性はあるんだし、地道に頑張るしかないか。」
本来、適性があれば当然魔術も習得しているので、ある程度の魔法が使えるみたいだった。アッシュからしてみれば、習得する順番が逆のレンの言葉に唸っている。
「お待たせしました、こちらがモーブルのステーキとモーブルのシチューとサラダ、あとクオの実とパンになります。エールはお配りしてよろしいですか?」
(モーブルって何だ?多分ステーキもそうだって事は、肉の事なんだと思うけど・・・)
そうこうしている内に、レン達の前に食事が置かれていく。……だが、一つだけ……、レンから見れば明らかに変なもの、いや、見慣れてはいるが間違っているものが置かれていた。
「……アッシュ、何だこれ?」
「それがクオの実だけど、何かおかしい事でもあったか……?」
「確かにコイツは俺も知ってる物だったよ!ここにもあったのは嬉しいよ?けど、生だよ!せめて調理してくれよ!」
「炒ってあるぞ?」
「そうじゃないんだよ!……ちょっと調理場に行ってくる!」
レンの目の前に置かれたのはどう見たって生米だった、いや、炒ってあると言う事だから炒り米か?だけどレンが知ってる炒り米とも違った為、レンは調理場へと走って行った。
暫く、アッシュとラトは呆然と調理場の方へ目を向けていると、魔法コンロと呼ばれる物を持ってレンが調理場から戻ってくる。
「ここのコックにそんな調理法があるなら見たいから、コッチでやってくれって鍋とコレ渡された。」
レンが少ししょんぼりして、テーブルに魔法コンロを置いた席に着いたところで、奥からエプロンをつけた大男が出てきた。
「おう、食ってるとこ悪ぃな、こいつがいきなりクオの調理をするから調理場を貸してくれっつうもんだからよ、どんなもんだか見てやろうと思ってな。」
そう言って宿のコックは椅子にドカッと座った。レンの動きを隅々まで見ていた。
「本当だったらもっと、実を削りたいんだけど、とりあえずコレでやるぞ。まず、クオの実を水で数回にわたって研ぐ。〔クリエイトウォーター〕」
レンは説明しながら、生活魔法である〔クリエイトウォーター〕で水を出して、クオの実を研いでいく。
「2〜3回研いだら、鍋に入れて水を張る、この時、そうだな……大体指の第一関節まで水を入れて、最初は強火にかける。」
「なんか、適当だなぁ。」
レンが手早くクオを研いで火にかけると、見ていたアッシュが呟くと、コック、ラト、それと何故かこちらを見ていたウェイターがアッシュの言葉に頷いていた。
「適当とか言うな、これで沸騰したら火を弱くして大体15分位かな・・・。その後、火を消してから10分程度蒸せば完成だ。」
魔法コンロに火をつけたレンは、炊き上がるのを楽しみに待っていた。
クオの実を火にかけて待っている間に、宿のコックは、冷めてしまっていたレン達の料理を温め直す為に、調理場に戻っていた。
「おっ、丁度良かった。今しがたコッチも終わった所だ。」
暫くしてクオの実が炊き上がると同時にコックがテーブルに器と料理を運んで来る。
「さぁ、これが俺が知ってる調理されたクオの実だ、食べてみてくれ。」
レンはそう言って、それぞれの器に炊き上がったクオの実をよそる。
アッシュ、ラト、コック、ウェイターの四人がクオの実を一口分、口に運ぶ。
「うぉっ⁉︎コレが本当にあの煮てもベチャベチャ、焼いても硬いって料理人泣かせのクオの実だってのか?おいタバサ、ちゃんと手順は覚えてんだろうな⁉︎」
「何言ってんだい!コックのアンタが、そいつをやらなきゃどうすんだい、私が覚えても意味が無いじゃないの‼︎」
どうやらこのコックとウェイターは、夫婦だったらしく、クオの実を一口食べて手順について覚えたかどうかで痴話喧嘩を始めてた。
「・・・はふ・・・はふ。もちもちとしてて美味しいのです。クオの実がこんなに美味しいなんて驚きなのです。」
「本当だな。まさか、こんなに美味いとは知らなかった。」
「ふふん♪・・・うん、ふっくらとしてて美味く炊き上がって良かった。このおこげがまた良いんだよなぁ。」
ラトとアッシュもクオの実を食べて驚いた表情を浮かべていると、レンは自慢気に鼻を鳴らして、クオの実を美味しそうに頬張っていた。
「おこげ?おい、そいつを俺にも食わせてくれ!……ん?おい、こいつはただクオの実が焦げただけじゃないのか?」
「何言ってるんだよ、この香ばしさと食感が良いんじゃないか。」
おこげを美味しそうに食べていたレンを見て、コックも一口おこげを貰って食べてみると、不思議そうな顔をしていた。
やがてクオの実を食べ終えたレンは、満足そうな顔をして、お腹をさすっていた。
「美味かったぁ、このモーブルとかいう肉も中々美味かったし、久しぶりに米・・・じゃなかったクオも食べれたし。」
「うふふ、うちの料理が口に合って良かったよ。アンタのお陰でうちの旦那もクオの実を使った新しい料理を作るって、張り切ってるわ。」
どうやらクオの実を食べたコックは、調理場に戻って新しい料理を考えているようで、一緒にクオの実を食べていたウェイターのタバサが、レンにそう言いながら微笑んでいた。レンから見れば、大体中世位の文明に見えるこの世界で、そこまで料理に期待はしていなかったのだが、運ばれてきたステーキやシチューはレンが日本で食べていた物と遜色がなかった。
「おっと、私ものんびりしてないで早いとこ仕事に戻らないと旦那にどやされちまうよ、じゃあアンタ達、ゆっくりして行っておくれよ。」
タバサはレンにそんな風に言った後、いそいそと仕事へと戻って行った。
「それで明日からどうするんだ?早速依頼を受けるのか、それとも他に何か準備しておく事があるのか。」
アッシュはいつの間にか頼んでいた、豆を焙煎したものをつまみとして、エールを飲みながらレンに明日はどうするのか聞いてきた。
「そうだなぁ……とりあえず俺はもう少しこの世界の常識を知らないといけないと思うんだ。だからまずは、図書館があれば行こうかと思ってるんだが……」
「んん?あぁ……まあ、確かにレンは物事を知らな過ぎるから、その方がいいかもな……。それなら今日行ったギルドの裏に王立図書館があるから、そこに行くと良いんじゃないか。」
この世界に来たばかりのレンは無知と言っても良いほどにこの世界の常識と言う物を知らない。その為、レンは図書館に行き色々とこの世界の事を知る必要があると考えていた。
「ラトもご主人様について行くのです。図書館にある魔法書を読んで、もっと上手に魔法が使える様になれば、ご主人様のお役に立てるのです。」
「そうか、じゃあレン達が図書館に行くなら、俺は今回使った分の道具とかを買い足しに行くかな。」
ラトはレンと共に図書館へ行き、魔法書を読んでもっと魔法を覚えたいみたいだった。アッシュの方は、レン達と出会う前、ゴブリン達と戦っていた時に使ったポーション等を買いに行くとの事だ。
「じゃあ、明日は別行動って事になるかな?ラトは俺と一緒に図書館行くからそうとは言えないけど。」
「分かった、まあ、何かあったら俺は〔豊穣の丘〕っていう宿に部屋を取ってるから、そこに来てくれると助かるよ。」
アッシュはそう言って立ち上がると、少しふらつきながら外へ出て行った。いつの間にか、レン達のテーブルに置かれたエールを飲み終えていたアッシュは、酔っ払っているみたいで、レンに場所を教えていないのにも気付かず帰って行った。
「まあ、場所は誰かに聞けば分かるか。とりあえず、少し試したい事があるから、俺は外へ出てくるけど、ラトはどうする?」
「試したい事なのです?よく分からないですけど、ラトもご主人様についていくのです。」
レンとラトも席から立ち上がると、宿の受付に鍵を預けて、外へと出て行った。




