第九話
レン達はソフィアが教えてくれた宿【月夜の羽】に入っていった。
「いらっしゃいませ〜。お食事ですか〜、それともお泊りですか〜?」
レンが扉を開けると、木で出来たコップを片手に三つ程持った少女から声を掛けられた。
「宿泊で頼むよ。一泊幾ら位になるかな?」
「ご宿泊ですね〜。一泊二食付きで、お一人様1000ジールとなります〜。」
少女は手早くコップをカウンターまで持っていき、レン達に返答する。
「そうか、じゃあ二人分で2000ジールだな。」
レンは腰に下げた袋から銀貨を2枚取り出して、少女に手渡すと、少女は受け取った銀貨を持って、カウンターの奥へと入って行くと、部屋の鍵を持ってくる。
「はい、じゃあこちらが部屋の鍵になります。では、直ぐにお部屋へとご案内させて頂いてもいいですか〜?」
「あぁ、それで構わない。アッシュも悪いけど部屋まで来てくれ、話がある。」
「ん?構わないぞ?」
レン達は少女の後をついて行き、案内された部屋へと入る。そこそこの広さの二人部屋である。部屋に入るとレンは椅子に腰掛け、アッシュにも椅子に座るように促す。
「それで、話ってなんだ?まさか実はレンが犯罪者で何かに協力しろって訳じゃないよな?」
「そんな訳ないだろ?話ってのは、パーティーの話だよ、確かアッシュは、あの森にパーティーで来たって言ってたよな?引き抜きって訳じゃないんだが、良かったら俺達のパーティーに入らないか?」
レンの話と言うのはアッシュに自分のパーティーに参加しないか、と言う事だった。
「あ?お前らだったらもっと強い奴と組めるんじゃないか?なんで俺なんだよ、まだEランクだぞ?」
「いや、強さも確かに大事だと思うよ。だけど、もっと大事なのは、そいつが信用できるかどうか、だと俺は思う。その点、アッシュは短い間だけど、一緒に居たしな。」
最初、話を聞いてアッシュは、レンがふざけているように感じていた。レン程の強さがあれば、もっと強いメンバーが集まるのは目に見えてわかるのだから。
だがレンはそれでも、短い期間でも共にしたアッシュを、信頼できる仲間だと思っている。
「そうか、まあ、俺としてはレン達とパーティーを組むのは願っても無い事だし、寧ろこっちからお願いしたいくらいだったからな。それなら、これからよろしくな、レン。」
そう言ってニカッと笑ったアッシュは、レンに握手を求める。ソレに応じるようにアッシュの手を取るレンは、悪戯な笑みを浮かべていた。
「ははっ、いいのか?リーダーがこんな世間知らずで、後で後悔しても知らないぞ?」
「はっ、何言ってんだよ、それに世間は知らなくとも、少なからず常識は知ってるみたいだしな。レン、お前の【インベントリ】って言ったか?その中にまだまだ、魔石や素材が入ってるだろ。あれはそんな素材を売りに出すとギルドが混乱すると思ったから、あれだけにしたんだろ?」
アッシュは肩で笑った後、レンが魔石をギルドに売った時の話を振り返る。
確かにあの時レンは、余計な荒事を避ける為にインベントリからはゴブリンとゴブリンリーダーのみの魔石を出していた。だがアッシュと出会った後に、倒している魔物もそれだけなので、まさか見破られるとは思わなかった。
「へぇ、よく分かったじゃないか。まぁ、金は必要だけど、こんなん出したらそれこそ混乱どころじゃないと思ったしな……。」
「待て待て待て、流石に俺もそんなのが出てくるとは思ってねぇよ⁉︎なんで、冒険者でも無かったお前が、ドラゴンの素材なんか持ってんだよ!」
レンが感心したように頷いて、インベントリからドラゴンの鱗を取り出して、テーブルの上に置くと、アッシュはテーブルから立ち上がったと思うと、片手を前に出してレンに問い詰めていた。
「流石、ご主人様なのです。凄いのです!」
「ラトちゃん!そんなレベルの話じゃないと思うんだけど⁉︎」
ラトがキラキラしたような目をレンに向けていると、アッシュが呆れた様な顔をしていた。
「あぁ、その辺の事も含めて、これからパーティーを組む事になる二人にはちゃんと俺自身の話をしようと思う。ただし、コレは他言無用で頼む。」
そう言ってレンは真面目な顔をして、アッシュとラトを交互に見る。二人もそんなレンの雰囲気を感じ取ると直ぐに頷く。そんな二人の様子を見たレンは二人に自分の事を話し始めた。
「まず、ラトから言われたのが、俺が【迷い人】じゃないかって事だった。これに関して言えば正直、似てはいるけど別物だと俺は思う。」
「えぇと、どういう事なのです?」
「いやいや、いきなり迷い人とか何を言ってるんだ?あれはお伽話じゃないか。」
レンの告白に、ラトが首を傾げて、アッシュは急に何を言っているのか分からないと言った様子だった。
「まぁ、アッシュからすればいきなり迷い人だと言われても訳が分からないだろうな。一応聞いてみたいんだけど、お伽話で話されている迷い人ってのはどんな感じなんだ?」
「は?あんなん子供の頃、大抵の奴は聞かされてるだろ?迷い人ってのは……そうだな、大体は記憶を失ってはいるが、何かしらの特別な能力を持っているって言う事と後、特徴的なのでは見た目はこの辺では珍しい黒い髪をしているって事くらいだろ?」
アッシュに聞いてみると、ラトから聞いたのと大差は無く、違いがあるとしたら黒髪だったという事だけだった。もしかして日本人なのだろうか。
「でもご主人様も、記憶を失くしているのですよね?インベントリと言う凄い能力もあるのです。やっぱり迷い人じゃないのです?」
「ああ…すまん、ラト。実は俺の記憶が無いって言うのは嘘なんだ。……まぁこの世界の記憶が無いって意味では概ね、あってはいるんだけど。」
何故だかレンの事を迷い人と信じて疑わないラトに、記憶があることを告げると、少しの間驚いていたが、直ぐに納得した様な表情になっていた。
「なぁ、前にも言っていたと思うんだけど、レンはたまに〔この世界〕って言うよな?それってどう言う意味だ?それじゃあまるで、レンが何処か別の世界から来たみたいに聞こえるんだけど……。」
「多分、他の迷い人もそうだと思うんだけど、こことは別の世界から来てると思う。俺の場合は少し異なるけど、迷い人は別の世界からの転移者なんじゃないかな?記憶が無いのは突然、転移したから自分が何処に居るかが分からなくて、周りがそう思ったんだと思う。」
アッシュはレンが前に話をした時〔この世界〕と言ったのをしっかりと覚えていたらしく、レンにどう言う意味かと尋ねていた。それに対してレンは過去にいたと言う迷い人は別の世界からの転移者だと思うとアッシュに説明する。
「だったら、レンが持っているインベントリって奴の中にある素材なんかは、どうやって手に入れたんだ?アレはこの世界の素材だろ?」
「アレは……説明しづらいんだが、俺の世界にはこう言う世界を疑似体験出来る遊具があるんだ。その遊具で出来る遊びの中にこの世界に似たものもあって、その時持っていた素材や武具なんかが何故かそのままインベントリに入っているみたいなんだ。……こんな感じでな。」
レンはインベントリから、昔自分が使っていた武具を見せて、またインベントリにしまう。
「じゃあ、レンは本当にこことは別の世界から来たって事なのか?」
「来たって言うと少し違うと思うんだよな。多分なんだけど、元の世界での俺は死んだんだと思う。その時に声が聞こえてきて、この世界に転生して来たんだと思う。」
レンは自分がこの世界に転生した時の事を二人に話す。こことは別の、平穏な日常を送っていたあの日までの事を、そして、気付けばあの森にいた事を、全て二人に話した。
「そんなこんなで、俺はこの世界に転生して来たって訳だ。まぁ、こんな話、信じられないだろうがな。」
そう言った後、レンはあの平穏な日常を思い出し、少し寂しそうな笑みを浮かべていた。
「ラトは……信じるのです、それにご主人様はご主人様なのです。」
「はぁぁ……、レンが冗談でそんな事を言うとは思えないしなぁ。」
ラトは少しの間考える素振りをしたが、相変わらずレンを信じると微笑むと、その横で深い溜息を吐いているアッシュがいた。
「さあ、どうする?王家にでも報告するか、アシュレイ王子?」
「ッ⁉︎知ってたのか⁉︎いつから⁉︎」
レンが悪戯っぽくアッシュの本当の名前を呼ぶと、驚愕の表情を見せるアッシュ。
「いつからって言うと、最初からだな。アッシュが名前を言い淀んだのが気になってな?悪いとは思いつつ【鑑定】を使わせて貰ったんだ。すまないな。」
「はぁぁ……、鑑定まで出来るのかよ。【迷い人】ってなんでもアリか?一応言っておくけど、俺は王位継承権争いから逃げて来たから、縁を切られてな。だから、もう王子なんかじゃないんだ、正式に発表はしてないから一般には知られてないんだけどな。」
アッシュがまた深い溜息を吐いて呟いた後、自分が王位継承権を捨て、冒険者になった事をレンに告白する。
「どうだ?王子じゃない俺とはパーティー組みたくなくなったか?」
「いや……すまん、試して悪かった。お前はお前だろ?そこが変わらなければ何も問題無いさ。」
今度は、アッシュが悪戯っぽく笑ってレンに言葉を投げかけると、レンも笑みを浮かべて両手を上げる。




