迷惑なパーティへの対処法
「アンケートの結果が出ました」
言って集計用紙をレドルリアは樹里に渡す。
樹里は、それを受けとると息を吐き出す。
ここ最近の悩みである、とあるトラブルについて早くなんとかしてくれという意見が多かった。
「いっそのこと蛍の光でも流すか」
用紙を見ながら、樹里は呟く。
悩み、トラブルの内容は魔王城を閉じたあとのパーティの来訪である。
基本的にパーティの受け入れ時間は、他の従業員の仕事もあるので午前は九時半から十二時、午後は十四時から十七時半までとなっている。
十七時半を過ぎれば城の周囲には結界が張られ、侵入できないようになっているのだが、たまに居るのだ。
それこそもとの世界で、開店閉店の作業中で店の周囲にバリケードをはって営業していませんアピールをしているにも関わらず、入ってくる迷惑で常識知らずな輩がいたのだ。
あんなのは客じゃない。
しかもゴネ倒して、捨て台詞を吐いたり脅してくる輩がいたのだ。
その客と同種と思われるパーティがある程度存在するらしく、主に夜間清掃と早朝清掃の従業員が被害にあっている。
そう、張ってある結界を無理やり抉じ開け、城に侵入。
玉座の間もそうだが、城を清掃してくれている彼らはそんなパーティと鉢合わせし、怪我をしてしまうという事が続いていた。
「それって閉店数分前の合図だろ」
何故か、この城に滞在することになったピンク髪の少女ーーエステルが言った。
「問題なのは、開店前にも迷惑なやつらがいるってことなんだよな?」
「向こうは世界を救う勇者様(一部除く)だからね。正義の味方は何しても良いって考えあれなんとかなんないものかな」
「元サービス業畑の人間からすると、あれか『俺は客で神様だ!』ってタイプにみえてたりするのか、よくいる理不尽なクレームつけるタイプ」
「ほんとそれ。理不尽クレーマーなんて死ねばいいのに」
と、そこで、樹里は閃いた。
「もういっそヤッちゃおうか! そうだ、それがいい!」
どうせ天界からの加護で召喚された勇者に関しては、それこそゲームのような仕様で復活が約束されている。
今までは加減して気絶させて身ぐるみを剥いでいたが、気絶させなければ良いのだ。
気絶させていたのにはもちろん理由がある。
即死させると、身ぐるみが剥がせないのだ。
とくに所持品、道具袋に入っているものなどは何もしなくても落ちるものとそうでないものがある。
回収できるものはすべて回収したいので気絶で済ませてきた。
「レドルリアさんの時はどうしていたんですか?」
気になったのか、ずっと黙っていたアルズフォルトが口を開いた。
「俺が魔王してた頃は、樹里様みたいにワンパンで倒すことが出来なかったんで、普通に息の根止めてました。
業務時間外の襲撃については、俺の時はここまで頻発していなかったので緊急の呼び出しをくらってから出張るってのを繰り返してました。
頻度としては年一回あるかどうかでしたね」
聞き捨てならない言葉に、樹里は目を丸くする。
「うそ」
「本当です。ただ東大陸の方だと毎日のようにそういった襲撃があったとか。今は、夜間魔王を置いて対処してると、この前の会議で報告がされてました」
「スーパーの夜間店長か!」
エステルがツッコミをいれた。
「東大陸だと頻繁なんだ」
言いながら、樹里はアルズフォルトを見る。
「フォル。この違いを説明して」
「おそらく、東大陸はわかりやすく言うとスタート地点として利用されることが多いからかな、と思います。
魔物の強さとか、諸々が初心者向きの大陸なんです。ちなみにこの南大陸は比較的上級者向けの大陸になってます。中央大陸についてはその地域によりけりですが、強くてニューゲーム向けの大陸になってますね」
「なるほど、つまり利用者の多い大陸にはそれだけ人が集中してると。
でも、なんで上級者向けで、今まで起こらなかったことが今起きてるんだろ?」
その質問のような呟きに、アルズフォルトが目をそらした。
「言え」
「うう、それは樹里さんが」
言いにくそうに、アルズフォルトが説明する。
「私が、なに?」
「問題行動のあるパーティだけじゃなくて、健全なパーティも潰してるからですよ!」
「はい?」
「私達の仕事は、そもそも問題のあるパーティを潰すことでした。でも、ここに挑戦しにくるパーティの中にはシナリオ通りにきた人達もいたんです。
でも、見境なく樹里さんってば瞬殺してて」
そんな事が繰り返されたため、南大陸の魔王の価値が上がったらしい。
倒しにくいというのは、つまりそれだけ倒した時の恩賞にも影響が出てくるのである。
しかし、樹里は引っかかりを覚えた。
「おい、ちょっと待て、聞いてないんだけど?
天界からは、ノルマのパーティに関してしか連絡きてないんだけど?
それで、受付とか調整してたんだけど?」
「えっと、そのえっと」
「どっかで連絡が滞ってるな。それとも、フォル何か隠してない?」
「あうあうあう!」
「報連相!」
「すみません! 先輩達の派閥争いに巻き込まれました!」
泣きべそ顔でフォルは樹里を見た。
樹里は、笑顔のまま【魔神域の英雄】を発動させ、アルズフォルトの神気を喰らい始めた。
基本不死である神族に対してこのスキルを使用した場合、使用者が神族よりもレベルが低い場合は何も起こらない。
しかし、レベルが高い場合、人間で言うところの体力や気力を喰らうことができる。
「ふ、ぁ、や、イヤ、樹里さ、ンン!」
体の力が抜け、アルズフォルトはその場に崩れ落ちる。
「お、ま、え、はぁぁああああああ! なんでそう言うことは早く言わない!?」
「うう、うぁ、あああああああああ!」
そして、神気を一気に搾り取り喰らわれてしまいアルズフォルトは失神してしまった。
「なんかエロいな」
楽しそうに呟くエステルを樹里が睨みつける。
その横で、
「すみません、ちょっとトイレ行ってきます」
何故か前屈みになって、気まずそうにレドルリアが執務室を出ていった。
「このアホ女神は、たくもう!
あれだけ報告しろって言ってんのに!」
「つーかさ、冷静に対処するのが上の勤めじゃなかったっけ?」
エステルが言った。
樹里は、気絶しているアルズフォルトを軽く足で小突いて返した。
「このアホはこれが初めてじゃないから」
さすがに、怒鳴らずにはいられなかっただけだ。
エステル「なんつーか、声がエロい」